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其は微笑みの代価  作者: 千代田 定男
第一章 逃亡者
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第一話・闘士は月下に(A)

「おーおー、掃き溜めに鶴だな」

「どうします?」

「聞かないとわからねえか?」

 まだ幼さを残す二人の少女が男に囲まれていた。

 男達の目的はわからないが、どうせろくなことではない。

 この細歩(さいほ)地区に住む者なら何度か目にしたことのある光景で、そして、その大抵の者が諦める状況である。

 この辺りで、この程度の理不尽は珍しくもない。

「しかし、この機械なんなんですかね? 何測ってるんでしょうか」

「知るか。いい数値みたいだが……この見た目なら引き渡さずに金に変えてもいいな」

 男達が下品な腰使いをしながら歓声をあげた。

 二人のうち一人の少女は、紫がかった美しい瞳と(つや)やかな黒髪とを静かに(たたず)ませており、しっかりと立っていた。それは、夜の色と相まって、どこか幻想的な雰囲気さえ漂わせている。

 男達は威嚇(いかく)するかのように少女の周囲をうろつく。数は十人近くいるかもしれない。

 しかし、黒髪の少女は声を出さない。何も話さない。その目はしっかりと見開かれたままで絶望の色は見えない。

「それいいっすね。金に変える前に俺達でヤっちまいましょうよ」

「おお! じゃあ俺が最初な!」

「おまえの後とか勘弁しろよ。病気うつされたらたまんねえ」

 暴力的な男達がそれに気づくはずもなく、神秘的ですらある少女が発する気配に、不協和音を起こすばかりであった。

「チホ、大丈夫?」

 黒髪の少女のさらりとした声が、もう一人の少女にかけられた。

 黒髪の少女にチホと呼ばれたもう一人の少女は、ひどく震えていた。

 そのもう一人の少女は体格が小さく、少し茶色がかった短い髪をしていて、健康的な見掛けである。

 しかし、こちらの少女は、どちらかというと絶望の色を浮かべていて、それはそれで仕方ないという意味合いにもとれる、諦めの表情をしていていた。

「誰か、助けてよ……おねえちゃん……」

 チホは震える中、小さな声で家族を呼んだ。

だが、その家族はもうこの世にはいない。

「チホ、しっかり!」

 黒髪の少女の強い声は、チホの恐怖を拭い去るには至らなかったが、その震えを少しだけ弱めさせた。

 対照的と言えば対照的な二人を値踏みするかのように、男達は次々に顔を覗き込む。

その卑しい笑顔は、ただただ相手をいたぶることしか頭にないと言いたげである。


 この細歩地区の治安は最悪と言ってもよかった。

 いや、表面上は穏やかで、のどかで、豊かではないが過ごしやすいと言える。

 ならばなぜ治安が悪いのかといえば、人間が二分されているからだ。

 気のよい人が大勢いる中、それらを食い物にする者が存在していた。公然と、だ。

 細歩地区に公的な治安維持組織は存在しない。公的な力の働かないエリアだった。

 無秩序という秩序。非人道がまかり通り、誰もがそうでありながら二分される。そういう理不尽と共存してしまう場所。

 細歩地区は『隔離地域』なのである。

 王制が敷かれるようになり、国が大きく様変わりしてから、もう何十年か経つだろう。

 それまでに、いや、それからも複雑な事情が国中を渦巻いている。

反王制運動が起こったのは当然のことで、もっと言えばそれこそがかつての最大の問題であった。

 重要なのは両者の規模だった。

 反対派は多く、大小問わなければ数割という規模で存在していた。そして、それらが濃縮された過激派は、濃度も密度も高く、十分な力を持っていた。

 時代は確実に王制へ向かっていた。そんな中での反対派の存続は、生まれる軋轢を大きくさせるばかりで、やがて小競り合いというにはあまりに大きな戦いまで生み出すようになる。

 それが、この細歩地区のような隔離地域を生み出すにまで至り、そして、王制が実際に敷かれた後も、武力に頼る鎮圧を行わねばならない事例を残すことにもなった。

 そう。細歩地区はかつての反王制派と、それに近しいと疑われた者達を押し込めた陸の孤島。細歩地区は――隔離地域は――新たな時代が生んだ壮大なゴミ箱なのであった。

 時勢を人々が決めているのならば、大きく時代が変わる際の喧騒もまた、人々の望んだ結果なのかもしれない。

 その祭りの(あと)が細歩地区。大規模な反王制運動と、その鎮圧作戦が行われた動禅台(どうぜんだい)のある、捨てられた者達のハビタブルゾーン。

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