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Episode81 変化

 俺たちが戻ってきた後も、まだパーティは続いた。

 豪華な食事に満足した俺たちだが、気付けばもうすっかり辺りは暗くなっていた。


 明日からは授業も再開するので遅くなりすぎない程度にしようという事で今日はお開きとなった。



 帰り際の事。


 俺は弥生と少し話をしていた。

 内容はもちろん、さっきの事だ。

 あまりに突然で、にわかに信じ難いがどうやら本気のようだった。

 だからこそ、同居人である弥生には伝えておきたかった。


「そう、なの……わかったわ。注意しておくわね」


 訝しげな表情を浮かべた弥生はゆっくりと頷いた。


「ああ、何も出来ないかもだけど……一応伝えたくて」

「そうね、分かったわ」


 今度は素直に頷いてくれる。

 弥生は前より少し柔和になったかもしれないな。


「じゃ、俺はもう帰るよ」

「ええ、おやすみなさい」

「ああ、また明日な」


 俺は弥生と別れを告げると、コワモテの執事が運転する車に乗り込んだ。

 少し緊張してしまうが、まあ気にしないようにしよう。

 ミラーに映るしかめっ面がやはり怖い。


 それでも運転は確かだし……車は居心地が良くて眠気を誘ってくる……待てよ、もし寝たらこの人に起こされるのか!?

 いや、それだけは無理だ、マジで無理。


「お、お願いします」

「はい、では行きましょうか」


 車が静かに走りはじめる。

 はしゃぎすぎたせいか、さっきから眠気が俺を睨みつけているようだ。

 しかしそこで注意を切らすわけにはいかない。

 俺はスマホを手に取った。

 画面には、なんだか色々な通知が来ていて良く分からない。


「ん……あ、忘れてた」


 園田弘樹、という文字を見て、俺はハッとしてしまう。

 あ、ついでに少し目が冴えたかも。


 今思えば、園田の事をすっかり忘れてた気がする。

 まあ些細な事はいいか。


 園田はあれからほぼ音信不通だった。

 少し心配していたのだが、一応時々ではあるけど返事があったりもしたので命とかに別状はないだろう。

 そして、その園田から連絡が来ているのだ。

 今思い返してみると、今日園田は来ていなかった。

 何故かはよく分からないが……やはり心配な面もあるから、とにかく開こう。


「な、なんだよ……心配して損した……」


 開いてみれば、明日何かいるものがあるかどうかって事と、ゲームの話である。

 なんだよ、俺の心配を返せよ。


 俺は雑ながらも、明日の予定を伝えておいた。

 まあ何もないようでよかった。

 明日からは普通に来ると思うし、問題は特にないだろうな。


 ……さて、大きな問題が一つ。

 宝生さんの事だ。

 本人はああ言っていたけど、本心からではないと思う。

 それが正しいとしても、どうすることもできないのが歯がゆかった。

 弥生の時みたいに、がむしゃらにしてみても上手く行く気はしない。

 それなら、どうすればいいのだろうか。

 弥生と少し相談してみようか。

 何か、手段を見つけ出さないといなくなってしまう。

 せっかく歩みだしたのに、叶わないなんて……かわいそうだし、どうにかしたい。

 逸る気持ちとは裏腹に動きようがない現実が、目の前で立ちはだかっているようだった。


「はぁ……」


 新学期早々、俺は盛大なため息を漏らすのだった。




 日が明けて、俺は今焦りに焦っている。

 晴れていたので今日も特に変わる事なく弥生と登校を終えて、席に着いたのだが……


「小波さん、おはようございます」

「……お前は誰だ」

「やだなぁ、そんな酷い事言わないで下さいよ」


 なんて爽やかに笑うイケメンが俺の目の前にいる。

 ほんと誰だよ、こいつは。


「俺の友達にこんなイケメンはいない」

「イケメン……ですか、あはは、ありがとうございますね」

「とにかく俺はお前を知らない! 誰なんだ?」


 はは、と微笑んだこのイケメンはなんだかおかしいものを見るような目でこちらを見ている。

 そんな滑稽か、俺は。


「もう、小波さんってば。本当に分かってないんですね。俺、園田ですよ」

「なっ……俺の知ってる園田はもっと地味というか、内向的な感じでだな」


 やれやれ、と肩をすくめながら園田は俺に説明していく。


「夏休みの間に姉に大改造させられたんですよ……なかなか連絡が取れなかったのもそのせいなんです」

「は、はぁ……?」


 淡々と園田と名乗るイケメンが俺に教えてくれるのだが、正直言って信じられない。

 人間は変わるものだとは言うが、流石にここまで行くとビフォーアフターさながらである。

 さしずめその姉は匠の域なのだろう。


「まあパッと見別人ですよね……」

「まだ信じきれないよ、ほんと」

「洵! 貴様はいったい何でそんなイケメンと話している? まさか便乗したりしてあわよくば……なんて考えを……そうか、その手があったか!」


 うわ、厄介な人現れた。

 しかも考えてることが全部聞こえてるんですけど。


「あ、皐さん。お久しぶりですね」

「我は知らないな」


 さっきの俺と同じような反応をする海斗。

 見てて面白いのだけど、これと同類なのかと思うと少し嫌だったりする。


「皐さんまで同じことを……僕は園田ですよ」

「なん……だと……まさか、トランスの使い手……?」


 オーバーな動きで驚きを表してくれる海斗だが、いまいち何を言っているのか分からない。


「まあ、事情やらは後で詳しくお話ししますよ」

「そ、園田君……なの?」

「そうですよ?」


 突然女の子に話しかけられた園田らしいイケメンは爽やかスマイルで応える。


「え、嘘!? 本当に園田君なんだ……すごい変わりようだよねー」

「まあ色々あったんですよ……」

「そうなんだー。ねえねえ、何があったの?」


 気付けば園田の周りには女子が集まっていた。

 俺らはというと、なんだか置き去りにされてしまったような感じである。


「なぁ……洵、分かっただろ」

「ああ、とてもよく分かったよ」


 教室の端に移動した俺たちは女子に囲まれててんてこ舞いな園田を遠目にイケメンは許せない、そう思うのだった。

 前に何か海斗が語っていた事が身に染みて分かってきたぞ。


「ちょ、みんな集まりすぎて少し暑苦しいんですけど……」

「いいの、このくらい問題ないでしょ!」

「そもそも前原さんが離れればいいじゃない」

「話の途中に割り込んできたくせに、何を生意気な!」


 どうやら園田の周りはどんどんヒートアップしているようだ。

 ざまぁみろ。


「待って、喧嘩とかは良くないと思――」


 キーンコーンカーンコーン、と園田が言い切る前に学校の始まりを告げるチャイムが鳴った。

 そして担任の佐伯先生が入ってくる。


「ほら、早く席に着きなさい。あ、園田君、もう元気?」

「あ、はい。もう大丈夫ですよ」


 集まっていた女子たちは離れていったおかげか、園田はホッとして様子で息をつきながら席に着いた。


 イケメン効果恐るべし、そして爆ぜろ。

 少し離れた席から、俺と海斗は園田を半ば呪うように見つめていた。


 それから少しして、俺たちは二人揃って佐伯先生に読書でもしなさいと注意されてしまうのだった。


なんとか書けました。



さて、次の更新はいつですかね……

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