入学式程陰鬱なものはない。
学生寮の部屋というのは、如何してこうも狭いのだろうか?布団から起き上がり、目覚まし時計を止め、顔を洗い、冷蔵庫の中のパンやなんやら適当なものをつまみ、制服に着替える。これだけの作業を行うのに、俺は十歩も歩いていない、それは俺の足がスラリと長く歩幅が大きいからという可能性もあるが、生憎、俺の足は平均的な長さである。
「・・・平凡な顔だなあ」
玄関前の鏡を見ながらそうボヤく。黒髪、黒目、色黒でもなければ色白でもない、この日本に居れば、どこにいても出くわしそうな顔だ。
ナルシスト?どこがだ、玄関前に鏡なんか付けてるとこだって?知るか、ここに越してきた時からついてたんだ、そのココに越してきた日ってのはつい昨日の夕方のことで、入学式準備のことで手一杯だったし、捨てる時間もなかった。第一この鏡を捨てる気なんてない、便利だからな。
「暑い・・・・」
共同玄関の自動ドアを抜けて、まず最初に暑さを感じた、空を見上げればド快晴、
雲なんて、これから三日間上空を通らないんじゃあないかと思う程に見当たらない。
俺は晴れは好きだが、暑さは大嫌いだ。神はそんな俺の性格を知らないのか、4月上旬だというのに、全国最高気温29,2度という大サプライズを寄越してくれた。それはとても嬉しいことだ、お陰で先程洗ったばかりの顔がもう汗ばんでいる。
「伝統行事はあまり好きじゃない・・・」
と独り言が漏れる、どんな独り言だよ!と脳内ツッコミが入るが、
このツッコミはこの独り言に会っていない、それに俺はボケてなどいない、ただ単にボヤいただけだ。
入学式とは、頭髪のないおっさんの長々とした話を聞かなければならないという、RPGでいうところのながらレベル上げに匹敵する退屈さとイライラを覚える伝統行事である。しかもだ。俺がこれから入学する高校は、俺に言わせれば地獄に等しい、何故かって?それはーーーーーーーーー
〈旧校舎が爆発するぞー!!逃げろー!!〉
高校方面から拡声器で聞こえてきた怒声、そのすぐ後、とてつもない爆風と熱気とともに、瓦礫が膝小僧目掛けて飛んできた。メキ、という音がする。
「いぃいいっっだあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!??」
俺がこの高校を地獄だといった理由、それはーーーーーーこの高校が『世界一危険な職業』の専門学校だからである。