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プロローグ 『Be friends!!』

「やった! 成功した!」


 気が付くと俺は知らない部屋にいた。

 周りは整理整頓のせの字もないくらい本の山だらけで、長い間換気をしてないのか空気は埃っぽく、奥の方にはいかにも魔女がじっくりコトコト薬を煮込みそうな大釜に水が張られていた。

 ふと前を見ると中学生? くらいの女の子が頬を真っ赤にして嬉しそうに俺を見ている。

 ちょっとかわいい。


「ねえ! 私の友達になって!」

「…は?」


 この女は何を言ってるんだ? てかそもそもここどこ?


「あ、自己紹介がまだだったわね。私はミエラ。ウィザードよ。」

「はい、うん、どうも。」


 いやいや自己紹介とかじゃなくてまずなんで俺がこんなとこに居るかが問題…………ちょと待て。


 今この女、ウィザードって言わなかった?


 ウィザードってつまりあれだよな? 魔法使いの事だよな?


「なあ、今自分のウィザードって言った?」

「ん? 言ったわよ? それがどうしたの?」


 待て待て待て! そんな事あるわけ無いだろ!


 いや待てよ確かにそうなのかもしれない。

 なぜそう思ったのかはこの女の容姿を見ると分かると思うが、髪がピンクで凄くサラサラしてて、瞳は鮮やかな黄色で透き通っている。


 少し冷静になるんだ俺。

 俺はさっきまで好きな漫画とPCゲームの最新作を買うために街に居た。

 道中同級生と会って、話しながら本屋に向かって歩いてると急に周りが光りだして、気が付くと目の前には魔法使いが居たと。

 もちろん当たり前のことだが魔法使いなんてものはこの世には存在しない、空想上の存在だ。

 だが目の前にいる、つまりそれが何を意味するか、答えはすぐに導き出された。


 要するに俺は………異世界転移したのか?!


「やった……」

「どうしたの? お腹でも痛いの? トイレは奥に見える扉を」

「異世界だああああああああ!」

「へ?」


 毎日高校へ行き面白くもない授業を受け、家に帰ったら部屋に引きこもりネトゲ三昧、休日はどうしても買いたい物がない限り部屋に引きこもる、こんなゴミみたいな生活を送る中で俺はいつしか漫画やラノベの世界を夢見るようになった。

 特に異世界転移物、何でもない平凡な高校生が異世界で秘められた力を発揮しチートライフを送っていく、俺も誰かに召喚されたり事故で死んだりして異世界に転移したいなとベットの中でいつも思っていた。

 これからは学校なんか行かなくてもいいし、親にいちいち小言を言われることもない。

 いろんな奴らを仲間にして、冒険の旅に出て、モンスターを倒しまくって、どっかの国の王女に魅入られて……ムフフ。


「ちょっと一人で考え込んでるとこ悪いんだけど、とりあえず自己紹介してくれない? 私まだあなたの名前知らないんだけど。てゆうか服装変わってるわね。見たことないの着てる」

「あ、ごめんごめん。俺の名前は幸斗、雨音幸斗だ。ユキトって呼んでくれ。この服はパーカーって言って俺の世界では結構ノーマル、ズボンはジャージだ」

「服装と同じで名前も変ね」


 こいつ何様なんだ。


「そういえばさっき君、俺に友達になってっていってたけどあれは何だったんだ?」

「君じゃなくてミエラって呼んで! じゃなきゃ教えないから」


 ホントに何様なんだこいつ。


「ミエラ、どうして俺に友達になってなんて言ったんだ?」

「理由は簡単! 私がその為にあなたを召喚したからよ!」

「…は? 魔王軍を倒すために勇者となりうる人を召喚したとかではなく?」

「うん。友達欲しいなって思ってて、たまたま読んだ本に人間の召喚方法が載ってたから、ソイッて召喚した。」


 ちょっと待て、俺の思い描いてた異世界生活が音をたてて崩れていくんだが。

 友達になってもらうために召喚しただと? いやいやどんだけくだらない理由で召喚してくれてんだこいつ。

 てか召喚ってそんなお手軽なものなの?! ソイッで召喚ってなんだよ!!

 まあどんな形であれ、異世界に来れたんだから喜ぶべきか。


「よし。ミエラ、今日からお前と俺は友達……いや、仲間だ。よろしくな」

「仲間……仲間?! ……仲間……ホ…ホオオオオオオ!!」


 ミエラの顔が急に赤くなったと思ったら、変な叫び声をあげて蒸気機関車のごとく口から煙を吐き出し、パタリと倒れた。


「お〜い、大丈夫か〜?」

「ちょ、ちょっと興奮してただけよ! まあ仲間でも良しとしてあげるわ! 二へへ」


 なんでこいつちょいちょい上から目線なんだよ。

 ちょっといじめてみるか。


「やっぱお前の仲間になるのやめるわ。じゃあ俺はこれにて」

「ちょっと待って!! なんでよさっき仲間って言ったじゃない!! 私が悪かったから、反省するから!! 名前で呼ばなくてもいいから、お前でいいから!! だから私を無視して部屋から出ていこうとしないで!!」


 足にしがみついて泣き叫ぶミエラを無視し部屋の扉を開けようとしたが、今度は足から離れ急いで扉の前に立ちふさがる。


「ホントに待って! お願いだから仲間になってください! ユキトさん、いやユキト様!」

「わかった、仲間になってやる。その代わり条件がある」


 ミエラが怪しそうに俺を見る。


「な、何よその条件って。……まさか?! 私の体を使ってあんな事やこんな事を! 獣よ、誰か助けて!」

「なんでそうなるんだよ! 誰がお前なんかに欲情するか! そんな条件付けねえよ! 俺からの条件はな、お前がこの街を案内するってことだ」


 さっきまで汚物を見る目で俺を見ていたミエラが一瞬キョトンとし、今度は呆れたような顔で俺を見る。


「そんな事で良かったの? あなたみたいないかにもモテないような思春期の男の子は、絶対そうゆうこと条件に付けるだろうと思ってたのに。違うなら違うと初めから言いなさいよ、変に身構えちゃったじゃない。これだからユキトは…やれやれ。 痛い! ほっぺ引っ張んないで!」


 ちょっと優しくしたらすぐこれだ。

 ホントに何なのコイツ。

 頬から手を放し部屋の中央に座る。

 後ろのほうでミエラが頬を擦りながら泣いてるが気にしない。


「とりあえず異世界転移物の定石、持ち物確認だな。持ってるのは……スマホ、財布、あとハンケチもといハンカチくらいか。スマホがあるのは凄く心強いな。異世界転移物ではスマホや携帯なんかの科学技術の結晶は凄く役に立つ。一方金はまるで使い物にならないってお決まりだ。ハンカチは論外」

「その薄っぺらいやつ何? 貸して」


 泣き止んで一緒に持ち物確認をしていたミエラが、スマホを俺の手からサッと奪い取る。


「おい、見るのは良いけど気を付けろよ。落として画面を割りでもしたら最悪音の鳴るただの箱になるんだぞ。」

「大丈夫よ! こう見えても私は注意深いことで有名なんだから。慎重さで私の右に出る者なんてこの街には居ないわ。にしてもこれ、なんかタークルに似てるわね。スイッチは……あっ」


 俺のスマホはミエラの手から逃れ宙を舞い、水が張られた大釜へ見事に着水した。


「危ないところだったわね! でも大丈夫! 水の中に落ちたおかげで画面は傷一つ無いはずよ! 落としそうになった時、瞬時に水の方へ向かって投げた私の判断力を褒めなさい! って痛い! なんで叩くのよ!」

「馬鹿野郎!! 水の中に落としたら壊れるだろうが!! 床に落とすよりはるかに悪いわ!!」


 ミエラの頭を引っ叩き、急いでスマホの救助に向かう。

 何度も電源ボタンを押してみるがピクリとも反応しない。

 ご臨終だ。


「あ〜あ。ユキト、ドンマイ」

「お前なあ……」


 呆れて何も言えない。

 異世界生活で最も役に立つはずだったスマホがこんな序盤に、しかも敵ならまだしも味方の手によって破壊されるなんてな。

 どうするんだ? 俺の頭の中で描いてたストーリーがまた一つ壊れたぞ。


「まあ、過ぎた事は仕方ないわよ。いつまでもメソメソしないの」

「お前どの立場でそのセリフ言ってんだよ……」


 まあコイツの意見も一理ある。

 終わったことをいつまでも考えていたって仕方ないか。

 それにスマホがなくても活躍していたキャラも居たしな。


「わかった。…じゃあ町を案内してくれないか?」

「まっかせなさい!」


 ミエラが満面の笑みで俺の手を引いて扉まで駆け寄り、ドアノブに手をかける。

 ガチャッと音がし、一気に扉が開かれた。

 初めは薄暗い部屋に目が慣れていたせいか眩しく、思わず目を細めたが次の瞬間俺は思わず息を呑んだ。

 

 目の前には今まで漫画や画面の中でしか見たことのなかったお決まりの町並みが広がっている。

 コンクリートで舗装されてない道、そこを歩いている剣や杖を持った冒険者たち、見たこともない野菜や果物を店先に並べてる八百屋、熱されて真っ赤になった剣を金槌で叩き火花を散らす鍛冶屋。

 俺は確信した。


「異世界だああああああ!」

ユキトは17歳で黒髪の一般的な高校生です。

ミエラの服装は濃い青のローブに、ありがちな魔法使い帽子です。

見た目は中学生くらいですが、一応ユキトと同い年です。

言語に関しては召喚魔法の効果で勝手に定着しています。


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