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俺の寝床は。

 「ダメだダメだ! もう一人雪ちゃんを養うだなんて! ちゃんと元の場所に返して来なさい!」

「何でよ!? いいじゃない、折角私が二人になったのに」

「でも、向こうのお家の方にも心配かけるんじゃないかしら……」

「そうだぞ。きちんとお話をして来なさい」

「ムゥゥ……」


 両親の猛反対にあい、白咲がほっぺたを膨らませた。目の前で繰り広げられる白咲家の家族会議を、俺は捨て犬になったような気持ちで正座をしながら見守っていた。






 「……とりあえず、ウチの家族に見つかるのはマズイわ。他人なら『従姉妹』とか『遠い親戚』とかで誤魔化せるでしょうけど、家族はそうもいかない」

「じゃあ……」

「ベッドは一つしかないから、しばらく押入れで寝泊まりしてちょうだい。はいこれパジャマ」

「俺は猫型ロボットか」


 その日の晩。とりあえず白咲の家に泊まることになった俺は、内心胸をドキドキさせながら淡い緑のパジャマを受け取った。シルクの肌触りが心地いい。今から着替えるということは……つまり……。ゴクリと唾を飲み込んだ俺に、白咲は引き出しの中から目隠しを引っ張り出した。


「じゃあ、私が『着替えさせる』から、目隠しして」

「はあ?」

「だって、貴女男の子なんでしょう?」

「う……うわああ!」


 華奢な見た目によらず素早い動きで、俺はあっという間に彼女に羽交い締めにされた。

「ほら、キチンと立つ! 言っとくけど、勝手に私の体に触ったら人権侵害で訴えるから」

「うぅ……」

 目隠しをされ上着を脱がされながら、俺は女の子みたいな可愛らしい呻き声を漏らした。宿した肉体に触らずに生活するなんて、どう考えても無理な気がする。


「あら……こんなところにホクロがあるのね。私も知らなかったわ……」

「どこ?」

「うるさいわね! この変態!」

「ええぇ……」

 理不尽にぶん殴られながら下着を剥ぎ取られると、外気が肌に触れ俺は思わず両手で前を庇った。……何だか目隠しして服を脱がされていると、とてもイケないことをしているような気分になる。何も見えない暗闇の中、白咲がそのひんやりとした手で突然俺の頬に触れた。あまりの不意打ちに俺は飛び上がった。


「ひゃっ……!」

「『雪花』……貴女、寒いの? 頬が真っ赤だわ」

「い……いや!」

「フゥン……?」

 目の前に彼女の顔が近づいて来ているのが分かって、俺はさらに胸を高鳴らせた。ようやく着替えが終わり、俺が目隠しを解こうとすると、彼女がその手を掴んで制した。


「待って。貴女はそのままで寝るのよ」

「え? 何で?」

「何でって……だってそれ、私の体じゃない。寝てる間に変なことされたら嫌だもの」

「へ……変なことって……」

 紅く熱を帯びる俺の頬を、白咲が細長い指で握りつぶした。

「……妙なことしたらタダじゃおかないわよ」

「ファ……ファい……」


 ……どうもさっきから、主導権が向こうにある気がする。彼女はさらに、何やら縄のようなもので俺の両手を縛り始めた。

「ちょ……っ!? 何やってんの!?」

「もちろん拘束するのよ。勝手に動けないように」

「おいおい……! ヤメ……ッ!? マジかよ……トイレとかどうすんだよ!?」

「……一日二回、昼と夜に行動を許可する」

「むぐぅっ!?」

「暴れるなッ!」


 なおも騒ぎ立てようとする俺を、彼女は猿轡を噛ませながら無慈悲に縛り上げた。かくして俺は、その晩押入れの中で体を『X』に固定され眠れない夜を過ごした……。







 「雪ちゃん!? 雪ちゃん!! どうしたのその格好!?」

「むぐぅ……」


 次の日。俺は襖の向こうから仄かに差し込んで来た日差しと、聞きなれない女性の声で朝を知った。目隠しを外されると、白咲そっくりの年配の女性が俺の顔を驚いたように覗き込んでいた。恐らく白咲の母親なのだろう。女性は痛々しい目で衰弱した俺を眺めながら、急いで縄を解いてくれた。

「まぁ雪ちゃん……可哀想に……! こんなところで『X』になって……」

「うぐ……はぁ、はぁ……!」


 猿轡を外され、ようやく呼吸が楽になる。押入れの中から救出されると、俺は床にへたり込んだ。一晩中拘束されていたせいか、体に力が入らない。女性が心配そうに震えながら俺をぎゅっと抱きしめてくれた。向こうからしてみれば、朝起きたら娘が押入れで『X』になっていたのだから、その頭には恐らく最悪の事態が過ぎっていることだろう。


「雪ちゃん……! 一体誰がこんな酷いことを……!」

「貴女のお子さんですよ……」

 思わず口をついて出た愚痴に、お母さんはギョッと顔を強張らせた。

「まさか……そんな!? 弟の雅樹が……!?」

「え? い、いや、あの……そっちじゃなくて……」

「大変……! お父さん! お父さあああん! 雅樹が!」

「どうした!?」


 お母さんの大声に、今度は父親らしき人物が白咲の部屋に飛び込んで来た。お母さんが入って来た男性に泣きついた。

「雅樹が! 雅樹がお姉ちゃんを『X』に! う……うわああああん!」

「何だって!?」

「いや……あの……」

 どうやら上手く伝わっていないようだ。大混乱する部屋の中で、俺はしかしどうすることもできず、ただただ狼狽えていた。悲鳴と怒号が飛び交う中、さらに部屋にもう一人の当事者がひょっこり顔を出した。


「ただいまー……あ! もうお父さんお母さん! 勝手に私の部屋に入らないでって言ったでしょ!?」

「白咲!」

「ぎゃああああああ!」

「うわああああああ!」


 突如現れたもう一人の娘に、ご両親はあらん限りの大声で絶叫された。無理もない。目の前にいる娘が、後ろからコンビニの袋をぶら下げてのんびり帰って来たのだから。白咲は俺と目が会うと、罰が悪そうに頭を掻いた。


「あちゃー……みつかちゃったか」


 こうしてその日の午前中、白咲家では緊急の家族会議が開かれることになった。

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