3話 『枕投げって案外痛いよね』
「ちょ、ちょっとどーゆーことよ!」
ミエラが急に立ち上がったせいでテーブルが揺れ、コップの水が零れた。
いそいで持っていたハンカチで水をふき取る。
傍からはこいつが突然の出来事に驚いているように見えるんだろうが、俺には分かる。
喜んでんな。目が煌めいているもん。
「いや〜実はなかなか僕を入れてくれるパーティーが無くて、仕方なく1人で探索に出てたらあの様だよ。あ、自己紹介がまだだったね。僕の名前はウリル。クリエイトマスターだよ。じゃあこれからよろしくね!」
「おいおいまだ仲間に入れるなんて言ってないぞ? それにクリエイトマスターって研究所とかで魔具作ってるもんだろ? パーティーに入っても戦力に」
「ようこそ私のパーティーへ!! 私はミエラでこっちがユキトよ! これからよろしくね!」
ミエラが俺の言葉を遮ってウリルを歓迎する。
てかなんでお前がリーダーみたいになってんだよ。
「ありがと! まあユキトの言う通り、研究所で魔具の開発してる人がほとんどだよ。僕も研究は大好き。でも研究してるだけじゃ物足りなくてさ。実際に使てみたいんだよね! 僕の開発した可愛い子供たちをさ! 勿論君たちの装備開発は僕がするから装備代は浮くし、僕自身も開発した道具で戦う。後方支援から切り込みまで何でもできるよ! それにクリエイトマスターの資格があるから、君たちのタークルを改造できるし、アプリ開発もできる! なかなか有料物件だと思わない?」
「アプリ開発っていよいよタブレットじゃねえか。まあ、確かに装備代が浮いくのは有難いし、俺とミエラだけじゃクエストは少しキツイからな。後方支援と切り込みができるってのは魅力的だな。じゃあこれからよろしく。ウリル」
丁度話がまとまったとこで、ウェイターが料理と酒の入ったジョッキを3つずつ持ってくる。
「丁度いいわね! じゃあ新しくウリルが仲間になった事! そして初クエスト達成を祝して!」
「「「乾杯!!」」」
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「いや〜おいしかった。まさかこんな歓迎を受けるなんて、思ってもみなかったよ。正直断られると思ってたから、すごく嬉しいよ」
3杯目のジョッキを空にしたウリルが頬杖をつきながら言った。
ミエラは一口飲んだら即ノックアウトで、今はヨダレを垂らし俺の方に寄りかかって寝てる。
一番威勢が良かった奴が一口で倒れるってどーゆーことだよ。
まあ一緒に飲んだ感じウリルは悪い奴じゃないみたいだし、なかなか良い仲間ができたな。
「新しい仲間ができたんだから歓迎するのは当たり前だろ? ミエラはクエストの時あんま役に立たないから、お前には期待してるぜ」
「ああ」
そう言ってウリルが笑う。
「じゃあ、そろそろ家に帰」
「ちょっとすいません」
声のする方を見るとそこには、さっきクエスト達成手続きをしてくれた純情な方のお姉さんが居た。
そして彼女の傍らには鎧を着た衛兵らしき男が2人。
なんだ?
「何かあったんですか?」
「いえ、先ほどこちらで回収したスライムの一部を解析した結果、牛を襲っているにもかかわらず、全くそのような成分が検出されなかったんです。なので理由をお聞きしに来ました」
しまったあああ! 偽造&偽証Lv.1じゃギルド相手には通用しないのか!
「あの、両サイドの衛兵さんは?」
「場合によってはクエスト達成の虚偽申告と報酬の不正受領、つまり詐欺になるので一応衛兵を」
「あ〜なるほど」
ヤバいヤバいヤバいこのままじゃ俺の異世界生活が一転、異世界牢獄生活になってしまう!! なんとかこの状況を打破せねば!!
そうだ! クリエイトマスターのウリルなら、俺よりかは多少信用されるはずだ!
さっそく助け舟を出して……
「あれ? ウリルどこ行った?」
「ウリル? そこに居た緑髪の人ですか? でしたらさっき帰りましたけど」
あいつ巻き込まれまいと俺らを見捨てて逃げたのか!
前言撤回。かなりのゴミだな。あいつ。
ミエラは酔いつぶれて使い物にならないし、ここは俺一人でどうにかするしかない。
自分のスキルを信じるんだ!
「まあまあ座ってください! あ、すいませーん! お茶3つお願いしまーす!」
「そんなお構いなく!」
「いやいや皆さんお疲れでしょうから! お茶はこんな迷惑をかけたせめてものお詫びです! ささ! どうぞ座ってください!」
3人は戸惑いつつも俺に無理矢理押される形で座った。
座らせてしまえばこっちのもんだ。
ウェイターがお茶を持って来たとこで話を始めた。
「いや〜実はですね。今回討伐対象のスライムを確かに倒したんですけど、その時居たのは討伐対象のスライムだけじゃなかったんですよ。数匹のスライムが周りに居て。だからうちのウィザードの破裂魔法がヒットした時、おそらく周りのスライムも巻き込まれたんですね。だからたまたま拾った破片は、その巻き込まれたスライムの物で、そのような成分が検出されなかった。雑に選んできた俺が悪いんです。本当にすいませんでした!」
椅子から離れ、お姉さんに向かって土下座をする。
これで完璧だ!
「そんな、頭をあげて下さい! どうやら今回の件は、こちらの早とちりだったみたいです。大変申し訳ありませんでした。お茶のお代はここに置いておきますので。では失礼します」
お姉さんは深くお辞儀をし、3人分のお茶代を置いて去っていった。
俺は3人の背を眺めながら、テーブルの下で見えないように小さくガッツポーズ。
よしよしよし作戦成功だ!
「さすが詐欺師ね。痛い!」
目を覚ましたミエラがニヤニヤしていたので、脳天めがけて強烈なチョップを放つ。
「あ〜俺やっぱ詐欺師なのかなあ。諦めて詐欺師としての俺を磨くべきなのか?」
「そうしちゃいなさいよ。その方が楽なんだから。それに、私はその職業良いと思うわよ! そこら辺に居る量産体制状態のナイトやアーチャーなんかと違ってカッコいいわ! だから元気出しなさい!」
「それ励ましてるつもりか?」
こいつ態度とか外見はあれだが、案外根は良いやつなのかもな。
「まあ、もう8時だし帰ろうぜ? お前みたいな子供はとっくに寝てる時間だぞ」
「だから同い年だって言ってんでしょ!!!」
自分の外見と実年齢の差を馬鹿にされ騒ぐミエラを連れギルドを出る。
昼はあんなに活気があった街も夜は凄く静かだった。
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「じゃあユキトはそっちベッド使って。私はこっちのベッド使うから。一応召喚する前に一通り家具は揃えておいたから安心なさい」
「お前どんだけ召喚後の生活楽しみにしてたんだよ」
シャワーを浴び終え寝室でベッドの指示を受ける。
聞いたところ、この世界には水道設備があるらしい。何でも魔法の力で各家に水を送ってるんだとか。
水道局のウィザードは過労死するんじゃないかと思ったが、口には出さなかった。
「隙あり!!」
「ぶもっ?! おい何すんだよ!」
「枕投げよ! 誰かと寝る時に一度やってみた ぼふぁっ?!」
俺の投げた枕が見事に顔面に命中する。
「ほらこれで満足だろ。さっさと寝るぞ。そのランタン消せ」
「わかったわよ」
まだし足りないと顔で訴えかけるミエラにランタンを消すように指示する。
「おやすみ!」
「おやすみ」
今日一日いろんなことがあった。
異世界に友達になってなんて馬鹿げた理由だ召喚されて、ステータス普通の上に詐欺師なんて職業与えられて、クエスト行ったら自分の無力さを痛感させられた挙句顔面に炎魔法くらって、ギルドに嘘バレて牢獄行きになりそうになったからできたての仲間に助け求めようと思ったら逃げられて、さっき顔面に枕投げられた。
こんな事なら元の世界の方が良かった……。
帰りてえよ……。
「グガアアアアギリギリギリグガガアアア!」
いびきと歯ぎしりうるせえ……。
ウリルは緑髪のショートカットです。
歳は18で身長はユキトとほとんど変わりません。