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(31)正常進化?

「おはよう!」


 翌日良助と霞が研究室に来ると、ほかの四人はすでに自分の席についていた。


「おはよう! あの件おじいちゃんに聞いたんだけどね、最近大学に来てないからついていけてない、だって」


「がくっ」


 真奈美の言葉に良助が肩を落とす。


「そういうのは若い子が自分で調べてやりなさいってさ」


「まあ、至極もっともなご意見だわ」


 霞はうなずいたが、そのとき雅也は別のことを考えていた。



 ◆◇◆



「実際どんな感じだ? 人工知能の切り口って」


 大学の人工知能による演算スケジュールを調べる玲に、良助が聞いた。


「正常進化、という感じだな。良くも悪くも」


「人間にはつけ入るスキがないってことか?」


「いや、あながちそうでもない。この30年間の記録の中で、人間の足跡がまったく残っていないわけじゃないんだ。最近の物理理論にも研究者の名前がついているものがある。そしてその結果が出た年は人工知能の結果発表の予定が大幅に狂っている。つまり、人工知能は人間の発想に影響を受けているんだ」


「でもよ、年間予定の研究目標達成率ってのがほぼ100%に近いってことはやっぱ、人間の出る幕がほぼないってことなんじゃねーのか?」


「それでも人間が研究を続ける限り完全に100%にはならない。少なくともこの30年間は失われてなんか、いなかったってことさ」



 ◆◇◆



 その反対側。モニターに向かい静かに考え込んでいた雅也が口を開いた。


「まなみん、ちょっと相談なんだけど」


「なぁに?」


「やっぱり、まなみんの言ってた話って、再現できないかな、と思って」


「なんの話?」


「ほら『空間移動の疑似体験』の人の脳波から過去の映像を取り出す、ってやつ」


「あんたさ、いったい誰の脳から取り出すつもりなのよ」


「それなんだけど、博士にお願いできないかな?」


「「えっ?」」


 そばで聞いていた霞も思わず声をあげた。


 微妙な空気があたりを包む。


「そりゃ物理的には可能かもしれないけど、それこそプライバシーの問題が――」


 真奈美が言いかけたとき、


「そこで本人の許可を得られるかってことなんだ。博士ならきちんと説明したら同意してくれるんじゃないかな? と思って」


「そんなの許可するわけないでしょ‼ って言いきれないのがおじいちゃんなんだけどさ……」


 自信なさそうに真奈美がうつむく。


「とりあえず、僕は今から大学病院に行って、脳波から記憶を取り出す研究がどこまで進んでいるか確認してこようと思う」


「ちょっと待って、過去の映像だけなら探せばここのライブラリにありそうじゃない? というか、人間の記憶ってそんなにあてになるのかしら?」


 ためらいながら霞が口に出した。


「それを知っておきたいんですよ。それに人間の思考って視野に表れるから、博士の視覚記憶から思考を研究できればと思って――」


「と、とりあえず、みんなで相談しましょうよ」


 そう言って霞は立ち上がると、玲に歩み寄った。



 ◆◇◆



 みんなで円卓に集まる中、雅也が自分の考えを説明した。タイムマシンの可能性をより具体的にイメージするためには、実際にそれを体験することが必要ではないか? それに自分たちがここで研究を始めるにあたって、博士の知識や経験は間違いなく必要であり、それを提供する義務が博士にはあるのではないか――


「――というわけなんだけど」


「相変わらずぶっ飛んでんな、お前」


 熱っぽく語る雅也に、玲が思わずため息をついた。


「マッドサイエンティストってやつか?」


 良助も何とも言えない表情。


「そんなに変、かな?」


 雅也が涼音に視線を向ける。


「……興味は……ある……けど……」


「下世話な話、いきなり濡れ場とか出てきたらどうすんだよ?」


 あけすけに良助が言った。


「いや、それはもちろんご本人に許可をもらえる部分しか見ないってことで。研究としての意味はないかな? それに大学病院でやっているなら、どのレベルなのか、知っておきたいじゃない?」


「そりゃ、確かにそうなんだけどさ……」


 真奈美が口ごもる。


「博士にお願いしたいと思ったのは、ほかにも理由があるんだ。以前博士が言ってた仮想世界の話で、コミュニケーションの中で互いの共通部分を脳波でつないで共感につなげるっていうのがあったんだけど、それってつまり、脳の記憶を人工知能にさらけ出しているってことなんじゃないかって思うんだよ。だから記憶の映像化が仮想世界で実用化されていてもおかしくないんじゃないかなって、そして博士ならそのあたりを知っているんじゃないかって考えたんだ」


 一同、沈黙。


「わかった。じゃあ、こうしよう。雅也は予定通り大学病院で実際にそういった研究がなされているか、サンプルなどあるか確認してきてくれないか? 霞さんと一緒に」


 玲が目をつぶって指示を出す。


「わかったわ」


 霞がそう答えると、玲は目を開いて言った。


「その間に俺はまなみんと博士にうかがいを立てに行く」


「なんで? そっちも僕が行くよ」


「こういう時はチームで意思統一して行動だ」


「だけど僕がやりたいって手をあげたんだから、まずは僕がお願いに行くのが筋だろ?」


「いや、チームとしての行動が大事だ。俺とまなみんが行って、それでダメならお前が行けばいいだろ? 俺だってそのあたり、まじめに博士と話すつもりだ。信じろ」


「……わかったよ。なんか納得いかないけどさ」


 若干険悪な雰囲気が尾を引く。


「えーっと、オレは?」


 良助が二人のにらみ合いを断ち切ったとき、涼音が顔をあげた。


「……私を……手伝って」

「あ、はい」

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