行方不明
二つケーキを持参した僕は、相変わらずの上機嫌だった。しかし、横開き扉の向こう側には何も無かったのである。
溢れんばかりのコンピューター機器も、小さなテーブルも、海みたいなコードも、彼女も。
意味が分からない、つい三日前まではこの部屋は彼女の世界だったのに。
閉め切っていた部屋に外から差し込む光がこんなにも恨めしい日が来るなんて思わなかった。
ふらふらと部屋の隅、唯一の僕の場所とも言える所でしゃがみ込んだ。
部屋は広いばかりだった。彼女が何かを打ち込んでいたパソコンも今は机だけを残っている。
多分この部屋に元からあったものだからだろう。僕は荷物をいつもと同じ場所に置くと、彼女の定位置に座った。少し頭が良くなった気分がした。
彼女と同じ景色を共有するなんて始めてだった。
どうせ何もないだろうと、抽斗を開けた。
中には一枚のコピー用紙が動かないようセロハンテープで止めてあった。
その紙を取り出すと、横書きで住所が書いてあった。
わざわざパソコンで出力されたその数行で僕はここが彼女の居場所だと確信した。
住所以外何も書かれてないが僕は行く事にした。
突然彼女が消えて、僕の足りない頭が最初に後悔したのは、彼女に思いを伝えてないという事だったから。