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彼女のように絵を描けないのなら

作者: 蛍さん

テストの点数が下がった。


親から文句を言われた。


「もうすぐ高校三年生でしょ?

しっかりしなさい。」


別にいいじゃん。

順位だって、真ん中からちょっと下ぐらいだし。



部活でレギュラーを奪われた。

部活を辞めた。


顧問は諭すように話した。


「なんでだ?

レギュラーを奪われたからか?

言っとくけどな、あいつは凄い努力を重ねて…」


知ってるよ。

俺からレギュラー奪ったやつは、スゲー努力してたことくらい。


でも、そんなの関係ないじゃん。


部活なんて、暇つぶしだったし。



ある曲の歌詞が言ってた。


『お前の苦しみも、何もかもが、お前のものだ』って。

『逃げてもいい』って。


じゃあ良くない?

数文字で。


「ごめんなさい」

「わかりました」

「大丈夫です」

「気を付けます」


数文字で終わるなら、偽った方が楽じゃん。

逃げた方がいーじゃん。


適当に話合わせて、内心馬鹿にしあって。


そんな薄っぺらい関係の方が良くない?


劣等感を押し殺して、負けましたって笑ってる方が、人生上手くいくもんじゃない?






脳裏のぐちゃぐちゃな黒色を無視してでも。


ーーーーーーーーー


通う高校の三階への階段。


その踊り場には、いつも大きな油絵が飾ってある。


ある時は青色の校舎。

ある時は緑の肌の女性。


ある時は鮮やかに踊り混ざる鳥たち。


絵は変わっても、一緒に書かれる名前は変わらない。


江崎 青花


同じクラスの彼女は、いつも窓際の席で楽しそうに空を眺める。


俺はそんな彼女が大っ嫌いだった。


俺だけじゃない、みんな、心のどこかで彼女が嫌いなんじゃないのかと思うのだ。


平凡な顔立ち。

無遠慮な発言。

図太い神経。

馬鹿みたいな笑顔。


それと、非凡な才能。


だってそうだろ?

皆、仮面被って笑い顔を作りあってる中で、彼女は素顔でやってくる。


そんでもって問いかけてくるんだ。

僕たちの仮面に指をかけて。


『そんなもの必要あるの?』って。


馬鹿みたいじゃないか。


彼女を見て、皆で笑う。

『あいつは馬鹿だ』って。


馬鹿みたいなんだ。


そんなこと思ってる自分たちが。


そう思わせる彼女の絵も、彼女も、大っ嫌いだ。


鳥たちは、楽しそうだった。

何もなくなったみたいに。

その羽さえ取り去ってしまうのではないのかと思うほど。


羨ましい。


唇に皺が出来る時、後ろから、足音がした。


放課後、最後の日差しが差し込むこの廊下にいるのは、彼女だろうと、そんな風にさえ思う。

そんなところも、嫌いだ。


彼女は、問いかける。

明日の天気を聞くみたいに。


「黒崎君はもう書かないの?」


何度目だろう。

この質問は。それと、俺の答えも、その答えの答えも。


「書かないよ。」

「残念。

私、結構君の、好きだったんだけどな。

『黒の絵』って題名の奴。」


よく言う、その渾身の絵は優秀賞で、君の絵が最優秀賞だったじゃないか。


「辞めたよ、君に負けたからね。」


彼女は、いつもはここで一息置いて、去っていく。

笑ってるみたいに。


でも、今日は違った。


「まーそーだよね。

でも、どっちにしろもう無理かな。

すっかり諦め癖ついちゃって。」

「は?」

「聞いたよ~

レギュラー取られて部活辞めたんだって?


…ダッサ。」

「あー。

ハイハイ。良いんだよ。別に暇つぶしなんだし。」

「暇つぶし…ね。」

「そう、暇つぶし。」

「じゃあ、君の『本気』は何なの?」


そう言って覗き込む彼女は、青色だ。

黒い髪に黒い目の平凡な容姿は、青色なのだ。


目をそらしてしまうほどに。


「人生に本気とか、そんなこと言ってんの?

江崎さん。

そっちのがダサいよ。」


ダサいにアクセントをかけて、嫌みったらしくいってみても、彼女は怯まない。


「ふーん。

黒崎君の『外面』って、随分とつまらないんだね。」



何が悪いんだよ。


つまらなくていいじゃんか。


普通じゃダメなのかよ。


期待した目で見んじゃねーよ。



…俺は、彼女の目に映る俺は、どんな表情をしているのだろうか。


怒ってるのだろうか。


泣きそうになってるのだろうか。


羨ましそうに見ているのだろうか。



……情けない顔なんだろうな。


でも、分かるんだ。


負けましたって笑ってるような、そんな顔じゃないってことは。



彼女の瞳は大きく見開いた。

その顔は、新しいおもちゃを貰った子供みたいだ。



それが、目をそらす程羨ましくて、綺麗だ。


「行くでしょ?

美術室。」


その言葉に、思いがこぼれないように注意して、ゆっくりと頷く。



青い小鳥は、目の前に、真っ白なキャンパスを連れてきたのだ。




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― 新着の感想 ―
[良い点] やる気スイッチ押しましたね!(*゜▽゜)ノ [一言] 報われない努力(恋)はない って言うのは「りゅうおうのおしごと!」でした 2位は覚えて貰えないんですよね 気持ちはとってもわかりま…
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