7話 『へっくち!」
「へ……へ……へっくち! ユキトぉ……寒いよぉ……」
「我慢しろ……俺だって寒い……」
「私……なんか……眠い……」
「寝るな! 寝たら死ぬぞ!」
冬の夜。
雪が降る中、屋根の下で二人寄り添い互いを温めあう。
だがもう限界に近い。
このまま俺達は死ぬのか。
「どうしたんですか? そんなとこで寝たら死んじゃいますよ?」
気付くと目の前にレイクが立っていた。
「お前……殺すよ……?」
「酷いです! どうして私のヒーローであるユキトさんがそんな事を!」
「それはだなあ……お前のせいでこんな事になってるからだろうがあああああああ!!」
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――― 一週間前
「そろそろレイクがここに来て三カ月くらいになるな。もうこの家には慣れたのか?」
「だいぶ慣れましたよ。まあ、家になれたってよりかは皆になれたって感じですかね」
天井に数個つるされた白熱電球、時代を感じる古びたソファー、赤々と燃える暖炉が温かい。
なんで電気が通ってるんだと前ミエラに聞いたが、帰ってきた答えは水道の時と同じだった。
この世界のウィザードはさぞ苦労してるんだろう。
「レイク、次シャワー良いわよ」
「私はまだいいからユキトさんが入ったらどうですか?」
レイクが来てすぐだった頃は劣悪だった二人の仲も大分改善された。
『その代わり毎日寝る前、アルパカになって私にモフモフさせなさい!』というミエラの条件付きだが。
ちなみに『じゃあいびきかかないでください』とゆうのがレイクの条件だったが、ミエラはその日以降一切いびきをかかなかった。
そんなにモフモフしたいのか。
正直こいつのいびきには俺もまいっていたから有難かった。
「俺もまだいいかな。もう少しボーっとしてるよ」
俺達はヌシを倒して以来、一度もクエストに行っていない。
しばらくクエストなんかに行かなくても生活できるくらいの報酬を貰ったからだ。
だがそれも残り少なくなってきているらしい。
クエストに行かねばという意思はあるが体が動こうとしない。
完全にニートじゃねえか!! 俺の異世界生活こんなので良いのか?!
でも外は寒いしぃ? モンスターに殴られたら痛いしぃ? そもそも俺の職業、対モンスター戦では戦力外だしぃ?
どうすればいいんだよおおおお!
その時、誰かがドアをノックした。
「あ、俺が出る。は〜いどなたですか?」
扉を開くとそこには優しそうなおばちゃんが立っていた。
「あら? ミエラちゃんじゃないわねえ。どなた?」
「あ、大家さん! もう支払いの時期でしたっけ? すいませんすぐ持ってきますから、中でくつろいでてください!」
「そう? じゃあお邪魔しますね」
どうやらこのおばちゃんはこの家の大家らしい。
話を聞くと、なんでも家の前に一人でうずくまっていたミエラを不憫に思い、格安でこの家を貸してあげているらしい。
支払いは半年に一回で今日が支払日。
前からなんで駆け出し冒険者が家持ってるんだと考えていたが、やっと納得した。
「持ってきました! 確かに丁度あるはずです!」
「え〜っと〜確かにあるわね。いや〜にしてもミエラちゃん、お友達ができたのね〜前までは一人ぼっちだったから心配してたのよ〜?」
「ちょ、ちょっとやめてください! 恥ずかしいですから!」
いつもこの調子なら可愛げあるのになあ。
「そこの男の子は彼氏さん?」
「ブフォッ!? ちちち違いますよ!? ただのパーティーメンバーです!!」
このおばちゃん何言ってんだ? こんなのに彼氏ができるわけないだろ?
「いや〜お似合いよ? 結婚式が楽しみね〜是非私も呼んで」
「ペッ」
「「あ」」
レイクがおばちゃんの顔にツバをかけた。
「お前なにやってんだああああ!! 早くこの人に謝れ!! 土下座して靴を舐めろ!!」
レイクの首根っこを掴み土下座させようとするが、こいつかなり力が強い。全然動かねえ!
「嫌です。ユキトさんとお似合いなのは私なのにこのババア。私を怒らせたこいつが悪いんです」
「なにバカな事言ってんだ早く謝罪しろおお!!」
「すいません大家さん!! 私の友達がとんでもない事を!! どうかお許」
「もういい」
大家の顔はさっきと打って変わってまさに修羅だった。
背後から漆黒のオーラが出ている。
「さっさと荷物をまとめて出て行け」
「大家さ」
「黙れ」
大家はそう言い残すと家を出て行った。
「……どうする?」
「どうするも何も出ていくしかないわ……大家さんああ見えても、昔はゴブリン百体を一人で倒すくらい強かったのよ……殺されなくて良かった……」
「あ〜あ。家無くなっちゃいましたね。痛い痛い痛い! ほっぺを引っ張らないでください!」
「無くなっちゃいましたねじゃねえよ!! お前どうすんだこれから!! 今冬だぞ?! 外で寝れってのか?!」
「ギルドがあるわ。あそこは24時間やってるから泊めてもらいましょ。お金はさっき払ったせいでほとんどないから、ためないと家に住めないわ」
まさかこんな形で住居を無くすとは!
「あ、じゃあ私は地元に帰りますね」
「お前ホントになんなんだよ!!」
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「あの後しばらくはギルドで寝泊まりしてたけど、昨日タイミング悪くギルドの回収工事がきて追い出されたんだよ」
「大変だったんですね。はい、これお土産です。アルパカ饅頭」
そう言って差し出す。
「いらねえよ! 今欲しいのは家だ!」
「もちろんわかってます。私がただただ地元に帰ってぐーたらしてただけだと思ってるんですか? 否! ユキトさんのために良い話を探してきました! さあ私に感謝してください! チューでも良いですよ!」
そもそもお前のせいだろと突っ込みたかったがそれどころじゃない。
「良い話?」
「はい。なんでもこの町の町長さんが、ある頼み事を聞いてくれれば家を譲ってくれるそうです! 」
「ある頼み事? なんだそれ」
「私も内容は知りません。でも良い話だと思いませんか?」
確かに家のない俺達にとっては夢みたいな話だ。
その頼み事とやらが少々気になるが行ってみる価値はあるな。
「よし行こう。案内してくれ」
「それは勿論なんですけど、ミエラさんは大丈夫なんですか?」
ふと隣をみると俺の肩を枕代わりに寝ていた。
「目を覚ませええ!! 寝るんじゃなああい!!」
「はっ! 夢の中でおばあちゃんが川の向こうで私を呼んでたわ」
「それ絶対行っちゃいけないやつですね」
「まだ死んでないけど。痛い!」
こいつ人が心配したってのに。
「じゃあいざ町長の家へ!」
「「おー!」」