就職浪人3年目突入の前日
3月31日午前5時30分、この国ローゼンブルクの首都であるフィルグスの南地区の一角にある月2万5千円のボロアパートに目覚まし時計のアラームが鳴り響いた。音の発生源は1階の角部屋101号室からである。このアパートの壁は建築法ギリギリの設計であるため薄く物音が隣の部屋に漏れるのは当たり前、少し大きな音ならアパート全体に響く始末。その為アパートの住民達にとって4年間平日・休日関係なく5時30分に必ず鳴り響く目覚まし時計のアラームは鶏の鳴き声並みに朝の訪れを知らせる定番の音になっていた。
アラームが鳴り始めて15秒、これまたいつも通り101号室の住人である男の手によって目覚まし時計はとめられ、同時にテレビがつけられた。しかし、1Kの部屋の窓側に置かれた備え付けのベットからこの部屋の住人が起き上がる気配はない。そんなテレビがつけられた状態からきっかり30分、6時ジャストに男は突然布団を蹴飛ばし跳ね起きた。そして備え付けのクローゼットからタオルを一枚取り出し、風呂が備え付けられたトイレに向かった。男は顔を洗い、髭をそり、口を洗浄液ですすぎ、用をたして部屋に戻った。そんな朝の最低限の支度を終えたこの男の名はアーク・レイモンド、年齢は24歳、容姿は黒髪に人によってはまぁそこそこいいかなという感じの中の上な顔、身長は170半ばのやせ形。
そんなレイモンドには一つ大きな悩みがあった。それは明日で就職浪人3年目に突入するということである。大学4年までに就職は決まらず、卒業して2年がたっても決まらず現在は多くのバイトを掛け持ちして生活費稼ぎと奨学金の返済をしながら就活を続けている。
「ちくしょう、何でこんなことに。もうこうなったら、魔法と剣術を活かして軍属になるしか⋯、でも命の危険が伴う仕事は⋯」
アークは数少ない自慢である無駄に良いヴァりトンの声でそんなことをつぶやきながら悩んでいた。アークは一般大学を卒業しているが、かつてはローゼンブルク有数の国立軍事高校に在籍していたのである。
「はぁ~、仕方ない。背に腹は代えられない。俺にとっては試験なんて問題ないし志願届さえ書けばいいようなもんだし。役所が開くまではまだまだあるし着替えでも」
チリンチリン
アークが自分の人生の行く末を決めたところで突然ドアベルが鳴った。現在の時刻は未だに6時半決して人が訪ねてくるような時間でもないし、訪ねていい時間でもない。アークは首をかしげながらドアを開けた。
「はいはい、どちらさ⋯⋯⋯え?」
アークがドアを開けるとそこには見慣れた3人がたっていた。と、言ってもお互いが知り合いという訳だは無い。アークが一方的に知っているだけである。黒いスーツを身にまとい帯剣をしたアークより少し若いくらいの金髪美女、同じく黒いスーツを着た50代くらいの白髪交じりのダンディーな男、そしてそんな二人を後ろに従えた品の良い白いドレスをを着たこれまた透き通るような白い肌に白い髪をした20歳前であろう美女。そんな3人の来訪者を見たアークは口と目を丸くしながらショートしていた。
そんなアークを見て金髪美女とダンディーさんは「まぁ、そうなるよな。」と言いたげな顔をしながら同情的な目を向けていた。それに対して真っ白美女はアークの様子に話しかけていいのか戸惑っていた。そして、意を決して話しかけようとしたその時アークが口を開いた。
「そうか⋯、俺こんな夢を見るほど追い詰められてたんだ⋯。早く目覚まそう、そうしよう。」
そう言ってアークはドアを閉めた。そんなアークの言動を見て美女二人はかたまり、男性は静かに「そうきたか。」とつぶやいた。そしてかたまった2人の再起動を待つこと1分、ようやく2人は正気に戻った。
そして、美女二人がドアをたたきアークに呼びかけた。
「ア、アーク殿扉を開けた下さい。これは夢ではありません!!アーク殿~!」
「アークさん話をしましょう、ここを開けてください!」
5秒後、二人の思いが通じたのかドアがゆっくり開いてアークが顔を出した。そして困惑した表情で口を開いた。
「静かにしてください⋯、あーまず御三方は俺が頭に思い浮かべている3人と同一人物で?」
「恐らくそうだろう。」
そう男性が答えるとアークは顔を青くして土下座をした。
「申し訳ありませんでした!何卒命だけは!」
そのアークの行動を見て3人は心を一つにして叫んだ。
「「「貴方は私たちを何だと思っているんだ。」」」
その声は朝の首都に響いた。