昨日のお返事
翌日も僕は帰り道に彼女の家に行った。
相変わらずインターホンでの返事はないが、ガラスの扉はちゃんと開いた。
彼女の部屋の玄関には、やっぱり一枚のコピー用紙の手紙が挟まっていた。一応インターホンを押してみたがやっぱりここでも返事はない。
手紙を抜き取って玄関に座り込み、半分に折られた手紙を広げて読む。
「突然の事なのに返事ありがとう。それと、折角のケーキ食べられなくてごめんなさい。君の持って来てくれるケーキ、私はいつも楽しみにしてました。美味しかったです。
何故私が部屋から出られないのかという質問ですが、やはりそれはまだ答えられません。でもいつかちゃんと伝えたいと思っています。
それよりも、もっとお互いの話をしましょう。あの部屋で出来なかった話をしましょう。」
彼女がそんな事を、思ってくれていた事に嬉しくなる。自然と頬が緩むの感じた。
思っていた以上に好意的なお返事に、一頻り浮かれた僕だが、本当に知りたい事は分からないままだった。
が、彼女の言う通りに今日の手紙は、あの部屋で聞きたかった、話したかった事だけを書いた。
あの部屋で彼女と共有していた時間は少ないくはないが、それでも僕には余りある程に彼女としたい話がある。いつかが来るなら待とう。
便箋に並ぶ僕の思いをもう一度読み直してから郵便受けに入れた。
大体こういう物は、編集不可能になってから後悔する物だから、僕は少しの間、陽の沈む彼女の住む街を見下ろしていた。