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〈7〉非科学的な結論

「以上です」


 霞は自分の部屋のベッドに腰を下ろし、西崎のことを署長に報告した。


『では西崎司をターゲットから外してもよい、ということか?』


「はい。もちろんわたしが会った時点で彼が完全に(・・・)組織うちから抜けていなければ別ですが」


 カムチャッカという組織に所属する人間が特別に許される行為、それは「嘘をつくこと」だ。一般人が嘘をつけば、程度に応じて悪意センサーが反応し、場合によってはターゲットリストに入ることになる。だが霞は自分のような例外が存在することも理解していた。西崎が組織から完全に(・・・)外れていないのであれば、霞にだって彼の言葉が真意かどうか、判断しようがない。


『それは問題ない。リストから外しておく』


「よろしくお願いします」


 そう言って霞は連絡を切った。


「ふー」


 ベッドの上で横になり、ため息をつく。職務上やむを得ないとはいえ、嘘がつける相手とずっと応対しなければならないのは疲れる、と思った。なんせ自分は猜疑心の塊で、しかも所属している組織のメンバーみんながそうなのだ。結局、良助といるのが一番楽なのだ。


 ――こんこん

 ノックの音が響いた。


「はい」


「霞ちゃん、どうだったの?」

「あ、すぐに行きます」



 部屋から出た霞は京子とテーブルをはさんでお茶を飲みながら、経緯を説明する。


「というわけで、西崎さんは白ということになり、署長からもターゲットから外すと言われました」


「そう。何事もなくてよかったわ」

「ご心配をおかけしました」


「霞ちゃんが悪いわけじゃないわ。時代が悪いのよ」


「時代、ですか?」


「そう。時代。なんでこんな時代になっちゃったんだろうね」


 京子は心底不満そうだ。


「昔はもっといい時代でした?」


「うーん……なんとも言えないけど、人間らしい生活をしていたかな、みんな」


「今はそうではないの?」


「なんていうか、幸せかもしれないけれど、健全ではない、ってところかな。かれたレールに乗せられた人生って感じで、息が詰まりそうだもの」


 そう言って京子がお茶をすする。だが、霞は彼女が童顔に似つかわしくない話をするのがおかしく思えた。


「京子さん、最近どんなことしているんですか?」


「えっとね、『来訪者』の調査」


「来訪者?」


「雲を掴むような話なんだけど、人間のように見えて人間じゃない者っていうか、正体不明の存在なの」


「そんなの、いるんですか?」


「よくわかってないの。上層部からもあまり情報流れてこないし。ほら、最近ターゲット設定の基準だってあいまいでしょ?」


「そうですね……え? 本当にそれと関係あるんですか?」


「ううん、実際はまだターゲットの対象とかに降りてきてはいないみたい。けど、いるらしいのよ、どこから来たのかわからない、未知の存在が」


人工知能システムがそんな非科学的な結論を導き出したんですか?」


「わかんない。どう思う?」


「検討もつきません。というか、もしそんな相手と戦うことになったら、どうすりゃいいんだろ? 一般人と判別つかないのかな?」


 霞が真顔で考えるのを見て、京子の表情がくもる。


「本当は霞ちゃんにそんなこと言ってほしくないんだけど、って矛盾してるよね」


「あ、すみません。つい――」


「ううん、いいの。愚痴になっちゃった。今日は疲れたでしょ? 早めに休んだら?」


「そうですね。おやすみなさい」




「来訪者……か」


 自分の部屋で霞は一人、つぶやいた。

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