2話 『アフロ』
「じゃあ、なんかテキトーにクエスト受けましょうよ! タークルにクエスト依頼掲示板があるからそこから選んで窓口で受注するのよ! そうね〜とりあえずスライム10匹の討伐なんてどう? 最近スライムが放牧している牛達を襲う事件が多発しているらしいわ。まあ、何度もクエストに行ってる手練れの私には物足りないけど、ユキトにはピッタリなんじゃない!」
「おお、いかにもチュートリアル的なクエスト。それで決まりだな。ところでちょっと気になったんだが、お前のステータスってどんな感じなんだ?」
ミエラがピンク色のタークルをポケットから出して、しばらく操作した後投げてよこした。
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ミエラ ホワイト 17歳 Lv.1
力 1
速 6
守 3
攻魔 1
回魔 0
MP 9
HP 5
知 4
運 5
職業へ
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「お前、職業何だっけ?」
「ウィザード」
「なわけあるかあああああああああああああ!! なんだよこのステータス!! 魔力カスなのにMPだけ無駄にありやがって!! そんなんで適正職業ウィザードってやっぱりタークルの判断ゴミだろ!! てかお前レベル1じゃねえか!! さっき手練れの私には物足りないとか言ってなかったか?! 俺と同じでド素人じゃねえか!! あれ、お前年齢詐称してんだろ。そんなんで見栄張って恥ずかしくないのか」
「私はれっきとした17歳よ! 私の体を見ればわかるでしょ?」
「14だな」
ミエラが泣きながら机を叩いていたがそれを華麗にスルーし、窓口に向かう。
勿論美女達の。
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「スライムどこにいるんだ? そもそも場所ここで合ってるんだよな?」
「どうやら昼は森の中にいるみたいね。行ってみましょ!」
タークルを操作しながらミエラが言った。
ここは町から少し離れた牧場で、森に面している。
てか今更だけど、俺のスマホ水に落としてなかったとしてもあんま意味なくね? 常時圏外だし? バッテリーにも限りあるし?
一方タークルは無制限に動いて常時3ピン立ってるじゃん。
ホントなんなんだよ。
「ユキト危ない!」
「へ? ぶもっ?!」
名前を呼ばれて振り向いた瞬間、俺の顔を緑色のベタベタした物が覆った。
スライムか!
ヤバい全然息できねえ!
クソ、落ち着け。
一応持ってきた剣で切り付けてみるが手ごたえがない。
「ユキト! スライムには物理攻撃は全く効かないわよ! このくらい常識だから知っときなさい!」
じゃあなんでこのクエスト提案したんだよ!
ヤバい……意識が……
「フレイム!!」
俺の顔が炎に包まれスライムがみるみる溶けていく。
「大丈夫だった? 良かったわね私が居て! 私が居なかったら今頃って痛い!」
「馬鹿野郎! 人の顔面めがけて炎魔法撃つやつがあるか! おかげでアフロだぞ! まったく。まあ、ありがとな」
ミエラの顔が真っ赤になる。
単純だな。
「なあ、ミエラ。今ふと思ったんだが、討伐対象の牛を襲うスライムって、もっとデカいんだよな? 牛一匹包み込めるくらい。そんなのに来られたら俺普通に死ぬぞ?」
「安心なさい! 例え家一軒飲み込むくらいデカいのが来たって、私の魔法にかかればお茶の子さいさいよ!」
それフラグじゃね?
「ユキトユキトユキト。ちょっと、ねえちょっと。アレ」
指さす先には家一軒とまではいかないにしても、乗用車一台なら楽飲み込めそうなスライムが。
「ミエラ! 気付かれてない今のうちに早く魔法を!」
「フレイム!!」
頷くと同時に魔法を発射。
スライムの全身を赤い炎が包み込む。
が、スライムの表面からちょっと湯気が出て終わった。
「お前全然じゃねえか! 急いで逃げるぞ! 成功報酬よりも命が大事だ!」
「待って! よく見て!」
言われた通りスライムをよく見てみると、中に人影のような物が。
いや死んでるでしょ。
「あいつはもう手遅れだ。全速力で森の出口に走るぞ」
「今動いた」
「え〜」
いやあれから助け出すとか不可能でしょ。
だってうちのパーティー、へっぽこウィザードと詐欺師よ?
勝てっこないだろ。
……いや……勝てるかも。
「なあミエラ、お前さっき炎系の魔法使ってたけど、水系の魔法は使えるのか?」
「見くびってもらっちゃ困るわ! 私はこう見えても全属性の魔法を使えるのよ!」
「じゃあスライムに水掛けろ」
「水? 別に良いけどどうなっても知らないわよ」
「ウォーターフォール!!」
ミエラが呪文を叫ぶとスライムの頭上に魔法陣が現れ、そこから大量の水が流れ出し、スライムに降りかかる。
水を浴びるとスライムはどんどん肥大化していき、本当に家一軒丸呑みできるほどになった。
「ちょっとユキト、なんか大きくなってない?! ホントに大丈夫なのよね?!」
「いいから黙って水掛けてろ」
スライムはその後もどんどん膨張し続けたが、突如スライムの全身に小さな穴が開き、すごい勢いで水を噴出。
みるみる縮んでいき、最終的にはランドセルくらいの大きさに。
スライムも流石にヤバいと思ったらしく、凄い勢いで逃げ出した。
「思った通り。スライムは物を全身から取り込むから、上から水降らせば全部吸収する。まあスライムにも限界はあるから、水を飲み過ぎてゲロっちゃったってことだ。スライムの体のほとんどは水でできてるから、吐き出せば自ずと縮む」
「ステータスで知識が若干高かっただけあるわね。でも氷魔法で凍らせれば良かったんじゃないの?」
「お前の発火魔法を見る限り、火力不足でろくに凍らないのは明らかだ。水を出す量はそいつのMP量で変わってくるから、無駄にMPたっぷりのお前にピッタリだったんだよ」
それに万が一氷漬けになったら中のやつが死んじまうだろ。
「とりあえずそいつを起こそう」
ぱっと見わかるのは、女って事とガスマスク的な物を付けているって事くらいだな。
どうやらこのガスマスク的な物のおかげで、スライムの中でも呼吸ができたみたいだ。
「お〜い! 大丈夫〜? ユキト、この子起きないわよ。生きてはいるみたいだけど」
「仕方ない、今日はもうこの子を連れて帰るぞ。ギルドの医務室なら治療してくれると思うし」
「でも討伐対象のスライムには逃げられたから報酬ゼロよ?」
「まあ慌てるな。俺に考えがある」
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「これが討伐したスライムの一部です。仲間が破裂魔法を使ったので飛び散ってしまいましたが、確かに息の根を止めましたよ。いや〜なかなか手強かったですねえ」
「わかりました。ではこちらがクエスト達成報酬の5000ドリです。それはこちらで回収しておきますね。クエスト、お疲れ様でした」
初めに倒したスライムの破片を再利用。スライムなんて大きさが違うだけで、色は大差無いからな。我ながら頭が切れる。
「流石、職業が詐欺師なだけあるわね」
医務室に女を預け戻って来たミエラが一言。
「うわあああしまったあああ!!! ついやってしまったあああ!! あれほど自分の職業に不満を持っていたのに!! 違和感無く本領発揮しちゃってんじゃねえかあああ!!」
「あなたは本質的に詐欺師なのよ。これでタークルの判断が正しかった事が証明されたわね」
今回ばかりは何も言い返せない。
「まあ報酬も出たことだし、夕食にしましょ。今日は初クエスト完了って事で、ちょっと豪華にスティープル牛のステーキを頼みましょ!あと一杯いくわよ!」
「スティープルって町の名前か? あと俺達まだ17だから酒飲んじゃダメだろ」
「スティープルはこの町の名前で肉牛が有名なのよ。ちなみにこっちの世界では、冒険者は年齢関係なく飲酒OKよ!」
なんだよその雑な決まり。じゃあ小学生でもなれば飲めるのか?
「すいませーん! スティープル牛のステーキ二つと、生をジョッキで2つお願いしまーす!」
「いや3つで」
「「え?」」
隣を見るとさっきまで空席だったところに女が1人、さっき助けたやつが座ってる。
「あ、起きたんですね。良かったです」
「ねえ、僕と仲間にならない?」
デジャブだ。