Episode76 振り回されて、ああ無念
帰ってきた俺たちは、ひとまず俺の家まで来ていた。
とは言っても、意識を取り戻した海斗は先に降りたため、海斗を抜いたメンバーがそろっている状態だ。
それにしても何で家に上がってるんだろう、弥生と青葉の二人は。
誰もあがって、なんて言ってもないのに……良く分からない。
とりあえず言えるのは二人はさっきと同じ雰囲気で、なんだか近寄りがたい感じがしていた。
「あらあら、お帰りなさい! 弥生ちゃんに青葉ちゃんもいるのね……そうね、泊まっていくかしら?」
リビングに入ると満面の笑みの母さんがいて、なんかまた冗談を言ってくれている。
いやいや、既に優姫さんで部屋は埋まっているんだから……むしろどこに泊まるんだって。
「そうですね、お邪魔してもいいですか?」
「はあ!?」
何で真に受けてるんですか、青葉さん!
「ええ、全然かまわないわよ、むしろ大歓迎だもの♪」
「何言ってるの母さん! もう部屋無いだろ?」
「なんなら洵のベッド大きいから一緒に寝ちゃえばいいんじゃない?」
「ぶふっ! いやいやいや!」
そんなまさか年頃の男女が一緒のベッドに寝るなんておかしいだろ!?
確かに、俺の使うベッドは少し大きいものだから、詰めれば二人くらいは寝られるとは思うが。
って、広さは問題じゃない。
「青葉が泊まるならあたしも泊まるわ。絢さん、いいでしょうか?」
「もっちろん! 大歓迎なんだから!」
「だから寝る場所無いって!」
「もういっそ三人で寝ちゃいなさいよ」
「ぶっ!? いや、おかしいって」
流石に三人で寝るのは無理がある。それこそ、密着しなくては……っと、危ない、変な妄想みたいなものが俺の頭で暴れようとしてる。
っていうかこの親はどういう事だよ。
「じゃ、私は寝まーす、おやすみなさーい♪」
「優姫さん、おやすみなさい」
「ふふ、おやすみっ」
一足先に優姫さんは二階へと上がっていった。
って、片方だけでもそっちで寝てくれればまだ……
「さて、洵……疲れたでしょ、休みましょ」
「そうですね、早く行きましょうか」
ガシっと二人に両側からホールドされる。
これ本気かよ。
「あの、とてもとても眠れる気がしないのですが……」
俺の弱弱しい叫びは二人の耳には届かないようで、あっさりと無視されてしまった。
二人は俺を引っ張っていくようにして進んでいく。
そのまま、俺は二人に自室へと連れ去られいくのだった。
……夜中、だろうか。カーテンでさえぎられている窓の隙間から外を見てみるが、やはり真っ暗だった。
まあ予想通りで、全然眠れない。
というか動けない。
俺はぐっすり寝たかったから、二人ベッドに寝かせて俺はソファーにでも寝ようと思っていた。
でも、二人は俺が離れようとするとガシっと掴まれて、さらには部屋の鍵をかけられてしまった。
もう訳が分からない。
そして、やっぱりベッドは……と断ろうとしたのだが、今度は「洵の家なんだから洵がベッドで寝ないのはおかしい」という主張をこれでもかと推されて……結局、三人ともが一つのベッドに寝るという展開になってしまった。
せめて俺は端に寄ろうと思っていたのに、両端を二人が先に陣取っていたのだ。
もう何なの、この二人は。
そして、そのまま眠れ……るわけもなく。
二人は不思議と寝静まったようだけど、がっしりと俺の腕を掴んだままで、俺は身動きが取れないのだった。
下手に動けば二人に触れてしまうし、起こしてしまいかねない。
でも、これじゃなかなか眠れない。
板挟みとはこの事か、などと思ってしまうが……思ったところで何の解決にもならない。
諦めて寝るしかないのだろうか。
いや、寝れるなら最初から苦労なんてしていない。
「んん……ま、こと……」
「や、弥生……?」
ぽつりと弥生が寝返りをうちながらつぶやく。
どうやら寝言のようだが、どんな夢を見ているのだろうか。俺が出ているのだろうか……
途端に、ぎゅうっと腕を抱きしめられて、俺は思わずドキっとしてしまう。
やっぱり、眠れる気がしない。
二人はぐっすりと寝ていて、安らかな寝息を立てていた。
俺はなんだか安心して、目を瞑ってみた。
疲れがそっと背中を押してくれたのか、すうっと眠気が俺を包み込んでくれる。
俺は眠気に任せて、そのまま眠りにつくのだった。
朝になり、俺は大変な事になっていた。
というか俺の寝相の悪さにはもう何も言えない。
親は子に似る、というのは良く言ったもので、俺もあの何でも抱き枕へと変える母さんの血を引いているらしい。
これまでバカにするように言っていたが、色々と謝らないといけないな。
「いや、本当に……悪気はなくてだな」
「何よ、青葉の至る所を触って楽しんでたとかそういうのじゃないの?」
「何だよ、それは……」
正座をさせられての説教タイム。
弥生に叩き起こされて目が覚めた俺は、自らの状態に天地がひっくり返るくらい……いや、それは言いすぎたか。とにかく、俺は驚いたのだ。
どうなっていたかというと、俺はいつの間にか青葉の体を雁字搦めにするように抱きしめていたらしく、そりゃあもう最高……じゃなくて。
青葉はもう全身が真っ赤になるような感じで固まっているのを見て、ようやく俺は事の重大さに気が付いたのだが……
まずは弥生にひっぺがされ、もはや動けなくなっている青葉の代わりに、弥生から説教をいただいているのだ。
今回のは何も言えないし俺が悪いのだけど……いや、よく考えてみれば一つのベッドに三人が寝るという場面自体がおかしいのではないか。
しかし、今の俺に発言権はない。
あったところでなんの力も持たないだろうけど。
「とにかく、本来なら警察行きだってあり得る話よ。よーく反省しなさい」
「ああ……それは本当に申し訳ない……」
「……せっかくならあたしを……」
「ん? 弥生、何か言ったか?」
せっかく、までは聞こえたがそれ以降はよく聞こえなかった。
と、弥生は突然真っ赤な顔になって俺をにらみつける。
いや、待ってくれ、俺何もしてないと思うんだよ。
「な、何も言ってないわよ! とにかく顔でも洗ってきなさい、変態っ!!」
「は、はいっ!」
原因不明のお怒りから逃げるように、俺は洗面台へと向かった。
本当に良く分からないなぁ、なんて思いながらも水を出す。
顔を洗って、寝癖を直した俺がリビングへ向かうとエプロン姿の優姫さんが料理をしていた。
「あ、おはよー! なんか、すごい大声が聞こえてきたんだけど何かあったの?」
「まあ、色々とね……」
元はと言えば弥生が家に泊まるなんて言うからだ、もう。
なんて心の中で言ってたらまたばれるなんて事があるからここまでにしておこう。
それから、バタバタと大騒ぎの青葉と弥生の洗面台争奪戦が終わって、俺たちは朝食をとった。
ちらちらと青葉と目が合う度にすごい気まずい雰囲気になって、毎回ジト目をされるというのはなかなかに堪えるものだ。
朝食を済ませた青葉と弥生は帰って行ったようだ。
何やら弥生が青葉と話していたようだが……まあ他愛もない話だろう。
部屋でくつろいでいると、優姫さんが何やら不自然に動き回っていた。
「優姫さん? 何かあった?」
「いや、ちょっと急用とかあって……そろそろ帰らないといけなくなったの」
「何か手伝えることある?」
「そうね、じゃあ昨日の荷物を分別しておいてくれる?」
「了解」
優姫さんの赤色のキャリーバッグを恐る恐る開けてみる。
中はきちんと整理されていて、何をどう分別すればいいのかほぼ分からないくらいだった。
まあ一部が多少荒く詰め込まれていたので、この辺りだろうか。
俺が念入りに分けている間に、優姫さんは荷物をまとめ終えたようだった。
少し汗がにじんでいるようだが、このスピードで片づけられるなんて、俺も家庭の事情的にだいぶ家事はやっているはずなんだけど敵う気がしない。
「何か慌ただしくしちゃってごめんねっ! じゃ、私は帰るけど……そのうちまた来るから。あ、旅行楽しかったよ、誘ってくれてありがとね♪」
優姫さんはそれだけ俺に伝えると、バタバタとバッグを持って出ていった。
……って、結局全然優姫さんと話せてないじゃん!
まあ、また来るらしいからその時にしよう、うん。
人間諦めが肝心だよな、うん。
「はぁ……」
やっぱり、ため息は隠せなくて出てきてしまうのだった。
そのあと、俺は夏休みの課題の最難関である読書感想文が残っていたことを思い出して、残る夏休みを慌ただしく過ごす事になるのだった。
そんなこんなで、楽しかった夏は過ぎ去っていく。
全校登校日で行った課題テストの結果はクラス内の中間という、非常に微妙な結果になってしまったという事だけは言っておこう。
そして担任の佐伯先生からはもっと頑張りなさいという喝を入れられてしまうのだった。
……そこそこ頑張ったんだからもう少しほめてくれたっていいじゃないか。
ちなみに、その日の帰りはまたJRC部とやらに追い掛け回されて俺はひたすら走って疲れ果てる羽目に遭うのだった。
一年の二学期はもうすぐそこまで近づいていた。
まだまだ、俺たちの高校生活はこれからなのだと、心機一転して俺は二学期を心待ちにしているのだった。
お読みくださり、ありがとうございました。
とりあえず、二章はこの形で示させていただきました。
色々なものをまだ回収していないのですが、それは三章で続々と回収していくとします。
一度区切りをつけておく、というだけでそこまで区切れてないという……収拾がなかなかつけにくくなっちゃ……いや、区切りたかっただけなんです。
というわけで次からは三章、やっと学園要素が……
頑張ります。