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Episode86 先輩たち

 放課後、部室棟へとりあえず向かおうとした俺は海斗に呼び止められた。

 相変わらずの小太りな体は蒸し暑い。

 できれば5mくらいは離れてほしいものだ。


 その蒸し暑さでこちらへにじり寄ってくる海斗があまりに異様なせいか、俺は思わず後ずさってしまった。


 「お前……待ってろ、汗拭いてくる」


 何かを察したのか、海斗は走り去っていった。

 待ってろって言われたけど待ちたくないのが本音である。

 まあ待つけど……


 先に靴やらをもっていこうと玄関まで来ていたのだが……やはり放課後の玄関は人が多い。

 というかこの学校に人が多過ぎるのが問題だと思うんだけど。


 そんな人混みの中で、やはり際立ってるあのイケメン園田は見なかったことにして……もう一人イケメンがいた。

 山吹玲音……だっけ、は何やらキョロキョロしているようだ。


 つい気になったので俺は声をかけてみることにした。


 「どうしたんだ?」

 「ああ、小波さん。姉が御迷惑をかけているみたいで申し訳ないです」


 丁寧に玲音は頭を下げて謝る。

 なんだか俺も釣られて頭を下げた。


 「まあそれはもういいとして……何をしてるんだ?」

 「え? ああ……と、特に何もないですよ?」


 玲音はなぜかはぐらかす様な仕草をする。


 ……何かあるのだろうか?

 などと思うのも束の間、海斗がこちらへ走ってきた。

 海斗が来たのに合わせて、すうっと玲音は軽く挨拶して去っていった。


 「悪い、またせたな」

 「まあそれはいいよ。で、何かあるのか?」


 この際海斗の事はちゃちゃっと済ませて部室行こう。

 いや、本来なら帰ってるんだけど……弥生は今日も教師に呼ばれてるようなのだが「遅れるから先に行ってて」という言葉を俺に残していったのだ。

 つまりは来いという事である。

 正直帰りたいです、はい。

 

 「ふふふ、一年屈指の美少女が集う部活を俺様が忘れるわけが無かろうに!」

 「帰れ」


 俺は下駄箱から靴を取り出して、体育館横の出入り口に向かう。


 「待てやこらぁ! あんさんそんなの無いって!」


 放って行こうとした俺の目の前に鮮やかに滑りながら海斗は現れる。


 「せめてキャラくらい守ろう、な?」


 まあろくでもないキャラだし、今更どうでもいいんだけどね。


 「そういう問題じゃないっ!」

 「……入りたいのか?」

 「もちのろんだよ! そんな楽園……じゃなかった、魅力的な部活に入らないわけが無いだろう!? 俺だよ!?」

 「そこ強調いらない」

 「ああ……もう、つい熱くなってしまったじゃないか。とにかく、これまでの借りもあるんだ。紹介してくれるかい?」

 「……いや、普通に先輩に言えばいいだけだよな」


 俺の言葉にハッとした海斗は少し大げさに項垂れた。


 ……やっぱこいつバカだろ。


 「そうだったな……すっかり忘れていた。んで、どこにいるんだよ?」

 「おそらく部室にいるよ」

 「よし、連れていけ」

 「……断る」

 「何故に!?」


 こいつがあの部活に入ったら色々と終わる気がするんだよな。

 しかしまあこいつがいれば話題には尽きない気も……するんだよなぁ。


 「決めた、俺は是か非であろうとついていくぜ」

 「……迷惑だよ、まったく……」

 「借りがだな……」

 「あーもう、分かった、分かったから!」


 もう勝手にしてくれ……


 「ついてくるなら好きにしてくれ、俺は行くから」

 「イェッサー!」


 俺はため息混じりに言うと、海斗は元気にビシッと敬礼をした。

 妙にキレが良いのがよく分からない。


 こうして、俺と海斗は部室に向かうのだった。





 猪崎先輩の包容力は伊達ではなかった。

 突然押しかけてきた海斗を驚く様子もなく迎え、そのまま入部手続きを済ませてしまうという……この人保険会社とか向いてそう。


 先輩からしたら一部員にしか見てないんだろうけど、こちらからすれば爆弾を放り込まれたようなものである。

 途中で何回か逃げようとしたのに追いつかれたし……いつも遅いくせに何故だ。


 「ううっひょあああああ! やりましたぞおお!」

 「うるさいですわ、黙りなさいっ!」


 騒ぐ海斗にティエルはスカートを翻しながら蹴りを浴びせた。

 なかなか痛そうな音が響いた気がする。


 「痛いっ!? しかしいい!」

 「え、えええ!?」


 そしてやつはタフ――もとい、M――なので全然効いていない……というより逆効果である。きめぇ。


 まだ慣れていないであろうティエルは盛大に引いているのだが、当の本人は恍惚こうこつな表情を浮かべたままだ。きめぇ。


 「問題とか起こすのはやめてね? この部活結構崖っぷちだから問題起こしたりなんてしたらどうなるかわからないもの」


 猪崎先輩はあくまで冷静に海斗に注意をしている。

 この人なんだかすごい。


 「は、はい……尽力します…………ああ、言葉攻めもまたありだな……」

 「いい加減にしろ、というか優衣に馴れ馴れしく触れるな、マジで殺るぞ貴様」


 きめぇ事をのたまう海斗を捕まえたのは、高身長でビシッとした姿の八重樫先輩だった。

 八重樫先輩は何やらオーラみたいなものを放っているようで、滅茶苦茶怖い。

 それを見た海斗は汗をダラダラと流しながらたじろいでいる。


 「素直に離れればいいんだ、よし」

 「あっ、ありがとうございますぅ……」

 「喋り方がうざい、一回黙れ」

 「はいい!」


 八重樫先輩の剣幕は俺がこれまでに見たようなレベルではなかった。

 なんというか、眠れる獅子を起こしてしまったような感じである。


 「陸、流石にやり過ぎ……」

 「いいんだよ、心配なんだ、優衣が」

 「もう、心配しすぎだってば……陸はもう」

 「それだけ好きなんだよ」


 とか言い合ったと思えば抱き合ってるんだけど。

 ……このっ! リア充めっ!


 「こんにち……わ」


 そんなタイミングに運悪く入ってきた弥生はその場で静止している。

 気持ちは痛いほどわかる、俺らも固まってるし。


 「も、もう……陸、一年生いるのにっ」

 「……ああ、悪かった」


 頬を真っ赤に染めた猪崎先輩の言葉で熱い抱擁は解かれたようだ。

 こちらもどうしたらいいのかわからなかった分、助かったのはある。

 八重樫先輩はたたずまいを正して、俺たちの方を向いた。


 「JRC部にようこそ。ここはいくらでもイチャイチャしてくれて構わないっ!」

 「陸、それ色々違うから!」

 「なに、冗談だよ。まあ簡単に説明すると基本暇だ」

 「間違えでもないけどその言い方はどうかと思うな……」


 妙に息が合っているがとりあえずなんだこれ。

 そのままの調子で先輩は続ける。


 「主に奉仕活動だ。掃除したり、ボランティアしたり……ボランティアしたり…………ええっと、ボランティアだな」

 「ボランティア多いよ!?」


 なんだかコントみたいで面白いな。


 「とまあそういうわけで……本日は解散っ!」

 「解散しちゃうの!?」

 「な、皆も帰りたいだろ?」


 俺は思わず首を縦に振った。


 「ほら、小波君が帰りたいって言ってる」

 「もう勝手にして……」


 終始ツッコミに明け暮れていた猪崎先輩はぐったりと椅子に座りこんでしまった。


 「とりあえず部室にはこいよ? 予定入るかもしれないから」


 ……思っていたよりゆるい部活みたいでよかった。

 俺は伸びをし、ふーっと息を吐いてるうちに、俺の両サイドは埋められていた。


 「帰りましょ?」

 「よろしければ、一緒に帰りません?」

 「……彼氏なんだからあたしに決まってるでしょ」


 睨み合う二人が怖いよ。

 ついでに後ろで怪しげな海斗も怖いよ。


 「なんだ、おもしろそうだな」

 「あ、思った? 実はもう一人いるんだけどねー」

 「それは見てて飽きない気がするな」


 なんだか話のネタにされてる気がするんだけどよくわからない。

 とりあえず俺はティエルには丁重に断り、弥生と帰ることにしたのだった。

 ちなみにその後、海斗に襲われかけたがいつも通り須田が殴り倒してくれた。


 そして、俺はいつの間にかある事を忘れてしまっていたのだった。

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