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転生勇者vsモブパーティー②

「でも、じゃあ、魔王はちゃんといるってことですもんね。僕がそれを倒すっていう展開も、ありってことですよね」


「いやあ~~、それはどうかな」


 ノブは腕を組んで、難しい表情を作る。


「実は最近、いかにも光の勇者っぽい剣士ウィルフリードって少年が出てきちゃって……パーティーメンバーの個性とキラキラ感からいっても、魔王を倒すのは彼らじゃないかな」


 またショックを受けるかと思ったが、サトルはキョトンとした顔で口を閉じただけだった。

 ノブとテリーとヴェンガル、それぞれを不思議そうに一瞥いちべつし、少し考えてから、再び口を開く。


「そこは『魔王を倒すのは俺たちだ』でいいじゃないですか。何で光の勇者が出てくるんですか」


 やれやれ、まだわかっていないか。その質問に答えるべく、ノブは重ねて説明する。


「俺たちはほら、見たらわかると思うけど、お手本みたいなモブだから。いま抱えてる問題は魔王より死亡フラグをどうするかってことで―――」


「え、魔王より死亡フラグですか?」


 弱弱しく振る舞っていたサトルの目つきが、急に冷たくなった。ノブを睨みつけながら、フンッと鼻を鳴らす。


「死ぬの嫌だから魔王城へは行かないって、それって冒険者としてどうなんですか?レベル上げた意味あります?」


 い、痛いところを突かれた……


「いや、あの……ほら、もちろん魔王を倒したいって気持ちはあるけどさ、命を粗末にはできないから。

 モブなりにどうすれば最良のルートが拓けるか、いま模索中で……」


「最良のルート?そんなの、モブとか主人公とか関係なく、魔王を倒して世の中に平和を取り戻すしかないでしょ。それが唯一のゴールなんじゃないですか」


 歯切れの悪いノブに、サトルは怯まず応戦してくる。まるで人が変わったようだ。


「ノブさんのおっしゃる通り、命は大切なものですよ。だからこそ戦う力を持っていない弱い人達の、かけがえのない命と幸福な暮らしを守るために、自身は死を厭わず戦いの場に臨むっていうのが真の冒険者の在り方でしょ。


 さっきみたいに、大きなドラゴンをチート技なしでも倒せるくらいレベルの高いあなた方なら、すぐにでも魔王城へ行って戦いに身を投じるのが筋ってもんじゃないですか?


『魔王を倒すのはキラキラした他のパーティーだから、どうせ自分らじゃ行っても死ぬだけなんで、行きません』なんて言い訳にすらなってないと思うんですけど。


 もう魔王城に入って戦ってるパーティーの方々に、申し訳ないと思わないんですか?」


 ド正論だ……


 言い分が真っ当すぎて、まったく反論の余地が無い。今さっき転生してきた若者にガチ説教食らって、五年以上冒険してる大人が言い返せないんですが。


「すみませんでした……」


 すっかり戦意喪失して深々と頭を下げるノブとテリーだが、サトル少年の態度は変わらず冷ややかだ。


「僕に謝ってどうするんですか。今現在も魔王城で戦ってる、真の冒険者の皆さんに謝ってください」


「真の冒険者の皆さん、すみませんでした!!」


「謝ってんじゃねえーーーー!!!」


 見かねたヴェンガルが、大声で割って入った。


「別に謝らなきゃいけねえこと、何にもしてねえだろうが!!あんな、今さっき冒険始めたようなヒヨッ子の言うこと、ホイホイ真に受けてんじゃねえよ!!」


 ヴェンガルの意見ももっともだが、論破されてショックを受けている二人にはなかなか響かない。


「だって先輩、ド正論ですよ!?」


「ぐうの音も出ねえよ!!」


 涙目で訴えてくる二人に見切りをつけて、ヴェンガルはキッとサトルを睨みつけた。


「おいこら、転生小僧!ド素人が知ったような口きいてんじゃねえぞ!どのタイミングで魔王城に入るかなんてのはパーティーによって違うんだ。


 100のパーティーがあれば100通りの冒険があるんだからな、他人のやり方に口出ししてくんじゃねえぞコラ!!」


 怒鳴られても今度は怯えたりせず、サトルはニヤッと笑う。ひ弱そうだが、根性無しではないようだ。


「あーらら、甘やかしますねえ……そんな都合のいいタイミングなんて、この先にあるんでしょうかねえ?」


「……何だと?」


 サトルの話しぶりに不快なものを感じ、老剣士は大声で責めるのをやめた。

 ヴェンガルのことも論破できると踏んだのだろう、サトルは調子づいてべらべらと喋り出す。


「光の勇者だか何だか知らないけど、後輩に恐れおののいてるような人達が、魔王を倒して冒険者の頂点に立つなんてこと出来ると思えないんですよ……


 あなたも本音ではそう思ってるんじゃないですか?このパーティーじゃ、魔王なんか絶対倒せないって。

だから魔王城へ行こうにも行けな―――おわああ!!」


 突然に転がり出た悲鳴によって、終わりの言葉はかき消された。サトルが持論を締めくくる前に、ヴェンガルが凄まじい速さで斬りかかったからだ。


 常人なら叫ぶ間もなく一刀両断にされていただろう、神技というべき一撃だったが、身体能力が上がっていたおかげで、すんでのところで避けることができた。


「ちぃ……外したか」


 剣を構え直すヴェンガルに、サトルは怯えを悟られないようめいっぱい強がってみせる。


「そ、そんな脅しは通じませんよ!冒険者の敵はモンスターか魔族でしょ!人なんか殺せるわけが―――」


「さっきの話は聞いてたろ、俺ぁ外の大陸で何年か傭兵やってた。そこには魔族もモンスターもいなかった……」


 奇妙に抑揚のない、静かな声で、老剣士は語る。


「そんな状況で、一度も人殺しせずに済んだと思うか?」


「!?」


「俺の手は戦場の血と泥で汚れきってんだよ―――今更、夢枕に立つ亡霊がもう一人増えたところで……何とも思わねえな」


 地の底から響いてくるような重く低い囁き、剃刀のように鋭い目つき。あまりに凄まじい気迫に圧倒され、周囲の空気が凍りついたように感じる。


「ハーレムでも無双でも好きなだけやってやがれ……あの世でなァ!!!」


 本物の殺気を食らって竦み、蛇に睨まれた蛙のごとく動けなくなったサトルに、ヴェンガルは勢いをつけて躍りかかる。


「あああああ゛ーーーー!!先輩、ストップ!!ストーーーップ!!!」


殺人それだけは、それだけはぁああ!!!」


 口々に絶叫しながら、ノブとテリーがヴェンガルにしがみついた。

 渾身の一撃を止められたヴェンガルは、両腕を抱え込まれてもなお、剣をふるうべく全力で暴れもがく。


「止めるんじゃねえよテメエら!!このガキ、もう一回転生させてやらぁ!!」


 ここで離せば確実にサトルの命は無くなるのだから、取り縋るノブも必死だ。


「落ち着いて、落ち着いて先輩……うわああムリムリ、力が強い……テリー、鎮静剤!!鎮静剤ーーー!!」


 指示を受けて、テリーは腰に下げている小物入れの袋を探り、小さな円錐状のお香を取り出した。


 ユーカリの成分を練り込んである、とっておきの高級品だ。上質なだけあって、火をつけずとも爽やかで馥郁ふくいくとした香りが辺りに漂う。


 暴れているヴェンガルの鼻に近づけると、動きが止まった。戦いに備えて緊張していた筋肉が緩み、顔つきも柔和になる。

 剣を握る手がだらりと垂れ下がったところで、テリーがお香を渡すと、目を輝かせてクンクンと嗅ぎ始めた。


 さすが予約がいっぱいのお香マイスターに受注して作ってもらった逸品、どうやら最悪の事態は防げたようだ。


 この騒ぎでドン底から少しは浮き上がったノブは、ヴェンガルがユーカリの香りに夢中になっている間に、サトルへ厳しい視線を投げかける。


「ちょっと君も言い過ぎだぞ!先輩が怒るのも当たり前だ、いくら若いからって、もう言っていいことと悪いことの区別くらいはつく年齢だろ。


 積極的に意見を述べることは大事だけど、発言する時は内容をもう少しよく考えてから―――」


「るっせ~~~~!!ちょっと冒険歴が長いからって、先輩面すんじゃねえよ、モブパーティーが!!!」


 殺されかけたことでテンションが高くなっているものか、サトルは最後まで聞かずに怒鳴り返してきた。


「運が低いから何だっていうんだよ、僕はステータス値MAXの転生勇者だぞ!!魔王を倒すのは絶対、この僕に決まってる……


 お前らなんか、魔王城へ辿り着く前に全滅するか、評価依存に陥って更新止まってエタって終わりだ!!バーカ!!バーーーーカ!!!」


 さっぱり意味のわからないことを叫びながら、サトルは走り出す。

 バカ、というわかりやすい罵りに反応して、我に返ったヴェンガルが、怒りのままにサッと剣をふるう。


「まだ言うか、このガキゃあ!!」


 離れた相手にダメージを与える斬撃、『燕尾斬り』を繰り出すも、サトルが転送魔法を使うほうが速かった。足元がぽうっと白く光って見えた次の瞬間にはもう、彼の姿は消えていた。


「くそっ」


 まんまと逃げられてしまいヴェンガルは悔しそうだが、まあこれで良かっただろう。


 どこへ行ったか知らないが、新しい仲間と出会って、楽しい冒険ができるといいね。

 あの性格だと、ちょっと難しいかもしれないが……まあ頑張れ、転生勇者!!



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