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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode9 突然の来客

なんか来客が来る回になったのでタイトルを……

 急に降りだした雨は勢いこそ弱まったものの、未だ降り続けている。

 すっかり雨に濡らされてしまったせいで帰宅直後に母に驚かれつつ……シャワーを浴び髪を乾かして、もう大丈夫……だろう。

 結局、海斗に電話で聞いてみたが『ゲームしようぜ』とだけ返される始末。

 何故だ、あいつなら釣れると思ったのに。

 俺は雨の中行きたくなんかないって断った。するといきなり切られた。

 いや礼儀とかさ、一言くらい言えよ。

 なんて思いながら自分の無力さ、不甲斐なさにうちひしがれていた。

 それなりに頑張ってみたものの、結局何も出来ていない。そんな自分に腹が立って仕方がない。


 ピンポーン。ピンポーン。

 と、そんな苦悩をかき消すかの様に二度インターホンが鳴る。

 俺は知っている。あの男はいつも二度押す事を。奴が来たに違いない。でも……何しに来たのだろう?

 俺は浮かんだ疑問が気になりつつも、玄関の鍵を外す。

 と、ほぼ同時に物凄い勢いで扉が開いた。


「洵、待たせたな!!」


 海斗は相変わらずいつものシャツ――何かのキャラのもので俺はよく知らないが……海斗曰く俺の嫁と呼んでいる――を着ていた。

 つーか待ってないし。来てくれとも言ってねえ。

 とか思うが、わざわざ雨の中来てくれた客人をむざむざと追い出すのは俺の良心が許さない。例え海斗であっても。

 とりあえず海斗を部屋に連れていった。

 海斗は俺が出したポテチを遠慮も一切せずに食べている。


「ところで……その、だ」


 海斗は何かを伝えようと必死である。

 いや、手をめちゃくちゃに動かすジェスチャーじゃ分からんて。


「あーもう! ほら! 女の子の事だよ!!」


 あんなくねくねしてたジェスチャーで分かったらすごいと思うが。少なくとも俺には何も分からなかった。


「ああ……でも何で家まで来たんだ?」

「そりゃあ、その話を詳しく聞くために決まっているさ」


 わざわざ来なくたって良いのに。

 そんな俺の気持ちなんて知らずに海斗は続ける。


「で。どうなのよ、そこんとこ」


 何故か海斗は自身の顔を指して言った。


「酷いな」

「え!? いやいや、俺はその女の子がどうか聞いただけだ、己の顔がどうだとか一言も言ってないぞ? というか貴様、俺を貶すとは……洵の分際で!」

「悪い、つい本音が」

「やっぱ許せねええ! 自分は彼女いるからって、人を見下すなんて、言語道断だろう!!」


 ……そもそもお前は俺を見下してたろ。説得力の欠片すら伝わってこない。

 海斗はやけになったのか、ポテチと共に出した炭酸飲料をがぶ飲みしている。


「げほっげほっ……まさか……毒っ!?」


 海斗は一度深呼吸をし、再び聞いてきた。

 ちなみに毒なんてありません。


「で、どれくらい可愛いんだ? 写真とか無いのか?」

「無いな」


 そういや普段から写真なんて撮らないからか、そういうの忘れてた。

 まあ俺には写真撮らせてくださいなんて言う度胸は無いのだけれど。


「ほんとに可愛いのか」

「ああ。銀髪でおかっぱの女の子だよ」

「ふむふむ……刀とか、何か無いのか!!」


 明らかに興奮した様子で聞いてきた。

 いや、ゲームとかアニメ見すぎだろ。でも……あるんだよな、羽が。

 今でも信じられないけど、それで飛んだ身からすると信じないわけにもいかない。


「……白い羽ならある」

「羽だと!? ふむ……」


 それはそれでアリだとか呟いている。

 海斗に話すのはミスだったかもしれない。……会わせたくないな、こいつが鈴見つけても。


「そういえば、大切な物を探してるんだって?」


 まだ興奮冷めやらぬ様子の海斗。もしも毒があるなら飲ませてやりたい気すらしてくる。しないけど。


「おう、探してくれるか?」

「合点承知でござんす」


 海斗は手をさしのべる。 嫌々ながらも俺は海斗の手をとる。ちょっと手汗が付いて気持ち悪い。

 まあ手伝ってくれるんだから色々と目を瞑ろう。

 小鳥遊さんが危なくなったら責任とって止めなきゃな、なんて思うけど。


「さて、話は決まった所で……」


 嫌な気がする。いや、絶対そうだ。こういう時って当たるんだよな。


「今から朝までこの! つい先日発売された! 売り切れ続出という! 今話題の! 萌え格ゲーをやりこむぞぉ!!」


 何処から出したか分からないが、ゲームを取り出した。あと説明の仕方がうざったい。

 多分寝れないよな。朝までって言ったもんなー。

 はぁ……明日は土曜日だからまだ助かったが、前にもこういった事があった。

 終わった後の疲労感は尋常ではないから、ほどほどにしてほしい。


「誰か……助けて」


 海斗は俺の助けを求める声も気にせず、勝手にそのゲームを起動した。


「今から朝までぇ! フィーバーだぜい!!」


 ほんと助けて。須田、女装執事、おい助けろ!!

 なんて願いは届くわけもなく、俺は強制で海斗とその萌え格ゲーとやらを朝までぶっ続けでやらされる羽目に遭うのだった。




 閉めきっている部屋にカーテンの隙間から薄い光が差してくる。

 気づけば朝になっていたようだ。


「大丈夫か?」

「いや……無理、眠すぎ」


 正直、俺はもう限界だった。

 海斗が持ってきた萌え格ゲーとやらは普通に面白かった。

 どうせ萌え路線のゲームだろと思っていたのとは裏腹によく出来ている。

 格ゲーらしくコンボもあり必殺技みたいなのもあり他にも独自のシステムがあったりと、奥が深い。

 最初は海斗に必殺技とか半分くらい体力が持っていかれるコンボなどを鮮やかに決められ完膚無きまでにフルボッコにされていた。だがある程度たつと少し慣れてきて、それなりのコンボも出来るようになった。

 一度だけだが、海斗に必殺技を決めて勝った時の爽快感と謎の感動は筆舌に尽くせない。

 と、無駄に語ってしまうくらい分かりやすく俺はハマってしまっていたのだった。

 話題になる理由がなんとなくわかる。そうして気付けばハマっていた俺は、海斗にこのゲームを買ってもらうことにした。売り切れ続出らしいが海斗行きつけの繁華街の裏通りにあるらしいコアな店にはまだあるらしい。店長が売れるのを見越して多く仕入れたのだとか。

 ナイス、店長。


「しかし……これだけの時間でこの伸びとは……我を超える逸材か……!?」


 なんか呟いている。

 しかし何でこいつはこんなに元気なんだ。

 無駄にタフな所とゲームに関しては勝てないな。

 それより眠い。寝たい。

 帰るわ、と言う海斗を見送る元気すらない。

 とにかくまぶたが重たいのだ。

 とりあえず寝よう。もうだめだ……。

 俺は部屋もろくに片付けずベッドに倒れ込み、そのまま眠りについた。




 小鳥のさえずりが聞こえる。

 そっか、あの後すぐに寝たんだっけ。


「重い……」


 何かがのしかかる感覚に襲われる。

 金縛りというやつだろうか。やっぱ無理して長時間ぶっ続けでゲームなんてするからだ。

 あのゲームはまたやってもいいがもう絶対にあんなにするものか。


「あの」


 しかし……重い。

 初めての金縛りにちょっとだけ胸がふくらむ。

 何しろ初体験だし。


「あのー」


 こんなにはっきりと何かが乗っている感覚に襲われるのか、などと俺はのんきに考えていた。


「あのー? 起きてます?」


 金縛りに遭うと声まで聞こえるのか、知らなかった。


「いい加減にしてください!!」


 バシ。

 何者かに頭を叩かれた。多分母さんだろう。起きろという催促だ。にしても珍しいな。

 あいにく俺は、金縛りに遭っていて動けないのさ。


「痛いなぁ、寝かせてくれよ」


 布団に顔をうずめる。

 と、今度は急に体が浮く感覚に襲われる。

 次は幽体離脱か。すごいな、心霊現象のフルコースでも堪能させられるのか。

 ドサ。

 俺は夢から現実に落とされた。


「いだ!?」


 床に落とされ、背中に痛みが走る。

 痛みに耐えかねつつふと、まぶたを開くと……。


「やっと起きましたか」


 おはようございます、と一礼をする。

 銀髪が光に反射して眩しい。小鳥遊さんだ。


「何で……小鳥遊さんが……?」

「お礼を申し上げに参りました。昨日はわざわざ私の鈴をお探しいただき、ありがとうございます」


 小鳥遊さんはまた、礼をした。

 ああ、その事か。


「見つかってないから……何もわざわざ来なくても」

「いえ、たとえ見つからなくとも、お探し頂いたのは変わらぬ事実ですから」

「律儀だな……。そういやさ……鈴って、どんなの?」

「……小さな鈴です。紅葉の……ストラップが……付いていて――」


 そう語る小鳥遊さんは、今にも泣きそうな顔だった。


「あー……もういいよ、大切な物なんだよな……今から交番とか行ってみるよ」

「で、でも迷惑を……」

「いいからさ、羽があると何かと大変だろ?」

「それは……」


 小鳥遊さんは言い淀む。

 羽があるとあまり公衆の面前には行けないだろう。目立って仕方がないはず、それなら俺が動けばいい。

 何も出来なくても、何かをしようとすることは出来るんだ。


「行ってくるから、ここにいて」


 少し黙っていたが、素直にはいと頷く小鳥遊さん。

 しかし、ただ一つ問題がある。この部屋に置いておけばひとまず安全だろう。

 だが、母さんに気づかれると面倒だ。

 何かがあると大変なので誰か一人つけなくては。

 だからと言って、海斗のバカに頼むと不安だ。それに帰っていった所だし。

 他に安心できそうな頼れる人……一人だけ浮かぶ。

 でも、なんか嫌だ。それでも……。

 待てよ、落ち着いて……今優先するべき事を考えないといけない。そうだよ、そんなこと言ってる場合じゃないじゃないか。

 俺はスマホを手に取って、二回目になる連絡をした。

そろそろ青葉ちゃんについての話が加速していきます。


次もよろしければ見ていただけたら幸いでございます。

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