始まりの場所 2
傾き始めた日を意識する頃には、その住所へと辿り着いた。
電車で1時間掛からない程のここは、郊外のベッドタウンだった。
その中でも見上げる様に高いマンションのかなり上の方らしかった。
まだ夕暮れ時だからか街自体に人が少ない様に感じた。そんな街に住む彼女に寂しさを覚えたのは、勝手だろう。
ピカピカのエントランスに、不必要なまで響く僕の歩く音にドギマギしながら銀色の四角いインターホンに、3桁の数字をプッシュした。
向こう側に人の気配はない。
「すみませーん」
声を掛けて見たものの返事も帰ってこない。
しかし、しばらくすると透明のガラス戸は、音もなく開いたのだった。
コソコソと足を運び、キョロキョロしながら前に進む。監視カメラには、分かりやすく犯罪者然とした青年を捉えているだろう。
音も無くスルスルと昇るエレベーターを降りて部屋に向かう。左手の鉄格子の様な手摺の越しの街は、光の粒になって点滅している。
何個も並んだ同じ部屋、全く変わらない外観が幾つかループしてその部屋の前に立つ。
インターホンを押す。 無音。
インターホンを押す、インターホンを押す。無音。
ここで彼女が出てきても、困るな。なんてここまで来て思ってた僕は、変な安堵感に踝位まで浸かっていた。でも、エントランスのガラス戸が開いたのだから、誰かは居るはず何だか?
安堵感から冷静さを取り戻しつつあった僕は、足元のそれにようやく気付いた。
扉の下に挟まっていたそれを広げると、住所が書かれた紙と同じ字体で数行の文を作っていた。
それは、手紙だった。
「来てくれてありがとう。まさか、本当に来てくれるとは思いませんでした。
来てくれたついでに、お願いがあります。
私は一身上の都合により、部屋からしばらく出られそうにありません。
なので、これからは手紙でやり取りをしましょう。
お返事は、扉の郵便受けに投函して下さい。」
よく分からないけれど、彼女が少なからず僕を不必要に思っていなかった事だけで僕は舞い上がっていた。
僕は、カバンからルーズリーフを取り出すとその場で返事の手紙を書いた。
手紙を書くのなんて何年ぶりだろうか、それも大切な人に。
多分もっと考える物だったんだろうけど。
その事に気付いたのは、団地の部屋の扉の様に、何故か彼女の部屋の扉にだけ設置された郵便受けに、一枚のルーズリーフを落とし入れてからの事だった。