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夜道の愚痴①

 ***


 ムッとした熱気と喧騒から解放され、心地のいい夜風の吹く道を、ノブ一行は無言で歩く。


「あの連中さあ……」


 酒場を出て十分な距離を取ったところで、アキナが口を開いた。


「立てまくってたよね、死亡フラグ」


「お、さすがにお前も気づいたか」


 嬉しそうなノブに、アキナは頷いてみせた。


「だんだん理解わかってきたわ。

『魔王を倒すのは俺たちだ』とか『この戦いが終わったらプロポーズするんだ』とか、ああいうのって要するに、

 “先輩より出世したエリート後輩刑事が、「どうしても話しておきたいことがあります」って相談してくる”みたいなもんね」


 そういえばこいつ、刑事ドラマが大好きだったっけ。

 先輩刑事に相談する前に変死体で発見される若い刑事を想像しながら、今度死亡フラグについて話し合う時は、そういう方向のストーリーも用意しておくかとノブがつらつら考えていると、アキナは不機嫌そうな顔をして別の話題を切り出してくる。


「それにしても、失礼な奴らだったわよね!何なの、あの上から目線……

 ヤマネズミすら倒せないくせに!」


 横で聞いているテリーが、頷いて同意を示す。


「たしかに。ヤマネズミ五匹くらいなら、さすがに俺一人でも倒せるわ」


 二人の言う通り、ヤマネズミもモンスターに違いないが、ここへ来るまでに順当に経験値を積んできた冒険者なら、それほど苦戦する相手ではないはずだ。


 デイビットのパーティーと出会ったのは、まったくの偶然だった。

 モウグス村で小さな診療所を営んでいる、顔なじみのお爺さん先生が、メイウォーク市へ薬草の買いつけに行きたいということで護衛として雇われ、送っている途中にデイビットたちが戦っている現場に通りかかったのだ。


 ピンチのパーティーを見かけたら、できるだけ助けに入るのが冒険者の心得ではある。

 でも相手はヤマネズミだし、むやみに手を出さないでおこうと思ったのだが、どうも押されている。


 まあ何か作戦があるかもしれないし、としばらくは見守っていたのだが、いよいよメンバーの息が切れ、敗色濃厚になってきたので見兼ねて助けたというわけだ。


 結果、感謝されて一緒に飲むことになったのだが、最初から最後までノブたちより自分たちのほうが強いという前提で話すものだからモヤッときた。


 ノブたちがヤマネズミに勝てたのは、優れた武器を持っているからだと思っているようだったが、そういう問題じゃないのだが。

 ヤマネズミくらい木刀でも倒せるし、アキナなら素手でいけるだろう。


「せっかくノブさんとテリーさんが、レベル上げのアドバイスしてあげてたのに、ぜーんぜん聞いてなかったですよね」


 前衛ではないミアにも、連中の実力の程度はわかったのだろう。

 助言なんか必要ないとキッパリ言い切っていた尊大な態度を思い出して、不快そうな顔をしている。


 だが彼女が怒っているのは別の理由もあるようで。


「それにあの、マリンって白魔道士……ずーっと恋バナしてきて困りました。

 他の話題をふっても、すぐに自分の話に切り替えちゃって、彼氏デイビットとどこに行ったの何を買ってもらっただの……


 お前の恋愛事情になんか1ミクロンも興味ねえんだよ!

 脳味噌のかわりにカスタードクリームでも頭に詰まってんのかスイーツ!

 化粧濃いし香水臭いし、毛虫みたいなつけ睫毛しやがってクソ○ッチがよお!!」


「ミ、ミアちゃんその辺で……」


 どんどん声が大きくなり、顔つきも般若へと変わっていくミアをたしなめるも、ノブとて不愉快に感じたことはあった。


「俺が気になったのはあれだな。あのデイビットってリーダーさ、悪い奴じゃないとは思うんだけど、ヴェンガル先輩が喋るたびに笑ってただろ?あれ、すごい嫌だった」


「それな!!」


 アキナ、テリー、ミアの声が重なる。三人もずっと、ノブと同じ気持ちでいたのだ。


「何があんなに可笑しいっていうの?人間性うたがうわ」


「ああいう、ヒト型じゃないからって態度変える奴、俺ほんと許せねえ。

 自分がどんだけ偉いと思ってんだよ!」


「サルから進化してないですよね……他人のこと不当に馬鹿にしないだけ、おサルのほうがずっとマシ」


 怒り心頭なメンバーたちだが、当のヴェンガルはどこ吹く風だ。


「まァそんなに怒らなくてもいいぞ、俺ぁ慣れてるからよ。許してやんな」


「許しません!!!」


 四人の声がぴったり揃い、ヴェンガルは苦笑する。


「はは、本当にお人好しだな」


 自分は平気だからいいのに、とは思うが、同時に嬉しくもある。

 改めてこのパーティーと冒険できて良かったと思いつつ、ヴェンガルはテリーに顔を向ける。


「ところで、テリーよ。例の件はどうだった?」


「あ、はい。バッチリですよ」


 テリーは自信満々に、右手の人差し指と親指を使って○印を作る。

 そういえば酒の席で、ヴェンガルはテリーに何か耳打ちしているようだった。


「例の件って?」


 ノブが問うと、テリーは自分の目を指し示しながら答える。


「俺のスキル『あばく』でデイビット一行を見てみたんだよ」


『あばく』といえば相手のHPや攻撃属性、弱点などステータスを確認できる便利スキルだ。

 初めて遭遇したモンスターと戦う時や、戦闘が長引いた時には非常に役に立つ。


「そしたらビックリ、あの連中の平均レベル、52くらい!

 一番高いのはリーダーの戦士だけど、それでも55だった」


「……なるほど、ヤマネズミにも勝てないわけだわ」


 アキナがぼやいたのも無理はない。よくここまで来れたな、とノブも思ってしまう。


 ノブたちが初めてメイウォーク市に来たときは、確か平均レベルは65くらいだった。

 もうだいぶ魔王城に近いのだから、他のパーティーだってそれくらいだろう。


 それから市内でクエストを受けたり、素材集めも兼ねて狩りをしたりして、次の村へ移動すると決めた時には平均レベル73くらい。

 その頃にはもう、80を超えたら魔王城へ入ろうという相談はしていて……まあ、それは置いといて。


 テリーの報告を聞いたヴェンガルは、やれやれと肩を竦めた。


「そんなことだと思ったぜ。あのリーダーにも剣士にも、剣だこが一つもなかったからな」


 ノブは反射的に自分の手を見る。


「そういえば、俺の手ボコボコだ」


 つられて、テリーも自分の両手を確認する。


「俺も。ノブほどじゃないけど、多少はダガーとか使うから」


 欠かさずにやっている毎日の稽古と、実戦を繰り返した結果である。

 どんな武勇伝よりも宛てになる、死線を乗り越えてきた戦士たちの証だ。


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