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Episode82 お昼休みは騒然と

 お昼時、俺と弥生がいつも通り屋上へ向かおうとすると、青葉が俺たちを呼び止めた。


 いやまあ分かってはいたのだけどね。

 できればこの二人が並ぶと厄介なので避けたかったというのが本音である。


「ふふ、逃がしませんよ、洵さんっ」

「別に逃げてなんかないよ」


 はい、嘘です。

 本当に面倒なんだよ……


 チラッと俺の横目に映る園田は人が変わったような人当たりの良さで主に女子に人気のようだ。

 別に羨ましくなんてないぞ、一応弥生とかいるし、うん。


「洵、突っ立ってないで行くわよ?」

「お、おう」


 もはや園田の独壇場と化している教室から離れていき、階段を上っていくと少し大きなガラス張りの扉がある。

 既に先客はいるようで、ガラスの扉の向こうにある屋上には人がちらほらと見える。

 まあ今日は天気もいいから、余計に人が集まりそうだ。

 うーん、多すぎても困るんだけどな。


「さ、食べましょ」

「ですね! 私はもうお腹がぺこぺこです……」


 少し恥ずかしそうに青葉が可愛いのだけど、だいぶ慣れてきたと言えば慣れてきた。

 青葉はクラスでも人気なのだから呼び止められてもおかしくはないと思うのだが……先に断りでもしたのだろう。


 個人的にその子たちにはもう是が非でも青葉を留めてほしかったです。

 理由はとても簡単。


「はい、洵さん」


 何やら笑顔で玉子焼きを持つ青葉と、少し不機嫌そうに俺のジトーっと睨む弥生がいる。

 とりあえず弥生が怖い。

 そして遠くから俺を鋭い視線で監視してる須田はもっと怖い。

 屋上という開放的な空間のはずなのに、なんだか個室に閉じ込められているような感覚がする。


「洵さん! 食べてくださいよー」

「や、弥生……」


 青葉の催促に困った俺は弥生へとヘルプしてみる。


「好きにしなさいよ、もうっ」


 なんて言ってそっぽを向いてしまった。

 こうなってしまったらもう引きようがない。

 須田がすごい怖いのだけど見てみぬフリに徹しよう、うん。


「あ、ありがとな」


 俺はそう言って箸で受け取ろうとするのだが、青葉は素直に玉子焼きを渡してはくれない。


「はい、あーんっ」

「そういうのはいいから、くれるならくれよ、もう……」

「む、じゃああげません!」


 頬をぷくっと膨らませて少しお怒りの様子の青葉はパクッと玉子焼きを頬張った。

 怒らせちゃったかなぁ……というか学校でそんなのしたくない、というよりしたらなんて噂が立つ事になるのやら。

 忘れてはいけない事として、俺と弥生は付き合っているという風になっているのだ。

 少なくとも学校中にはそう広まっている。

 そんな状況で、青葉と仲睦まじくしている光景などが見られて噂でもされれば、俺はたちまち浮気男とか二股とか酷いレッテルを張られてしまうに違いない。

 どうにかしてそれだけは避けたいと青葉には伝えておいたはずなのだが……何か変わったか?

 全く持って平常運転、むしろ暴走気味です。


「ふふっ」

「ど、どうした、弥生?」


 そっぽを向いていた弥生が笑いを堪えられなかったのか、つい笑みをこぼす。

 その笑みに思わず見惚れてしまう男子が何人いるのかは分からないが、弁当や箸を思わず落としてしまった音が次々と鳴る。

 お前ら弥生の事見すぎだろ。


 心なしか、天気が良いにしてもここ屋上には普段より人数が多い気がする。

 もしかしてこいつら弥生狙いの男子共か。

 ふっふっふ……お前らはどう足掻いたって弥生の眼中にもないんだからな!

 よく考えてみると俺も眼中にあるとは言えない気がしてきた。ああ、これ以上考えるのやめよう。


「……洵こそどうしたのよ。さっきからまるで百面相よ?」

「あ、いや、それは……ちょっと弥生の事考えてて……」

「は、はぁ!?」


 あれ、なんか墓穴掘ったかな。

 弥生の頬が次第に赤く染まっていく。

 さっきよりもたくさんの箸や弁当を落とす音と、それに伴った男子高校生の悲鳴が屋上に鳴り響いた。

 ひとまず弥生とお前ら落ち着け。


「むう……羨ましいです……」

「青葉まで、どうしたんだ?」

「知らなくてもいいですよ、鈍い洵さんはっ」


 青葉が吐き捨てるように俺を見放す。

 ほんとに俺、何かやっちゃったのかなぁ……


 屋上は混乱に見舞われていた。

 俺はどうすればいいか分からずにうろたえる事しかできず、辺りは騒然としている。

 弥生は赤くなったままで俯いたままボソボソと何かを呟いているだけで、青葉はお弁当の中身をひたすら片づけている。

 遠くにいたはずの須田の姿は見当たらず、どうしようかと扉の方を見ると、淡い桃色を風になびかせる少女がこちらへ向かってきていた。

 そして俺の前まで来たティエルは俺をじーっと睨むように見つめて、それから急に俺の腕を引いていく。


「行きますわよっ」

「え、ちょっと待てよ、どこに行くんだ!?」

「いいからついて来ればいいのですわっ!」


 何この状況……?

 俺は訳も分からないまま、ティエルに連れていかれて屋上を後にするのだった。





 ティエルに引っ張られて着いた場所はというと、部室棟だった。

 前にここに来たのは夏の時以来だろうか。

 確か勝手に連れてこられたんだっけ。


 この時間の部室棟はだいぶ寂しい雰囲気を思わせるもので、あの賑やかだった屋上と比べると本当にしんみりしている。

 こっちの方が落ち着いて食べられそうな気さえする。まあ弥生がいればどこでもごった返してしまうんだろうけど。


「で、ここに何の用で来たんだ?」

「あなたは暇を持て余してると思いまして……人助けのつもりで部活に入ってみるのはどうですの?」


 なんか物凄い偏見を叩きつけられた気がするんですけど。

 まあ間違ってもないから強く言い返せないのだが。

 ティエルが立ち止まった部屋、それは俺も覚えている、JRCの文字が書かれた部室。

 いや、そんなまさかね……


「ここ、JRC部が困っているようですのよ。部員が足りないんだとか聞きましたわ。わたくしも入って差し上げますから、どうですの?」


 いや、なんで俺が入らなきゃいけないんですかね。

 前に誘われたけどさ、あの時はちゃんと返事してなかったけどさ。


「ま……もう入部届は出させていただきましたわ」

「……はぁぁぁぁ!?」


 俺の驚きの声で気が付いたのか、JRC部の部屋から前に見たあの先輩が顔を出してきた。


「あ、二人とも待ってたよ~! ささ、とりあえず入って!」

「かしこまりましてよ」

「え……あ、はい」


 俺は断ることもできず、促されるままに部屋へと入った。

 冷房がかけられている涼しげな部屋にはこの先輩ともう一人、男の先輩がいた。


「君たちが新入部員だっけか。ごめんね、うちの優衣に連れてこられた感じでしょ?」

「ちょ、そんな言い方しなくてもいいじゃない……」

「だって本当だろ? 昨日だって無理やり連れてきて、彼女はすごい困ってたじゃないか」

「部として認められなくなっちゃうから、私が頑張ってるんじゃないの!」

「別に焦らなくても良いと思うんだけどな?」

「もう、そういう能天気な部分がダメなのよ! そのくらいいい加減気づきなさいよ、バカ!」

「お前……人にバカって言うとは何様のつもりだよ……」

「あ、ヤバ……二人とも、続きは放課後で良いよ、うん……というか逃げて!」


 いきなり始まった喧嘩に俺たちがポカーンとしている内に、どうやら男の先輩が怒ってしまったようだ。

 俺たちは言われた通り逃げるように部屋を出て息をつくと同時に、昼休みの終わりを告げるチャイムが鳴りだした。


「な、なんだったんだ……?」

「ま、まあ大丈夫ですわ、きっと」

「とりあえず戻ろう、時間が無いし」

「そうですわね」


 なんだか部屋が騒がしかったが、まああくまで自業自得だという事にして俺とティエルは部室棟を後にするのだった。

おそらく次の更新は遅れます。


ご了承下さい。

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