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Episode96 放課後の騒がしいひととき

 放課後、少し日が傾いた頃だろうか。

 部室棟の一角にあるJRCの文字が書かれた部屋の中に俺はいる。

 あいにくカーテンを閉めているため、外の様子はわかりようもなかった。


 さて、では室内はどうなっているかというと。


「……あ、あのー?」

「……」

「…………何か?」


 ひいいいいいいっ!?

 ってなりそうな所をどうにか我慢しないと。


「……ほら、何かあるのなら言いなさいよ? 聞くだけ聞いてあげるから」


 この異常なまでの威圧感を放っているのは二つ結びの金髪をした容姿端麗の美少女、弥生だ。


 高成さんも怖かったけど、なんというか……子は親に似る、とでも言おうか。

 なんか昔に思った気がするけど、とりあえず怖いということだけでも知って欲しい。


 不気味なまでに静まった室内には、俺と弥生、青葉の三人がいる。

 先輩は相変わらずよく分からないのはさておいておく。

 ティエルは私用があるので、なんて言って帰っちゃったし。


 こういう時にいると助かる海斗さんはまだ来てくれない。


「洵さん!」

「な、何だ?」


 机を叩いて立ち上がった青葉に名前を呼ばれて、俺は後ずさりするような気持ちになってしまう。


「さて、お昼は何故来れなかったのか。納得が行くように説明をしていただけますか?」


 少しずつこっちに詰め寄らなくてもいいじゃないですか。とても怖いんですけど。


「そうね、その件についてはあたしも気になるわ。洵、話してくれる?」


 まさか弥生まで立ち上がってこちらへ近付いてくる。

 え、えっとこれはドラマの取り調べみたいなものですかね?


「ちょ、二人とも怖いから」


 俺は思わずパイプ椅子ごと後ろに下がっていく。

 気が付けば壁と背中はぴったりと合わさっていた。


「この際気にしません。真偽を確かめたいのですよ」


 目の前まで来た青葉は壁に右手を付いて威圧的な態度を続ける。


「ほら、早く自白しなさい」


 続いて弥生までも壁に手を付いて睨みを利かせてきた。


 なにこれ、話題の壁ドンってやつかな。

 違う意味でドキドキしてるよ。恐怖心しかないよ。


「は、はい……」


 俺は二人に気圧されて、こうとしか返すことなできないのだった。

 芝居にしても刑事ドラマの被疑者ってすごいなぁ……。





「その、さ……何というかな……ティエルに呼び出されまして……」


 泣きながら自供する犯人の気持ちが少し分かるよ、辛いよ。


「ふむふむ……そして?」


 須田が持ってきた茶色のダッフルコートを着た青葉は、俺が喋るごとにメモを取るような仕草をしている。


 お前絶対に楽しんでるだろ。


「何があったのか、早く白状しなさい」


 机をバン、と叩いて言うのは弥生で……


「って、なんで弥生もコート着てるんだよ。暑いだろうに」


 これまた弥生も青葉と同じように黒色のダッフルコートを着ていた。

 暑そうに見えるんだけど……。


「話を逸らさない」

「少しだけ汗がにじんでる気がするんだが」

「う、うるさい!」


 軽く俺をはたいた弥生は恥ずかしそうに後ろを向いてしまった。


「……逸れましたね。というかデリカシー云々の問題ですよ、今のは」

「は、はぁ……すみませんでした」

「それは置いといて、早く吐いてください」


 置いといていいのかよ。

 ぐぐぐ、と机に手を付いた青葉はこちらに顔を近付けてくる。


 距離が近づいてくるにつれて、綺麗な肌がより鮮明になる。

 わずかに揺れる銀髪からはシャンプーの香りだろうか、柔らかい、落ち着く香りがしていた。


「どうしましたか? ほら、早く洗いざらい話してください」


 詰め寄る青葉は脅すように睨みを利かせてくる。


 あいにくそれが可愛くも見えるんだけど、それは言わない方がいいだろうか。


「何があったのか、秒刻みで!」

「秒は分からないから!?」


 例え細かく時計を見ていたとしても……学校の外付けの時計なんてのは秒針がないもので……察してください。


「しのごの言わなくていいです。ほら、はよ」

「言い方どんどん雑になってますよ!?」

「話を逸らさずに言ってくだ──」


 その時。

 部室のドアが開き、現れたのは……


「みんなー、来てくれてるー? って、皆いたのね。まあ陸がいたり居なかったりするのはいつもの事だから……」


 まずいつも通りの猪崎先輩が現れ、その次に顔を見せたのはこれまた騒がしい人だった。


「美少女が集いし楽園へと、我は参ったぁぁ! む、後は洵を駆逐すれば我の天下であるか! ようし、覚悟しろ!」


 ま、まあ助かったんだけど……違う方向で危なくなった。


「天下もくそもあるかー!」

「黙れ! 貴様が居なくなればここは我のハーレムとなるのだぁぁ! 喰らえええ!」


 ペットボトルをブンブンと振って攻撃をしてくるのだが……いや、駆逐とか言うからもっと危ないものだと思ってました。


「って、痛!?」


 思いもよらぬ痛みに思わず声を上げてしまう。


「ふっ、角は痛いだろうな!」


 からのしてやったり顔の海斗である。


 こいつ殴っていいよね、正当防衛で。


「あーもう、邪魔しないの……須田、やっちゃって」

「かしこまりました。皐、覚悟しろ!」


 うんざりとした様子の弥生に命じられ、どこからか現れた須田。


「アイエエエエ!? オトコオンナ!? オトコオンナナンデ!?」

「うるさい黙れえええ! このっ、このっ!」

「アイエエエエエエエエ!? くっ……サヨナラー!」


 なんか必要以上にボコボコにしてる感じがとても否めません。

 須田おそらくストレス溜まってるんだな、うん。


 そんなこんなで無事海斗はノックアウトされて……次にドアからひょこっと出てきたのは──


「ティエル!?」

「ごっ、御機嫌ようでございますわ、皆様」

「あら、今日は来れないって聞いてたけど?」

「そうですね。さっき洵さんから今日は休むって話を」


 なんだろう。この二人から何か敵意のようなものを感じる。

 こういうのはおそらく首を突っ込まないでいる方が懸命だろうな、きっと。


「ああ、ティエルちゃんは私がたまたま見つけてさー。時間あるか聞いて連れてきたのよー」

「いや、あれは是非を聞くような物では思えなかったですわよ……」


 笑って言う猪崎先輩とは真逆で少しやつれたような様子のティエルだ。


「で、用事ってのはよかったのか?」

「それはもう終わりましてよ。学校に忘れ物があって取りに来た所を捕まえられたのですわ」

「な、なんかお気の毒な気もする……」


 よく考えてみれば、俺を勝手に部活に入部させたのはこの子だった気がするけど。


「まあ分かりましたね。さて、洵さん、話は終わってませんよ?」

「今回の件はティエルも関係がありそうだから、二人に問い詰めましょ」

「あ、はい……」

「えっ……」


 まだ事態を呑み込めてないティエルは挙動不審である。

 そして俺の顔を見ると「もしかして?」みたいな顔をしたから、俺は素直に頷いた。


「やっぱり……なんとなく予想が付かなかったわけでもないけど」

「お? おっ? まさかこれは修羅場ってやつ? わくわく」

「わくわくしないでください!」


 口にするあたりがまたなんとも。

 先輩、出来れば退場して欲しいです。

 

「さて、二人に何があったのか……すべて話してもらうわよ」

「は、はいい……」

「こ、こんな事になるとは……」


 俺たちがお昼に起こった事を何もかも話すと青葉に落胆の表情をされ、弥生には無表情のまま、ため息をつかれてしまった。


「洵くん、か。それと皆、なんか面白そうだし私も加わっていい?」

「「「絶対にダメです」ね」わ!」

「ぶー。みんな酷いよ……先輩、泣いちゃうぞー」

「いや、あの、本当これはそっとしておいてください……」


 面白半分で首を突っ込まれて余計にややこしくなるのは実に問題だ。


「仕方ないなー……って、もう下校時間じゃない。よし、今日は終わりねー」

「相変わらず活動してませんね……」

「気にしないのー。そもそもこの学校にこの部活があるのは形式的に置いてあるだけみたいなものだからいいのー」

「い、いいんですね……」


 そんなこんなで日が暮れてきた部室棟を出る。

 夕日の影を歩きながら、今日もいつもと同じだろうかと思っていると、思わぬ事となった。


「洵」

「弥生どうした?」

「今日は先に帰っててくれる? なんなら車を貸すわ」

「えっ……」


 いや何故こうなったのだろう……。

 話がさっぱり読めない。


「じゃ、あたしたちで少し行きたい所あるから。また明日ね」

「お、おう……」


 弥生はおしとやかにそっと手を振る。、

 それから青葉、ティエルとどこかへ歩いていくのだった。


 そして俺はふと気付く。

 縮こまっているセーラー服姿の……男に。


「須田?」

「ど、どうした?」


 僅かに声を震わせている。


「いや、何でこんなところにいるんだ?」

「ああ……私もついて行きたかったのだが……男子禁制、とか言われて……うう」

「わ、分かったから泣くな」


 須田は泣き崩れそうになっている。

 おまけに半ば抱き着くような形になっているから、こっちもどうしていいのかわからない。


「正直、須田なら気にせず入れそうな気はするけどな……」

「あ、ありがとう」


 何でこんな素直なのかなー。

 絶対におかしいなー。


「……と、すまない。お嬢様に家にまで届けて欲しいと頼まれているんだった」


 やっと須田は俺から離れ、少しばかり落ち着いた。


「いや、別に歩いて帰るよ」

「……いや、少し話に付き合ってくれないか?」


 少し気恥ずかしそうに須田は言う。

 男だと知ってなければドキっとしそうな気もするんだけど……。


「理由それかい」

「悪かったな」

「まあ……それなら分かったよ」

「話が分かるな、そういう所は好きだ」

「……ぶふっ」

「……?」


 不意打ちを喰らって吹き出しそうになるのを堪えながら、校門まで並んで歩いていく。


 車の中で須田の愚痴を聞き流しながら、ふと思う。


 そういえば、宝生さんを見ていない。

 どうしているのだろうか。

 それだけが、ただ気がかりだった。


 ……突然、通知音が鳴る。


「また海斗か……?」


 開いてみると、公衆電話からの着信が一件。

 どうせ間違い電話だろうと、俺はスマホをバッグに戻すのだった。

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