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夜が明けまして。

 ***


 翌朝、妙な夢を見たせいか、アキナはいつもよりだいぶ早く起きてしまった。


 まだ六時だがせっかくいい天気で、気持ちのいい朝だ。

 ちょっと走り込みでもしようと着替えて階下に降りていくと、食堂の前でノブと出くわした。


「あら早いわね」


「そっちこそ。俺はいつもこの時間だ」


 そういえばノブはいつでも、パーティー一番の早起きだ。

 どこまでも真面目な男の手には、木刀が握られている。


「朝日の射す中で素振りしないと、一日が始まらない」


「……なるほど、熱心ね」


 リーダーの鑑といったところだが、きりっとした横顔を見ていたら、ちょっとからかいたくなってきた。


「あんた昨夜さあ、あたしに花嫁衣装着せるとか言ってなかった?」


 途端に、ノブの顔が赤くなる。


「あ、あれは成り行きというか……物語に深みを持たせるための設定というかだな」


 しどろもどろに言い訳するノブを、アキナはニヤニヤと笑いながら眺める。


「成り行きねえ……そんなんじゃ着てあげられないわねえ」


「べ、別に着てくれとは言ってないだろ」


 条件次第では着てもいい、とアキナが言外に伝えていることにノブは気づかないし、決して着てほしくないわけではない、とノブも伝えていることにアキナは気づかない。


 ちょうど起き出してきたヴェンガルとテリーが、二人の様子を温かい目で見ている。

 もういいから付き合っちゃえよ!!という気持ちが七割で、あとの三割はウゼぇ爆発しろと思っている。


「もういい!!素振りに行く!!」


「あたしも走りに行こうっと」


 無自覚な仲良し幼馴染み二人が宿を出ようとした時、受け付けフロントのほうからミアが走ってきた。


「皆さん、ちゅうもーーく!!冒険者の友10月号が届いてましたよ!!」


 朝からテンションの高い彼女の手には、例の雑誌があった。

 今月号の表紙は垂れ耳ウサギの獣人娘が可愛いワンピースを着て、キノコや栗が山盛りになった籠を持って微笑んでいる、秋らしいデザインだ。


「ウィルフリード一行の続報が載ってます。

 サン・ファンス市で起こった市民連続行方不明事件を追ったら、黒幕は市長で、その正体は何と魔王直属の上級魔族!!


 危うく生け贄になりかけた人々を救出してニセ市長の正体を暴き、見事解決したそうです」


 せっかく朝を迎えて良くなっていたアキナの気分も、この報告には下がってしまう。


「どこ行っても特別なイベントが起きるのね……へこむわ」


 無理もない。

 ノブ一行とて当然その街は訪れているが、覚えていることといったら街中に敷かれた石畳とその上を優雅に走る馬車、レンガ造りの建物が並ぶ街並みが、まるで童話の世界に迷い込んだようでロマンチックだったこと。


 そして名所として推している時計台のグッズが街中どこでも売っていて辟易(へきえき)したことと、その時計の鐘がものすごい大音量で鳴るものだから一時間ごとにイライラしたことぐらいだ。


 沈むアキナと違い、ミアは興奮している。


「それで、なーんと!この事件が縁で、一行に新メンバーが加入しました!!」


「なにぃ!?」


 さっそくノブが大きく反応する。


「新メンバーか……サン・ファンス市の位置関係と冒険者の平均レベルを考えると、タイミング的には最初の中ボスを倒す辺り……なるほど、ニセ市長が中ボスというわけか」


 独り言に近いノブの言葉に、テリーがハッと顔を上げる。


「奴は四天王の中でも最弱……ってやつか。コミックスなら7巻くらいだな!?」


 そうそう、とノブは喜ぶが、やっぱりアキナには何のことやらさっぱりわからない。


「どんな奴だ!?」


 ほぼ同時に詰め寄ってきたノブとテリーに、ミアは嬉しそうに雑誌を開く。


「それが、すごーーく格好いいんですよ!!ほら!!」


 ミアが見せてくれたページには、真っ黒いローブを着た気難しそうな青年が、腕を組んでこちらを睨みつけているブロマイドが載っていた。




 ***


 アリオン・イグレイシア(21)/黒魔道士

 漆黒の髪に真紅の双眸を持つ、頭脳明晰な青年。

 邪教の神の力を借りた強力な攻撃魔法を得意とし、ナイフやダガーなど軽い武器も扱える。

 口が悪くグウェン以上に他人を信用しないため周囲に壁を作っているが、旅を共にするウィルにはだんだんと心を開いていく。

 その正体と目的には謎が多い。





 ***


「ね~~、カッコイイでしょ!?」


 満面の笑みのミアだが、アキナは首を傾げてしまう。


「うーーん、確かに顔はいいけど……ちょっと怖くない?口も悪いみたいだし」


「そこがいいじゃないですか。黒魔道士っぽい、ダークな感じ」


 キャッキャと他パーティーの一員を値踏みする女子たちの横で、ノブの様子がどんどんおかしくなっていく。

 顔からは血の気が引き、体は小刻みに震え出す。


「美形で毒舌な黒魔道士……しかもぷんぷん匂うBL要素……完璧だ、完璧な布陣……

 ますます隙のないパーティーになりよった…………」


 途轍もない絶望に襲われ、ノブは膝から床に崩れ落ちる。


「もう駄目だ、俺らみたいなモブパーティーに勝ち目はない……やっぱり全滅だああ」


「ノブ!!」


 男子メンバーはすぐさまリーダーのもとへ駆けつけ、一緒になって嘆き悲しむが、もうノブの絶望っぷりになど慣れてしまった女子二人は雑誌を読みながら楽しげにお喋りを続ける。


 七時ちょっと過ぎに朝食の準備をしに来た従業員のおばちゃんに追い出されるまで、その状態は続いたのだった。


 



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