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第一回宿屋会議⑤(お開き)

 ***


 アキナの咽喉から絞り出された魂の叫びによって、デス・ビジョンは中断された。


 今回のパターンでは名前も出てこなかったアキナは、凶暴さを剥き出しにした顔つきで容赦なくノブの胸倉を掴み、ガクガク揺らす。


「あいつが祈ったところで何になるっていうんだコラ!!

 ……っつーか、途中からパターン2のコピペじゃねえか!!ちゃんと書け!!」


「う、うるさい、コピペの何が悪い……大人は忙しいんだ!!

 数行くらいごまかしたって許してほしい!!」


 ノブもこう言っているのでご了承いただきたいところだが、アキナの怒りが収まる様子はない。

 ノブの背後に回り、チョークスリーパーで締め上げる。


 白目をむいてギブギブと叫ぶノブ。いつもならヴェンガルが止めに入るところだが、暗い表情で見つめるだけだ。


「……そのパターンでも俺は生きてるんだな」


 意識が落ちそうになりながらも、ノブはヴェンガルに気の毒そうな目を向ける。


「ま……魔王との最終決戦前には……どうじでもHPMP全回復しておぎたいでずからね。

 先輩には……と、ど、扉の前に居でもらわないど」


「テントか俺は。お前らが全滅したら、引退して民宿でもやろうかな」


 やけくそになったヴェンガルは軽口を叩くが、ミアとテリーにそんな余裕はなく、打ち沈んで言葉もない。

 しばらく考える素振りを見せた後、おもむろにテリーが手を挙げた。


「俺、パターン2の死に方がいいな」


 その意見に、私も!と挙手してミアも乗っかる。


「どうせなら活躍してから散ってゆきたいです」


「……死ぬ前提で話を進めるんじゃないわよ」


 二人のネガティブさに呆れ、やる気を失ったアキナが腕を外すと、ノブはミアとテリーに顔を向ける。


「アキナの言う通りだ、諦めるな!俺は別に、死に場所を選んでもらうために相談した訳じゃないぞ。

 みんなで生き残るルートを探るために話し合いたいんだ!」


「あんた、誰のせいでこんな空気になってると思ってんのよ……」


 アキナの突っ込みはもっともだが、それでもノブに檄を飛ばされ、ミアとテリーは少し持ち直したようだ。

 縋りつくようなミアの視線が、ヴェンガルに注がれる。


「先輩は、サブキャラクタ―だから死亡フラグに耐性があるんですよね?

 私たちも同じことが出来ませんか?」


「うん、それは俺も考えたんだよな」


 答えたノブの顔には、あまりいい返事は期待できない難しい表情が浮かんでいる。


「筋金入りのモブキャラである俺たちがサブに昇格するには、かなりのイメチェンが必要だが、下手にテコ入れしたところで、ただの痛い奴に成り下がるだけだ。


 せっかく真面目にやってきて、優秀なパーティーになれたのは間違いないんだからそれは避けたい。


 あとは反則技だけど、

 “主人公パーティーに迷惑をかけるが、トドメを刺されるまでもなく見逃される小悪党”っていう逃げ道が、あるにはある」


 小悪党という単語に不快感を覚え、アキナは眉をひそめる。


「何それ?具体的にはどーするわけ?」


「そうだな、主人公パーティーの名を騙る偽物になって、彼らの手柄を横取りするとか」


 ノブがウィル、アキナがセルビー、ミアがセリーナ、テリーがグウェン、そしてヴェンガルがケッジに、髪型と服装を真似て不敵に笑っているイメージ図が、以心伝心によって全員の意識に共有される。


 本家と似ても似つかないのは言うまでもないし、みんな物凄い悪人面にデフォルメされていて、醜悪きわまりない。


「しょうもない下級魔族と組んで勇者詐欺してみるとか」


 今度は、バイキンみたいな古くさいデザインの魔物がおざなりに村を襲い、それをノブパーティー五人で適当に追い払っている図が送信される。


 コスチュームこそ変わっていないものの、やはり五人ともいやらしい悪人面になっている。

 これには皆が拒否反応を示した。


「絶対イヤです、そんなの!!」


「俺もだ!!人様に迷惑かけてまで生き延びようとは思わねえ!!」


 善良な白魔道士であるミアはともかく、盗賊を生業にしているテリーが(いきどお)るのはいかがなものかと思うだろうが、彼の場合は戦闘中のモンスターからしか盗まないのでセーフである。


 ただし旅の途中、冒険者が開けてもいい宝箱と間違えて、個人資産の金庫を開けてしまい、厳重注意を受けたことはある。


「そう言うだろうと思った」


 困った顔で頷くノブは、どこか嬉しそうだ。


「君たち、性格が良すぎるんだよ。ほんと、絵に描いたような善良なモブパーティーだよ、ウチは。

 まあ、だから今まで大変なことがあってもやってこれたんだけどさ、もう~~、八方塞がり!!」


 お手上げ、とばかりに、腕を組んで天井を仰ぐ。


「故郷に帰ろうにも、途中で主人公パーティーと遭遇したら、また別のバッドエンドルートに入っちゃうだろうし…

 どうしたもんかなあ」


 魔王城攻略を断念し、故郷へ戻る帰路の途中で主人公たちと出逢い、自分たちが成し得なかった夢を託し激励した後、ほどなく謎の魔族に襲われて全滅する……


 という流れのデス・ビジョンが、さーっとメンバーの頭の中で上映された。

 ノブがあまりストーリーを熟考していないようで、ほんの短いダイジェスト版だった。


「魔王より厄介だわね、ウィルフリード一行」


 ひとつ大きく溜め息をついて、アキナはノブを見る。


「あたしは帰郷だけはナシだわ。せっかくここまで来たんだもの、魔王城には入りたい」


「俺も同意見」


「私も」


 テリーとミアが口を揃えると、ノブは頭を抱えてしまう。


「ほらまた八方塞がり~~。俺だって行きたいよ魔王城。できることなら魔王、倒したいよ」


 出口のない思考回路に迷い込み、うんうん唸るノブに、


「……ちょっと根を詰めて考え過ぎじゃねえか?ノブ」


 ヴェンガルが助け船を出す。


「正直に言うとな、俺ぁお前らが全滅することはないんじゃねえかって思ってる。

 はっきりした根拠とか確証はないけどよ……


 でもお前らは、目の前のことに向き合って、やるべきことをコツコツとこなして、ここまで来たんじゃねえか。誰にでも出来ることじゃねえぞ?」


 ノブは勿論、みんながヴェンガルを見ている。

 やっぱり経験を積んだ老剣士の言葉は、胸に沁みる。


「強いのも弱いのも、今までたくさんのパーティーを見て来たけどよ、お前らほど真面目で努力家な連中はいなかったよ。

 今が旅の大詰めで、慎重になるのはわかる。


 だけどよ……大切なのは……俺が思うに死亡フラグってのは……つまり……………」


 老剣士が寝てしまったことに気づくまで、少し時間がかかった。

 話をしているうちに段々と細められていった目はもう完全に閉じており、鼻と口から漏れるのは明らかに寝息だ。

 壁の時計を見たアキナが、ちょっと驚いて声をあげる。


「やだ、もう11時過ぎてるじゃない」


「先輩、いつも9時には寝ますよね。コアラだから早寝」


 年寄りだから、と言わないのはミアの優しさである。


「無理させちまったなあ」


 椅子の上で寝てしまったヴェンガルに毛布をかけると、ノブは起きているメンバーに改めて向き直る。


「みんなもスマン、今日はもう休んでくれ。

 誤解のないように言っておくけど、このメンバーで魔王城に行って、無事に帰って来たいっていうのが、俺の伝えたいことなんだ。

 ちょっと変な方向にヒートアップしちまったけど」


 今さら申し訳なさそうにするノブに、テリーがふっと笑う。


「わかってるよ、ノブ。相談してくれてよかった。またこの先、ゆっくり考えていこう」


「そうよね、時間確かめたら、眠くなっちゃった」


 気の抜けたアキナが欠伸する横で、ミアはいそいそと冒険者の友9月号を手に取る。


「ノブさん、これ借りていいですか?アクセサリーコーデのページ、気になるんですよね」


 これにはノブも笑ってしまう。


「いいけど、どうせならMP消費節約術の特集をよく読んで欲しいなあ」


 すっかりいつも通りの、平和な空気を取り戻したパーティーは、お互いにお休みを言い合って解散し、それぞれの部屋に戻った。


 就寝後、深く眠りこんでしまったヴェンガル以外のメンバーは、ノブが最後に見せた

 “故郷へ帰る途中で主人公パーティーと遭遇からの全滅パターン”をダイジェストではなくノーカット版で夢に見たが、それぞれ違う内容だったのでノブの以心伝心によるものかはわからない。



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