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Episode89 暗いところはお好きですか?

 ……乗った感想を言おうか。

 もう乗りたくない。

 これに尽きる、うん。

 俺の予想を遥かに超えていて……何あれわけがわからないよ。


 とにかく怖かった。

 叫ばない程度には堪えたが、ものの見事に涙目だったりする。


「…………大丈夫か?」

「なんかごめん……大丈夫だよ、多分」


 俺たちは今、近くのベンチに座っていて、ぐったりしている俺はすっかり宝生さんに心配されてしまっているのだった。


 当初の予定と全く違う気がするんだけど……

 あ、宝生さん普通の人じゃないんだった。


「もう少し休んでもいいが……」

「いや、もう大丈夫だから次行こう」


 このままここでいつまでも休んでしまっては男が廃るというもの。

 俺は右腕で涙を拭って立ち上がった。


 そうだ、少しは男らしい所を見せるためにもここはお化け屋敷でも行ってみようじゃないか。


「よし、お化け屋敷でも行かないか?」

「ふむ……実はこういう所は初めてでな。せっかくだから……一度くらいは経験してみるのも悪くなさそうだ。連れていってくれ」


 男勝りな宝生さんはむしろ俺よりも男らしいんだけど……ま、負けない!


 この時間はそこまで客が多くないのか、それともあまり人気がないのかは分からないが、お化け屋敷の列はあまり並んでいないようだ。



 列に着いてから10分くらい経った頃には中へ入ることができた。


「これをどうぞ。もしギブアップする時は壁にあるボタンを押してください。それでは……」


 受付のスタッフに通されて入ると、暗めのおどろおどろしい内装が施された空間があり、真ん中のテーブルにはぽつんと懐中電灯が一つだけ置かれていた。


「さ、行くぞ」

「ふっ……ビビるなよ?」

「このくらいなんてことはないさ」


 不気味なほどに静かな道を進みながら軽口を叩いているが、正直言うと結構怖いです。


 少し進むと一枚の扉があり懐中電灯で照らしてやると、扉には『CAUTION!!』とだけ書かれていた。

 入るときにもらった、道順が書かれた案内図の通りだからここで合っているはず。


「さ、開けるぞ……」

「ほら、早く開けないか」

「うるさいっ!」


 少しドキドキしながらも、俺はそっと扉を押してみた。


 ギィィィと軋むような音を立てながら扉が開くと、目の前に広がる景色は暗いのはそのままだが、先程よりはだいぶ明るかった。

 その理由は簡単で、扉が立ち並んでいるようなのだが『手術中』などと書かれたライトがあるからだった。


 そう、どうやらこれは廃病棟という感じのようである。

 ……ってこのタイプが一番苦手なんだけど。 ヤバイ。


「いつか行った戦場近くの病院のようだな」

「……そ、そうなのか」


 やっぱりこの方普通とは感覚やらが違うよ……少しめげそうだ。

 でもどこか楽しそうに見えるからよしとしよう。


 書かれた通りの道を、少し心許こころもとない懐中電灯の明かりを頼りに歩いていく。


 どこかから何者かの声が聞こえてきたり、一瞬だけ霊のようなものが見えたり、突如悲鳴が聞こえたり…………って普通に怖いんですけど!?


「なかなか面白いじゃないか」

「……喜んでいただけて何よりです」


 なんだか違う方向に楽しんでる気がするんだよなぁ。

 まあいいか、これはこれで──


「……え? あれ? え?」


 突然、懐中電灯の明かりが消えた。

 点け直してみても、懐中電灯が輝きを取り戻す気配はない。

 唯一と言ってもいい明かりを失ってしまった今、辺りはより一層暗くなった。


「接触不良……ではなく電池切れ、か」

「これだと足元すら見えにくいな……」


 俺たちはその場で立ち止まってしまった。

 しかし、先程から何者かが後ろを追いかけているようなので出来るならさっさと行きたいんだけど……もう走るか。

 いや転ぶかぶつけそうだしやめよう。


「目を凝らせば見えなくはない、安心しろ」

「……まあ見えなくはないか」

「ああ、そのまま行こ──っっ!?」


 急に途切れたその次の言葉は紡がれる事はなく、代わりにドサ、と何かが倒れる音が先程から徐々に近付いてくる足音よりもはっきりと耳に届いた。


「宝生さん?」


 何故かは分からないが倒れてしまった宝生さんの様子を窺う。

 どうやら気を失ってしまっているのか、宝生さんの吐息が微かに聞こえる。


「……やるしかないか」


 すぐ近くには非常時用のボタンがあるのだが……いや、それよりさっきから近付いてくるのがより鮮明になっていて……


「オイテケ……オイテケ……」

「うおおお!?」


 気がついた頃にはそのお化けはもうすぐ近くにまで迫っていて……あ、メイクすごい力入れてるな……じゃなくて。


 とりあえず出口はもうすぐで、ひたすらまっすぐ行くだけ。


 俺は焦りながらも宝生さんを背負い、出口へ向けておもむろに駆け出した。

 すると、そのお化けも何かのスイッチが入ったでもしたのか、俺たちを猛スピードで追いかけてくる。


 メイクとか衣装があまりに完璧で追いかけられるとただ怖いんですけど!?


「うおあああああ!!」


 がむしゃらに出口と書かれた扉を開けると、さっきまで感じていた雑踏が蘇った。


「お疲れ様です! また来てくださいねー……って、お客様、大丈夫ですか!?」


 懐中電灯と案内図を受け取った受付のスタッフさんは狼狽していた。


「救急車とか呼びますかっ!?」

「えっと、落ち着いてください」

「でもでも!」

「ん……んん? なんだか騒がし…………え?」


 慌てふためくスタッフさんを宥めていると、どうやら宝生さんが目を覚ましたようだ。


「お、お客様大丈夫ですか!?」

「ああ、特に問題はないのだが……それより何故こうなっている!?」


 よかった、と胸を撫で下ろすスタッフさんと打って変わって宝生さんは困惑しきっているようだった。


「いや、突然倒れたから背負ってきたんだけど……」

「……と、とりあえず下ろせっ!」

「お、おう」


 少し頬を染めた宝生さんはどこか気恥ずかしそうだ。

 なんか新鮮で可愛いかも。


「で、大丈夫か?」


 俺はようやく一息ついた様子の宝生さんに声をかけた。


「ああ、この所あまり寝てなかったからか……すまない」

「少し休むか?」

「いや、そこまで問題でもないのだが……」


 なんだか申し訳なさそうな宝生さんを見るなんて思いもよらなかった分、少し微笑ましくも感じてしまう。

 宝生さんを見て俺はつい、ふっと笑った。


「笑ったな……? ふっ、上等だ、今に見ていろ」


 などと俺を睨みつけながらそう言う姿は、とてつもない迫力が漂っていた。


 やっぱり本物は違うね、うん。

 と、そんな矢先に腹の虫が鳴いた。


「お腹すいたよな、どこか食べに行くか」

「ぐっ……うううう……一時休戦だ……」


 あなたがそんな言い方をすると妙に怖いのでやめてください。


 それから俺と宝生さんは飲食店が立ち並ぶエリアへ向かうと、待ち構えていたように弥生と青葉とティエルに出会った。


 女子4人、男子1人── 宝生さんは男と見ても間違えてない気すらするが──の計5人で飲食店が並ぶ辺りを練り歩いていく。

 好奇の目、嫉妬の目などにさらされた俺はどこか肩身が狭い思いをしながら、進んでいく4人にため息をつきながらもついていくのだった。


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