プロローグ
血が飛び散る。何に?顔にだ、誰の血か?少なくとも奴らの血ではない、奴らの血は青紫色をしている。
あの子の血か?いや、あの子は俺の背中のほうに回っている、泣いてはいるが、怪我はしていない。
では誰の血か?この場にいる人間は二人、一方はあの子、つまり俺の血だ、やっと頭が追いついた。ではどこの血か?どんな傷を負ったのか、世界がゆっくりになっているようだ、空中に巻き上げられた生々しい血飛沫も、その瞬間だけは雪のように繊細だ。
ああ、傷の位置が分かった。肩のほうからだ、左肩からドバドバと・・・可笑しいな、肩から先が何も見えない、腕だ、腕が見えない、何故ーーーーーーーーーーーーーーー、あーぁ分かった、事情を理解した、腕が見えないのは不思議じゃない、単純に腕が無くなったんだ。
「ヒャッハーーーーーーー!!!!!!!!!腕をちょん切ってやったぜぇ!?馬鹿なガキがボーっとしてっからいけねぇ!!武器もなしに俺様、怪人ザ・シザーズに盾突くなんてよぉ!?ほら見ろ!?恐怖で叫ぶこともできねぇみてぇだぜぇ!?可ぁ哀想になぁあああ!?!?」
「・・・・・・・・」
・・・何だろう、とてつもなく痛いし、とてつもなく苦しい、血生臭いし、後ろで泣く声がより一層強くなった、その声を聴いているととても悲しい・・・・しかし、しかしだ、何故か頭が冴えている、体が軽くなって、辺りが眩しいくらいに明るくなった。力も増した気がする、気がするだけだが、それだけでも強い気持ちになれた。理由はなんだ?何が理由でこんなにも・・・・理由はない、か、単純に決意しただけ、そうだ、決意しただけだーーーーーー
「おい!!な、何でテメェ!表情一つ変えねぇんだ!?何で苦しがったりしねぇ!?泣き喚いたりしねぇ!?今までの人間はお前みたいな奴いなかった!!可笑しい、可笑し・・・・・」
「いい加減その便器みたいな口塞げよ、この童貞クソ怪人が」
「ク・・・・・・・!?」
「決意したんだよ今日、この瞬間」
ゆっくり体を起こす、左腕を切られている筈なのに、血がそこまで出ていないのは運がいいのだろうか。
「今日はお前にとって最悪の日だ、俺にとっては最高の日だ」
泣く声が止まった、今はただの呼吸音と、不思議そうに俺を見る視線だけを後ろから感じる。
「お前をぶっ殺す、確実にぶっ殺す、今、その決意をした」