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疑惑の中央広場サイン会①

 

 そこそこ魔王城に近いのに、平和に栄えている地方都市メイウォークシティの、中心部から少し東にずれた所に、高い展望台がある。

 本来は街の外から来るモンスターや魔族の敵襲などに備えて番兵を置く見張り台なのだが、今は普通の観光スポットと化しており、街の景観を上から眺めてはしゃぎたい親子連れ、美しい夜景をゆっくり楽しみたいカップル、街並みを背景に自撮りして「イイヂャン」が欲しいインシュタグリャマ~などが集まる場所になっている。


 毎日午前十時になると一般開放されるそこは、平日でも十一時に差し掛かる頃にはそれなりに賑わい、今日も家族連れや友達同士のグループなんかが転落防止の安全柵の周りで眼下に広がる街並みや、遠くに見える風景をそれぞれ楽しんでいるなか、片隅でやけにコソコソしている冒険者グループがいた。


 リーダーの戦士、赤毛の女格闘家、どんぐり帽子をかぶった盗賊に白魔導士の少女、そしてコアラな老剣士。平均的モブパーティーの鑑といえばご存じ彼ら、戦士ノブのパーティーである。


 メンバーの手にはそれぞれ、展望台の入り口カウンターでレンタルした双眼鏡を持っているが、眼下に広がる建造物や人々の温かな営みを見つめて〝俺達は名も無い冒険者だけれど…この人達を守るため、戦っているんだ〟って実感しに来たとかそんなんではない。

 そういうことを知名度のないパーティーがやると、例のフラグで次の日くらいにあっさり全滅するから、やろうとしてる人いたらやめておきな。


 そんな訳で今日、ノブ達が展望台へやって来た理由はただ一つ。今、正にこの時間に、街の中央広場でサイン会を開いているという勇者ウィルフリードのパーティーを、遠くから偵察する為だ。


「あのさ―――……」


 ノブには言えないけど、なんかストーカーっぽくて実はいまいち乗り気ではないアキナが、双眼鏡を片手にぼやく。


「偵察はまぁいいんだけど、こんなに距離取る意味なくない?普通に近くの建物の陰に隠れて、とかでいいじゃん。展望台まで来る意味ある?」


 ごく真っ当な意見であるが、リーダーのノブは全力で首を横に振った。主人公パーティーの近くへ行く?とんでもない!


「くぉら、アキナ!!お前まだ解ってないのか100話もやってきて!!俺達モブが主人公パーティーの傍になんか寄ってみろ、あっという間に向こうのストーリーに巻き込まれて、全滅ルート確定だ!!」


「え~~何それ……ちょっと自意識過剰なんじゃない?」


「過剰防衛なくらいがちょうどいいんだよ!!全滅への道は常に隣り合わせにあると心得ろ……死亡フラグは!!友達みたいな顔をしてやって来る!!」


「そんな覚せい剤の標語みたいな……そこまで警戒することなのかな~~」


 もはや取り憑かれているノブじゃ話にならん、と他の仲間達に視線を送ると、まずはテリーがウンウンと頷いた。


「確かにノブはちょっと大袈裟だけど、気をつけるに越したことはないよ。何が切っ掛けで関わり持っちゃうかわかんないし」


「そうかな~。ミアはどう?近くで見てみたいんじゃない?」


 憧れの君である黒魔導師アリオンを間近で見たいのではないかと思って水を向けてみたのだが、ミアはさっきのノブと同じく、千切れんばかりに首を横に振る。

 意外なリアクションだが、本気で近くには行きたくないらしく、顔は真っ青で小刻みに震えてさえいる。


「むむむ無理です、いきなりサイン会とか、心臓止まる……まずはこのくらいの距離がちょうどいいです。

 決して推しに会いたくない訳じゃないんですけど、前準備しとかないと死んじゃうんで。初見はアリーナの末席でオペラグラス越しに拝む程度がちょうどいい」


「あ、ああ、そう?」


 せっかくお金払ってライブに行くなら、出来るだけ前で観たいアキナにはよく解らない心境だが、これだけ怯えているということは心の底から近づきたくないんだろう。


 なんかもう面倒臭いし、今日はコイツらに合わせて遠巻きに見るってことでいいか…ということでアキナは納得したというのに、ノブとテリーは双眼鏡を中々覗こうとはせず、首から下げたままキャッキャしている。


「や~~、でも、離れているとはいえ結構緊張するなあ」


「ああ、ついに本物を見られるかと思うと、何かドキドキして手がうまく動かねえ」


「わかるわかる、落ち着け俺の鼓動っ」


「急な動悸には漢方が効くぞ」


 割り込んできた渋い声に、もう~そういうコトじゃないっすよ先輩、と笑って答えようとしたノブは、ヴェンガルのほうに顔を向けて驚いた。

 背の低い人の為に無料で用意してある踏み台に昇り双眼鏡を構えた老剣士は、既に展望台の縁から身を乗り出し、サイン会が行われている中央広場のほうを見ているではないか。


「あーー、ちょっと、先輩!!抜け駆けっすよ!!」


「ん~~……」


 無駄にテンションの高いノブに、気のない返事をするヴェンガルは、眉間に皺を寄せて難しい表情を作っている。


「盛り上がってるトコ悪いけどよぉ、ちょっと見てみ。何か……変じゃねえか?」


「ええ?」


 みんな大好き主人公パーティーに、異変でも起きたというのか。これは自分の目で確かめなければ。

 意を決したノブは双眼鏡を構え広場のほうへ向けると、一回深呼吸してワクワクとドキドキを少し抑え、思い切って覗き込んだ。


 

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