なんか変?サイン会勇者達の正体は…②
「結局ありゃ何なんだ?主人公パーティーではないんだよな?」
一通りの騒ぎが治まったのを見計らい、至極真っ当な質問をしてくれたベンガルのお陰で、流れは変わった。
ここからはノブのターン、ばっちり考察は出来ている。
「その通りです先輩。奴らは決して主人公パーティーなんかじゃない。光の勇者ウィルフリードとその仲間達を騙る真っ赤な偽者。
彼らのキラキラぶりを一層引き立てるための小者達……名声目当ての、小悪党集団だ!!」
「な、何だってぇーーー!!!」
ズバッと言い放つノブと、目を見開いて驚くテリー。もはや恒例となっている男どもの茶番劇は置いといて、その呼称に何となく覚えのあったアキナが、ちょっと考えてから喋り出す。
「あー、それ聞いたな……確か死亡フラグから逃れるパターンとか」
「おっ、よく覚えてたな」
「そうねぇ。あれも、もう二年くらい前の話か」
「やめろ余計なこと言うのは!!年数とか知らん!!」
冒険者に限らず人生って色々あるし、大人になってからの二年なんてあっという間に過ぎ去っていくから許してほしいところだが、それはともかくノブの仲間達は〝小悪党〟という響きに少なからぬ嫌悪感を抱いている。
特に憧れの人を汚されたミアの怒りは激しく、ぬおーと雄叫びを上げながら腕を振り上げ、握った拳をブン回す。
「そんなセコい連中、野放しにしておくのは許せません!!焼き入れて反省させましょう!!」
「落ち着けミアちゃん、白魔導師が焼き入れるとか言うのは良くない!それに、この件は多分……俺達が手を出してはいけない領域だ」
「は?どういうことですか?」
「あれはね、その―――……主人公パーティーの為に用意されたイベント、かなって思うんだ」
そう、広場にいる連中の醜悪ぶりに思わず取り乱してしまったが、冷静になってよくよく考えてみれば、真っ当な勇者であるウィルフリードがサイン会を開くなんておかしい。
しかしあれが真っ赤な偽物であるとすれば納得がいくし、その存在意義についてと今後の展開についても何となく予想がつく。
恐らく彼らはこの後すぐ、凶悪な魔物退治なんかを依頼され、ひとまず出現エリアの近くくらいまでは赴くも、どうやって誤魔化そうか企んでいるうちに襲撃を受けて散り散りに逃げだす。
そんでもって置き去りにされたリーダーが、あわや魔獣の餌食に…というタイミングで颯爽と本物が登場。
偽リーダーを守りながらなのでやや手こずるも、これまで幾度も辛く苦しい戦いを乗り越えてきた勇者達にはさほど難しい敵ではなく、個人のスキルとメンバー同士の連携をいかんなく駆使して見事撃破。
圧倒的な実力差と仲間と育んだ絆の強さを見せつけられ、呆然としている偽リーダーに『大丈夫ですか?間に合って良かった』と笑いかける本物のウィルフリード。
まさか、この若者達が……とハッとする偽リーダーの耳元で、纏め役のグウェンが『これに懲りたら、他人の手柄を横取りしようなんてバカな真似は二度としない事だな』と囁きかける。
大いに恥入った偽リーダーは、本物の勇者が纏う輝きを目にして深く反省し、これからは他人じゃなく自分の名前でまた一からやり直すことを誓うのだった………
「ふーん、なるほど。小悪党連中にとっても、成長の機会になるってわけか」
「え」
偽者小悪党集団の、ありがち王道ストーリーを頭の中で練っていたノブは、先輩の渋い声を聞いて我に返った。
あれ、今、以心伝心を使ったっけ……?
そういえばこんなコト、前にもあった。モグラ獣人の発明家魔族を、それとは知らず街の中で捕まえた時。頭の中にあった映像がメンバーにも共有されてて……
あの時だってスキルを発動させたわけじゃなかったのに、どうしたんだろ。
「それじゃ、俺達は手を出さねぇほうがいいだろうな」
「え~。じゃあ、連中はしばらくこのまま野放しってことっすか?え~~~」
他でもないリーダーが己の能力にささやかな異変を感じ戸惑っていることなど露知らず、ヴェンガルの言い分にテリーが不満げに唇を尖らせる。
ノブほどでなくとも毎月〝冒険者の友〟を呼んだりSNSで情報を得たりして主人公パーティーの活躍を追っている彼としては、偽者達の行為は当然、許せるものではない。
推してる作品の海賊版なんて一番いらないし腹立つモノなのだ。
「勝手に名前を使ってるのも酷いけど、あのナメた態度が頭にくるんだよな~。
有名人気取りでヘラヘラしやがってさ、たとえ格好だけでも歴戦の冒険者を名乗るなら、シャンとしろってんだよ!」
「わかります!凄く解りますよテリーさん!!」
テリーの怒りに、ミアも乗ってきた。さっきよりは冷静なようだが、果たして……
「私は別に、コスプレしていることを非難してるわけじゃないんです!!容姿の良し悪しや衣装のクオリティに関わらず、コスチュームを模倣するっていうのはキャラクターへの愛を示す行為ですから。
たとえ完成度が低くたって、そこにキャラへの惜しみない愛があれば、それはレイヤーとして正しい姿といえるんです。
なのにあの人達からは、主人公パーティーへのリスペクトなんて一欠片も感じられない……
どんなに形だけ取り繕ったって、あんなのコスプレイヤーの風上にも置けませんよ!!」
怒りのポイントはそこでいいのかと突っ込みたくなるが、熱い思いは充分に伝わってきた。
ノブとて勇者ウィルフリード成長を遠くから見つめ応援してきた一ファンとしては、偽者達の騙り行為を見逃したくない気持ちはある。あるけど、しかし。
「ここで俺達が手を出すのは、違うかなって思う」
出した結論は、変わらなかった。いくら主人公パーティーが気になっていても、ちゃんと線は引いておかなくては。
「あの偽者パーティーがやってることは許せないし、放っておいていいのかって気持ちはあるけど、俺達が関わるべきじゃないよ。名前を使われているのはウィルフリードとその仲間達なんだから、彼らの手で解決するべきだ。
いくら腹立たしいからって、俺達が手を出してもきっといい結果にはならない……だからここは、彼らを信じよう。
何たって光の勇者、キラッキラの主人公パーティーだからね。どんな形であれ、スッキリ解決して、偽者達にはお灸を据えてくれるはずだ」
この説得が効いたのか、今度はミアもテリーも意見を返してこなかった。
まだ不服そうではあるが、二人ともこちらがあの集団に関わるのはお門違いだと頭では理解しているんだろう。
ヴェンガルとアキナはそもそもこの件にはそんなに興味がないようだし、この話はこれで終わり。あとはなるべく関わらないようにして、今後は遠巻きに様子見していよう、と。
そうなる予定だった。この日の夜までは。