噂話
それは学食で昼ご飯を食べている時の事だった。
突然の背中に受けた衝撃に、一人の友人の名前を思い浮かべた。
「久しぶりに見かけた気がするな!」
元気が有り余っている彼は、鈴木君という。下の名前は忘れてしまった。
「それで相変わらず先輩にご執心なのか?」
こっちの返事も聞かずに、会話はどんどん進んでいってしまう。
「別に何だっていいだろ。」
こんな時、爽やかに肯定出来ればカッコも付くのだが、彼との話しづらさからか、僕の幼稚さからか、声に出たのは随分分かりやすい言葉だった。
「分かった分かった。それでその先輩の話しづらさ何だけど最近来てないだろ。」
落ち着いたのか、真面目な話だからなのか、話しやすい彼が前に出てくる。
「うん。」
「これは噂なんだが、学校辞めたらしいんだ。」
この噂なんだが、の前置きで始まる話は基本的に信用に足る内容だと、これまでのやり取りでわかっている。
「美織さん辞めてたのか...」
しみじみとした風の僕の反応が気に食わなかったのか、また話しにくい彼になる。
「なんだよ 知ってたのか」
つまんなさそうに呟いた。
「知ってた訳じゃないんだけど、思い当たる節がない訳じゃないんだ。」
「まぁ...これでお前の恋も終わったな」
と、今度は彼がしみじみと感想を述べる。何故そうなるのかは置いといて、
「勝手に終わらせないでくれ。」
強めに言って、定食の残りを掻き込んだ。
「なんかまだ接点が残ったの?」
「いや...」
僕はここで言葉を濁した。文通している。なんて言って茶化されるのが嫌だったのだ。
恥ずかしい事をしているという訳ではないし、むしろ手紙でのやり取りの素晴らしさを説きたいが、彼がそういう良さを素直に受け入れられるタイプじゃない事はよく知っていた。
「まぁなんか進展があれば教えてくれよ。」
一頻り自分の話を披露した彼は、良い具合に冷めたカレーライスを食べ始めた。
僕は彼が食べ始めたと同時にごちそうさまをして席を立った。
先輩が学校を辞めていたという話は、午後の講義が始まった辺でぐるぐると頭の中を渦巻いた。
美織さんについて僕はあまりにも知らない事が多過ぎる気がした。
講義が終わる頃になっても僕のノートは真っ白だった。