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パターン3:村に留まってしまったモブパーティーの末路(結)


 名前を呼ばれてもその男は止まらなかった。

 襲ってくる虫たちを、斧で叩きつぶしながら、疾走していく。


 目指していたのは、命を失って倒れている髭男だ。

 まだ虫のたかっている屍に躊躇なく手を伸ばし、蟲寄せの笛をもぎ取ると、ウィルのほうを向いて叫んだ。


「村を頼む!!コイツらは、できるだけ俺が連れていく!!」


 言い終わるが早いか、ノブは笛を口に当て、吹き始めた。

 虫たちが冒険者を襲うのをやめ、引き寄せられてくると、ノブは森のほうへ走っていってしまう。


「だめだよ、待ってええ!!」


 ケッジが追おうとするが、ウィルは肩を掴んで止めた。


「駄目だケッジ、笛の聞こえない範囲にいる虫がまだ沢山いる。まずはそいつらを片づけるぞ!」


「で、でも、あんな薪割り用の斧じゃ長く戦えないよ――」


「わかってる、だからこそ早急にやらなくちゃいけない!!

 村の人たちの安全を確保したら、すぐ助けに行こう!!」


 今まで見たことのない、厳しい表情のウィルに、圧倒されながらもケッジは頷く。


「さあ、彼の思いを無駄にするな!!」


 ケッジに向けられた言葉ではあったが、周囲にいた冒険者たちにも響いたらしい。

 数が減ったとはいえウヨウヨしている虫たちへの応戦が、いっそう激しいものとなる。


「なんだ、急に成長したじゃねえか」


 こんな状況ながら、グウェンは嬉しかった。ひとつひとつの出会いを糧にして、ウィルは着実に強くなっていく。


「……俺も負けてらんねえな!!」


 改めて剣を握る手に力を込め、貪欲に獲物を求める虫たちに躍りかかった。



 ***


 村を襲撃した虫たちがあらかた片付いた頃には、もう日暮れ時になっていた。

 幸い、冒険者たちの奮闘の甲斐あって、問題の二人の荒くれ男以外に死者は出ず、大きな怪我を負った者もいなかった。


 セルビーが自作の機関銃マシンガンで村の奥に入り込んだ虫を一掃してくれた功績も大きいが、ノブが迅速に大多数の虫たちを引き受けてくれたおかげだ。


 ウィルはケッジとの約束通り、皆の無事を確かめた後、すぐさまノブを捜索するため森へ入った。

 事の顛末を聞いた村の男たちと、まだ体力に余裕のある冒険者たちも手伝ってくれたから有り難い。


 蟲寄せの笛の音はどこからも聞こえなかったが、点々と落ちている虫の死骸を追えば、ケッジの鼻に頼らずともノブを見つけることが出来た。


 斧一本を武器に、彼は信じられないほど遠くまで行っていた。

 後で聞いたところ、そこは三年前にノブが仲間たちを失った場所と一致していたらしい。


 意図して向かったのか、はたまた偶然だったのか、今となってはわからない。

 発見されたときノブはもう、体の半分以上を失って、事切れていたのだから。


 残っているのは胸から上だけで、左腕も無くなっていたが、不思議と顔は傷一つなくきれいなまま残っていた。


 眠っているような、穏やかな顔だった。


 誰よりも勇敢に戦った青年を思い、静かな嗚咽が響くなか、ウィルの目に涙は浮かんでいない。


 悲しい気持ちよりも、わずかな時間とはいえ彼と知り合えた喜びと、真の強さを見せてくれた戦士への畏敬の念で胸が満たされている。


 ずっと終わっていなかった彼の戦いが、やっと幕を下ろした。

 どうか、仲間たちのもとで、安らかに……



 ***


 一夜が明け、正午の鐘が鳴る頃に、教会の裏に真新しい墓標が一つ増えた。


「東の丘の、英雄や偉人が弔われている場所にお墓を立てようって案もあったそうなんですけれど……」


 森で摘んできた花を墓に手向けているケッジとセルビー、そしてリドを見守りながら、セリーナが呟いた。ウィルはそっと首を横に振る。


「ここのほうがいいに決まっている」


「……ええ、私もそう思います」


 ノブの名が刻まれた墓碑の横には、三つの墓が並んでいる。彼が愛した仲間たちの眠る墓が。


 手持ちの花を飾り終えると、三人の少年少女は立ち上がって、墓の前に並んだ。


「……ボク、間違ってたよ」


 隣に立つリドに向けて、セルビーが呟く。


「世界一の戦士っていうのは、一人だけじゃないんだね。

 ウィルは世界一だって信じてるけど……ノブさんだって、世界一強い人なんだ」


 リドの両目から涙が零れ落ちる。ずっと堪えていたものが、溢れだしたのだろう。


「ああ。ノブは……ノブは世界一の、強い戦士なんだ!」


 その意志の強い目に、ウィルの胸は熱くなる。

 死が訪れても、ノブの命は終わっていない。

 彼が残した大きな希望は、未来へと繋がっている。


「セリーナ!そろそろお願い!」


 手持ちの花をぜんぶ飾り終えたケッジが呼びかけてきた。弔いも終盤、祈りの歌で鎮魂を願う時間になったのだ。

 今までにも何度か請われて歌い手の役をつとめたセリーナは、はいと答えて歩き出す。


 四つの墓を見渡せる位置にセリーナが立つと、その後ろにウィルのパーティーに加え、大勢の村人たちが並んだ。

 ノブの死を悼み、永遠の安寧が彼にもたらされることを願って、皆の心は一つになっている。


 やがて静謐な祈りの歌が、セリーナの唇から響き出す。

 みな胸に手を当て、目を伏せて聞き入り「もういいよ祈りの歌は!!!」




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