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DM男に注意!②

 

「実は最近、リアルでも仲良くしてるヲタ友達に彼氏ができて、こっちの活動にぜんぜん顔出してくれなくなって――

 まあ、それはいいんですけど、やたら上から目線で『アンタも恋人作らなきゃダメ!!』ってメッセージ送ってくるから、ちょっと焦っちゃって……

 恋愛ってそんなにいいモノなのかなって、少し興味も湧いたし」


 なるほど、ミアくらいの年頃の女子なら、恋人がいる子といない子では、まるで世界が違うような感覚になってしまうのだろう。

 せっかく話しづらいデリケートな悩みを打ち明けてくれたのだから、ノブもふざけずに答える。


「確かにその友達の言うこともわかるし、最近はソシャゲ婚とか恋活アプリとかあるから、ネットを通しての出会いもアリだとは思うけどね。

 ただそういうのも相性とタイミングが大事だからさ、相手になる人のことは慎重に見定めてほしいかな。

 焦って変な奴に引っかかって、酷い目にあってからじゃ遅いからね」


 ノブの言葉に耳を傾けつつ、ミアがまじまじと見つめてくるものだから、急に気恥ずかしくなって頬を掻いた。


「ごめん、俺こそ上から目線だったかな」


 ミアは首を横に振った。ちょっと嬉しそうな顔をしている。


「いえ……反対されるだろうなとは思ってたんですけど、

『モブキャラが恋なんかしたら、それこそ死亡フラグだから!!』って流れに持ってかれるかな~~なんて予想してたんで、ちょっと驚いちゃいました」


 似てない物真似を挟んで茶化しつつも、真剣に考えてくれているのが嬉しかったのだが、


「ああ、勿論それもあるよ」


 ……あるんだ、やっぱり。


「でも、そのDM男は論外だ。もしストーカーとかされたらすぐ相談してくれ。

 俺と先輩とテリーで、話をつけるから。いっそ死んだ方がマシだって目に逢わせてやる」


 憤りつつも、あえてアキナの名前は出さないようにした。

 もしそういう展開になったら、本当に相手を殺しかねないからだ。

 ノブが本当に自分のことを大切に思ってくれているのが伝わって来て、ミアは嬉しそうに笑う。


「うふふ、頼もしいですね。さすが、私のお兄ちゃん!!」


 これにはノブも笑ってしまう。


「よせよ、照れるな~~」


 ひとしきり笑いあった後、ミアの顔には晴れやかな表情が浮かんでいた。


「はあ~~、相談して良かった!考えてみたら私にはアリ様がいますから。

 彼氏なんていなくてもいいーーんだっ」


「アリ様……?ああ、ウィル一行の新入り黒魔道士か」


 ブロマイドの端麗な姿を思い出し、ノブとヴェンガルは顔を見合わせて苦笑する。

 やっぱり美形には敵わない。


「なんだ、もうすっかりファンになったって感じだな」


 ヴェンガルがからかうと、ミアはにっこり笑って頷いた。


「はい~~、ファンっていうか、ちょっと違ってぇ」


 ふと、ミアから漂う空気が変わった。口元から笑みが消え、声に緊張感がこもる。


「推し、ですね」


「……!?」


 奇妙な威圧感に気圧されて返事もできないノブだが、ミアの口からはすらすらと呪文のごとく言葉が流れ出す。


「存在が尊い。アリ様がこの世に誕生してくれたっていう事実がもはや奇跡。

 同じ時代に生まれさせてくれたことを毎日、神に感謝せずにいられない」


 抑揚をつけず低い声で喋る、これが本当にミアなのか……。

 何か悪いモノが取り憑いてしまったのではないか……。

 まあ憑いてるっちゃ憑いてる状態だけれども……。


 アリオンの名前が出たことで、可愛い白魔道士から深淵に沈んだヲタクへスイッチが切り替わったらしく、ミアはくるりと回ってこちらに背を向けた。


「さーて、12月には早くもオンリーイベントあるし、いっぱいモンスター倒してお金稼いでおかなくちゃ!

 フォローしてる神絵師さんがウィル×アリで初CP本出してくれるし、ヤバいヤバい、今から楽しみすぎる」


 鼻歌交じりで去っていくミアの意識には、もはやDM男はおろかノブとヴェンガルのことも無いだろう。

 ミアの姿が見えなくなると、ヴェンガルはノブのほうへ顔を向けた。


「最後までよくわかんねえ娘だな。解決したってことでいいのか?」


「あ、はい、もう、大丈夫です。沼にはハマっちゃってるみたいだけど……」


 ノブ自身は平和主義だし、他人の趣味には寛容なタイプのオタクだからモメたことはないが、ミアのようにあっち方面の沼に自ら沈んでいった方々と問題を起こすと大変な事態を招くことくらいは知っているので、口を閉ざした。

 沈黙は美徳だ。


「あ、ちょっとミア!」


 廊下のほうからアキナの声がした。壁で遮られていて見えないが、ミアと行きあったのだろう。


「さっきのDM男はどうした?ちゃんと断ってブロックした?」


「はい!おかげさまで目が覚めまして……ノブさんにも相談しました。

 もし変なことしてきたら、皆でやっつけてくれるって!」


「そう、ならいいわ。シメる時は私も呼んでよね」


 ボキボキと恐ろしい音が響く。アキナが拳を握り合わせ、関節を鳴らしているのだ。


「二度と妙な真似できないように、ミンチにしてやる」


「キャーーッ!アキナさん、かっこいい!!」


 終わった……DM男に死亡フラグが立ちました……


 今までに女子メンバーにちょっかい出してきた男たちの悲惨な末路を思い出しながら、ノブとヴェンガルは静かに合掌する。





※推し/オンリーイベント/CP本/沼……世の中には知るべきことと知らなくてもいいことがあって、これらの事項はたぶん知らないほうがいい方もいると思うので、検索するときは自己責任でお願いします。


ん?この単語わからない人いるの?と思ってしまった貴腐人の方々へ……

よくわかんないんですけど、ミアがハマった沼はアリ様総受けです。

年下攻めが好きなのでウィル×アリ推しですがCP固定しない雑食タイプなので基本なんでも好物だけどケッジ×アリ、てめえはだめだとか何とか主張しています。よくわかんないんですけどね。



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