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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
7/110

Episode7 葛藤

また少し話が進んでます、きっと。

 そろそろ日が沈む頃。日は雲に隠され何も見えない。

 先程から降っていた雨は止んでいた。

 雨あがりの湿っぽい空気の中、道路の真ん中で呪詛を呟く男がいた。


「洵め……許さん、くたばれ、朽ちれ、爆ぜ――がはっ」


 何かが落ちてきた。痛みにもがきつつそれを拾う。


「これは……?」



◆


 今、俺は……空を飛んでいる。

 いや、そう言うと少々誤解が生まれる。

 正しく言えば"背中に乗っている"だけだ。

 どう考えても飛びにくいと思うのだが割と難なく飛んでいる小鳥遊さんは何者なんだろう。

 なんとも言えない気分だ、空からの景色、というか。

 山、高校、繁華街、住宅街……暗くなった今、街を彩る明かりがイルミネーションみたいに映えている。

 それに風を切る感覚というのはこれまた不思議なものだ。鳥になった気分だよ、ほんとに。


「うおっ」


 わずかに揺らめいたせいか、バランスを崩しそうになり慌てて持ち直す。


「きゃっ!? っ! ……あああ」

「どうしたんですか?」

「鈴が……落ちました」


 小鳥遊さんはあからさまに落胆の表情をする。顔は見えないが、きっとそんな感じに違いない。

 それと同時に高度も落ちていく。


「うおっ!? あ、危ないから!!」

「え、あ、はい!」


 危うくマジで落ちるところだった。冷や汗が止まらないな。

 一応、小鳥遊さんは落ち着いたようでどうにか高度を取り戻す。

 何故このような事になっているのか、説明しよう。

 時間は少し前に遡る。




「私は――空が飛べるんです」


 いや、知ってる。

 つーか空を飛んで突っ込んできた人は誰だ。そして不幸にも被害に遭った人は誰だ。


「この羽のおかげで……言うなら鳥のようなものです」


 嬉しそうに微笑んで小鳥遊さんは言う。

 しかし、その青い瞳には憂いと悲しみのようなものを感じた。

 多分気のせいだろう。笑っているしな。


「気になる事は山積みだけど……とりあえず、ここは何処なんだ?」


 多分、木造の小屋という感じである。

 この辺りは大体知っているつもりだったが、こんな建物は見たことがなかった。


「一応……家です」

「そっか。……あのさ、帰りたいんだけど……」


 気付けば十分夜といえる時間である。

 小鳥遊さんは窓を見る。 そして俺の方を向いて……



「今は雨も止んだようですし……どうですか?」

「え?」

「返事がないなら承諾したとみなしますね」

「……え!?」

「大丈夫です。しっかり掴まっていれば落ちはしませんから、行きましょう」


 小鳥遊さんは無理やり俺の腕を掴んで引っ張っていく。

 な、何で急に変わったんだ!?思っていたキャラと違うぞ!?


「それは飛ぶのが楽しいからですよ」


 解説ありがとうございます……って、心見透かされた!?


「ふふっ」


 ……なんとまあここまで清々しい笑顔で。

 笑顔に対して俺は不安とかでいっぱいの表情に違いない。ジェットコースターにでも乗る前みたいな気分すら感じる。


 そうして外へ出て、小鳥遊さんは一度立ち止まってこちらへ向いた。


「しっかり掴まっていてくださいね。落ちても責任は取りませんから」


 笑顔で言うな、笑顔で。


「いや、待て、準備が!」

「私は準備完了していますから気になさらず」


 いやいやいや! 俺の心のだよ、バカ!!


「それでは……」

「もうやけくそだぁ!」


 俺は諦めてこの鳥にしがみついた。急上昇する。

 ふわりと体が浮く感覚がした。同時に地についていない事への恐怖が生まれる。

 もし暴れでもしたら、確実に俺の人生は終わりを迎えそうだ。

 とりあえず落ちないようにしっかりと、それでかつ邪魔にならないように掴まっているのだった。




 すっかり暗くなった外。時刻はきっと8時とか過ぎてるだろう。

 小雨が降っているが梅雨のそれとはまた違うような感じがしていた。


「ありました?」


 俺は一度下ろしてもらい、小鳥遊さんがさっき落としたもの―どうやら鈴らしい―を探していた。


「いや……」

「そうですか……」


 小鳥遊さんはしゅん、と寂しそうにしている。この様子を見た俺からすると、とても申し訳ない気持ちで一杯だ。


「その鈴って、そんなに大切なのか?」

「とても……大切なものなんです」


 その言葉にはすごい重みがあるように感じた。


「あ……小波さん、雨……」


 小鳥遊さんが空を指差す。釣られて俺が空を仰ぐと、急に雨が強くなっていく。やっと梅雨らしい雨が降っているようだった。


「小波さん、もういいです。風邪ひきますから」


 小鳥遊さんの顔はなんだか涙目のようにも見えた。濡れてるだけかもしれないが。


「……分かったよ」


 俺は小鳥遊さんと別れ、走って家まで帰った。



 夜の静かな街にざあーっと雨音が響く。

 そんな中で俺は、ベッドの上で考えに考えていた。

 生まれてこの方ここまで考えているのは無い気もする。

 俺の頭の中は二つの事でいっぱいにだった。

 一つは、弥生の事。

 何故恋人のフリをしなくちゃいけないのか。他にも気になる事は色々だ。未だに分からないことだらけである。


 もう一つは、小鳥遊さんの事だ。あの寂しそうな顔を見てしまったのだ。そのため俺はもどかしい気分でいっぱいだった。晴れたら探そう。 俺のせいだと思うし。

 とりあえず眠ることにしよう。何よりまだ全身が痛い。だからベッドに横たわっていたわけだが……。


 目を瞑ると浮かぶあの顔。思い出すと辛い。

 あれからずっと小鳥遊さんは魂が抜けているみたいだった。微笑んではいたけども、無理に作っている感じがしていた。

 俺は責任を感じている。仮にそうじゃなくてもどうにかしてあげたいと思う。 だから探さなきゃいけない。天気予報では、明日も雨が降るでしょうって言ってた気がするけど気にはしない、気にしてられないんだ。

 そんな焦る俺の心も包みこんでしまう布団によって、気付けば俺は深い眠りに落ちていたのだった。




  夜は明けたはずだが、日が差さないためにあまり明るくない。

 どうやらまだ雨が降っているようだ。梅雨と言えば、何の間違いもない天気だ。


 俺は身支度を済ませ、傘を片手に家を出る。

 ……と、家の前にリムジンか、それらしい高級感を漂よわせる車が止まっていた。

 そこまで道も広くない住宅街の一角に我が家はある。こういう事は近隣の皆様に迷惑がかかるので、出来ればやめていただきたい。

 車の窓から顔を出すのは、あの須田とかいう、女装執事だ。

 乗れ、と手招きをされる。

 だから完全に道をふさいでいるから邪魔ですって。

 とりあえず俺は後部座席のドアを開け、車に乗る。中には弥生とメイドさんが見える。あともちろん須田。


「おはよ」

「お、おはよう」


 何だかギクシャクしてしまう。

 俺が座ると同時に車が走り出す。流石に高級なだけあってか、シートの座り心地は半端ない。

 しかし、俺には座り心地より重大な問題があるために落ち着かなかった。

 時折、弥生がこちらを見ている気がする。

 だが俺には弥生の方を向き、仲睦まじく話すような度胸は無い。

 すぐ隣にいたのだが、ただただ時が流れていくだけだった。


 この様子を変に思ったのだろう。前に座る執事が小さな声で前の座席の間から話しかけてきた。


「なあ……どういう事だ?」

「色々な」

「な、なに!? お、お前……お嬢様とあんなことやそんなこととかを!?」


 いや待て、それは誤解だ。


「聞こえてるわよ、さっきから全部」


 弥生がぽつっと呟くように言う。

 聞こえてたのか……なおさら話しにくくなってしまったじゃないか。バカ執事め……。女装なんてしてるから……


「がっ!?」

「文句があるなら口に出すんだな」


 須田の拳が頭に一発。お前も心が読めるのかよ。


「ほら、バカやってないで。着いたわ、行きましょ」


 弥生は俺に早くしろと言わんばかりに見つめてくる。

 俺は無言の重圧に押されて車から降り、傘を差す。

 車は校門より内側には入ってはいけないという決まりがあるらしい。

 校門から玄関までの距離が地味に長い。約100mくらいあるだろうか。

 俺が降りた後、続いて弥生も降りてくる。主人が濡れないように執事がさりげなく傘を差すが、弥生は入ろうとせず俺の傘の中に入る。


「えっ……」


 執事は割と傷ついたらしく、雨が降っているのにも関わらず傘を閉じてとぼとぼと玄関まで歩いていった。

 なんか惨めだなぁ。

 対して俺は、弥生と一緒の傘の中で、なんとも言えない感情でいっぱいだった。

 周りの視線を感じざるを得ないのだ。そりゃあリムジン(?)で来た学校内でも名高い金髪の美しい令嬢が俺みたいなやつと相合い傘をしてるのだ。

 弥生自体が歩くだけでも視線を集める分、余計に目立ったのは言うまでもない。

 うわぁ、キレー……あの隣の誰?とか釣り合ってないよなぁといった声が聞こえてくる。

 悪かったな、釣り合わなくて。しくしく。

 そして何より気になるのが、俺たちの後ろである。


「洵……もう駄目だ。我慢できねえ……朝から相合い傘とかリア充極まりない。よって判決、小波洵を死刑に処す!! 朽ちれええ!!」


 海斗は何かのキャラがプリントされている傘を叫びと共に俺たちめがけて振り下ろしてくる。


「危ないっ――」


 片手に傘を持っていて隣には弥生がいるこの状況でかわせる自信がない。せめて弥生を、身を呈してでも守らなくてはいけない――

 そう思い、瞬時の判断に任せて俺は弥生の前に出た。

 来い。海斗。準備は出来たさ。

 ……という俺の度胸は無駄になった。

 奴の後ろには、さっき去ったはずの女装執事がいたからだ。


「いい加減にしろやぁ!!」


 清楚な見た目とは裏腹な掛け声と同時に繰り出される無慈悲な拳。


「ぐはぁっ!? 背後だと!? つ、ついさっき去ったはずのお前が、何故!?」


 ちょっと小芝居くさい台詞と共に濡れた地面へ突っ伏す海斗。


「ふ……いるのは分かっていた。全ては貴様を油断させるためさ」


 とかカッコつけて言ってるが、須田さん涙目なんですけど。

 須田は制服の裾で涙を拭いて、弥生の前にすたっと着く。なんか様になっている辺りは流石なのかなぁとか思う。涙目でなければ。


「お嬢様……お怪我は」

「無いわ……もう忘れたのかしら。手段は選ばないって言ったはずよ。片付けておいて」


 はい、と応える執事。

 いや、だから手段は選ぼう。死なない程度に。

 下手したら明日にはいなくなってるかもな……さらば友よ。

 俺は須田に引きずられている友と最後になるかもしれない別れを心の中で告げ、弥生と学校に入っていった。

読んでいただき、ありがとうございました。


次回も読んでいただけたら幸いでごさいます。

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