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(27)通じ合う人たち

「ふーっ、緊張したよー」


 真奈美が大きく息を吐いた。


「オレもだ。自分でも何言ってるかわかんなかったぜ」


「でも僕らができるだけのことはやれたと思う」


 良助の言葉に雅也が返す。


「……ありがとう」


 涼音が玲に向かって言った。


「ん? あ、論文よく書けてたじゃないか、涼音。良助の切り返しもうまかったしな」


 玲に言われ、涼音が顔を赤らめた。


「かすみんの最後の締め、かっこよかったよぉー」

「いやー、いっぱいいっぱいだったのよ。大丈夫だったかしら?」


「きっと大丈夫よ! 学食行こ! みんなで」



 ◆◇◆



 六人が一次試験の時と同じテーブル、同じ席について昼食を注文すると、料理が運ばれてきた。


「そーいえば合格発表っていつだ?」


 食べながら良助が玲に確認した。


「明日には結果が出る」


「じゃあこのドキドキ感も明日までか」


 口をもぐもぐさせながらしゃべる真奈美。


「ところで、これまで聞いてなかったんだけど、玲くんと雅也くんはどうやってまなみんと知り合ったの?」


 皿を取りながら霞がたずねる。


「去年の秋に俺が雅也を呼び出して、近くの公園で話してたんだ。そうしたら急に襲われそうになって、あわてて逃げ込んだのが博士の家だった」


「最初からよくわからねー話だが、すげー偶然だったってことか?」


 そう言って良助が一気にドリンクを飲み干した。


「いやいや、運命だったのよ。あたしたちが出会う――」

「単なる偶然です。はい」


 真奈美をぶった切るように雅也がきっぱり言いきった。


「あんた相変わらず空気読めないわね」


「まあ偶然だな。だが、博士は俺たちが来ることを知っていたみたいだったな」


 フォークにパスタを巻く玲にもしれっと言われ、真奈美がむくれた。


「あんたたち、あえて無視してるわよね? あたしだって知ってたじゃない!」


「え? そうだったっけ?」


「雅也あんた、本当に覚えてないの? 窓から手を振ったでしょ、あたし。こっちよって」


「あー、まなみんがパジャマで登場した時か。ある意味インパクトあったな」


 玲がわざとらしく答えた。


「あ……いや、なんかもうちょっとドラマティックに言えない? お二人とも」


「どうせ博士に教えてもらってたんだろ?」


「それはまあそうなんだけどさー、おじいちゃんには言われただけなのよ。今日、なにかあるかもしれないよ? って」


「ん? 何それ?」


 真奈美の話が気になったのか、とんかつをほおばっていた雅也が顔を上げた。


「おじいちゃんの勘って、よく当たるのよ。あんたたちのこと教えてくれたのもあの日だったし、あたしも友達がほしかったから、なんとなく窓の外を見てたら、本当に二人が走ってきて、思わず手を振って叫んじゃったの」


「それ本当?」


「本当よ。だからあたしの意志の力があんたたちを引き寄せたの」


 そう言ってスープをすくう真奈美。とんかつを飲み込んだ雅也が、真奈美ごしに玲を見た。


「僕とお前が外で会ったのって、あの日が何年ぶりだったんだっけ?」


「五年か? 少なくともその間、俺は外出してなかったしな」


「それは僕も一緒だ。確かに偶然にもほどがある」


 場が静まり返った。しばらくして涼音が飲んでいたジュースを置き、口を開いた。


「……私も……博士……凄いと……思う」


「あら、どうしてかしら?」


 霞が涼音の聞き役に回る。


「……初めて……会った……時」


「あ、そうか!」


「おいまて! それだけでわかんのかよ‼」


 玲の反応に良助がびっくりした。


「あの日博士が涼音に『タイムマシン描ける?』って聞いたよな? そして実際に涼音は描いた。俺たちは涼音のすごさに驚いたけど、博士は涼音がそれを描ける(・・・・・・)、ということに気がついていた」


「……そう……それ」


 玲の説明に涼音がうなずく。


「マジで通じ合ってるのかよ! オレにもその能力くれよ!」


「い、いや……なんとなく……そう思った……んだ」


「君らシンクロ率、高すぎー」


 ここぞとばかりに玲と涼音を冷やかす雅也。涼音が下を向いてしまい良助に小突かれた。


「だが雅也、俺たちが初めて行ったあの日、博士には『教育システムに警告が出てたから』って言われたよな? 今にして思えばそれだけで予感できるって、相当なことだぞ?」


 フォークを皿に置いた玲が真顔で言った。


「そのおじいちゃんの血をあたしは引いてるわけで――」


「なげかわしいことだな」

「即突っ込みありがとう玲ちゃん!」


「そしてまなみんが博士と暮らす理由が明かされ――」


 振り向きざまのアイアンクローが雅也の顔面を襲った。



 ◆◇◆



「それじゃ、また明日。結果が出たら連絡するわね」


 霞が良助とタクシーに乗り込み、真奈美たちに向かって小さく手を振った。


「わかった。お疲れさま~」


 その後、二台目のタクシーに四人が乗り込んで出発すると、真奈美が後部座席に晴れ晴れした顔を向けた。


「今日あたしたち頑張ったよね? みんなで合格できるよね?」


「ただ今日の試験問題なんだけどさ、ひょっとすると出るかも、って前こいつ言っててさ――」


「え? 玲ちゃんマジ?」

「おい! それを今ばらすなよ!」


 玲が頭を抱えた。


「あ、ごめん。気にしてた? だけどまったく問題なかったじゃないか」


「……フォローになってないよあんた」


 雅也にジト目を向ける真奈美。その横から突然、


「……あ……明日……みんなで……受かってると……いいなっ!」


 助手席の涼音が顔を真っ赤にして頑張った声を出した。


「ま、間違いなく合格してるよ! 涼音ちゃんがあれだけやったんだし!」


 雅也の言葉に玲も頭を上げる。


「ああ。そうだな。きっと大丈夫だろう。涼音の一言で流れを変えられたしな」


「そっか。なら明日もみんなで会えるね!」


 そう言いながら真奈美は、横で照れる涼音の表情に引き込まれていた。

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