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Episode66 青葉の想い

遅れました、申し訳ありません!

 あの特大パンケーキを半分も食べられずにギブアップした俺をよそに、青葉は残る全てを見事に平らげてみせて俺は愕然としていた。

 それからすこし落ち着いて店を後にしたのだが、気持ち悪さすら感じてきた口の中に残る甘さをごまかすように俺はウーロン茶を飲む。


 パンケーキが美味しかったのは事実だが、やはりあの量はおかしいし口の中が甘ったるくて気持ち悪い。

 今日はもう甘いものは食べたくない……というかもう今日はあまり食べたくない。

 しかし右隣を陣取っている青葉は平然としている。

 女の子というのは甘いものに関しては特別なものを発揮するんだろうか。


「そういえば、この後はどうするんだ?」


 パンケーキ店には早めに入ったため、時刻はまだまだお昼ほどだ。

 今は俺の要望により喫茶店で爽やかな風を浴びながらブレイクタイムを満喫していた。

 落ち着いていてとてもよろしい。

 さっきまでがなんだかせわしなかったおかげで、こういう静かな時があまりにも俺の身に染み渡ってくる。

 平穏の素晴らしさに万歳!


「そうね……青葉は行きたいところとか、あるかしら?」


 チラッと窺うように弥生が青葉に尋ねる。


「そうですね、私はどこでも良いですよ、洵さんとなら……」

「ぶふっ!?」


 突然放たれた青葉の言葉に思わず吹いてしまう。

 なんで恍惚こうこつとした表情でそんな爆弾みたいな発言をするのですか。


「あ、青葉!?」

「私は本気ですよ? 洵さんとなら、是非」

「ぶっ!? げほ、ごほごほ……」


 再び放たれた青葉の衝撃的な言葉に吹くだけでは済まず、むせてしまった。

 そんな俺を気にも留めず、二人は続けていく。


「なっ……ま、洵はあたしの彼氏なのよ!? 目の前で宣戦布告のつもり!?」


 珍しいほど落ち着きを欠いた弥生が声を張り上げて言った。


「弥生さん、私は知っていますから」

「ええっ!? ど、どうして!?」

「洵さんから、事情は聞きましたので」

「ちょ、洵!? どういう事!?」


 鬼気迫るような顔の弥生が俺をぎっと睨みつける。

 そして俺の胸ぐらをすごい力で掴んでぶんぶんと体を揺さぶってきた。


「いや、ちょっと待って……苦しい、苦しいからっ!」

「青葉に話したのかしら? さあ、答えなさい」


 体を揺さぶってくる弥生の手はさらに力が増している気がする。

 だから苦しいって。ついさっきむせた所なのに揺さぶられたら気持ち悪くなるのも仕方がないと思う。


「わ、分かったから! いい加減……ぶはっ」


 またむせそうになるのをどうにか我慢するが、少し咳き込んでしまう。

 苦し紛れに揺さぶる弥生の手を掴んで止めようとしてみるが、なかなか止まる気配はなかった。


「や、弥生さん! ストップです!」


 青葉が混乱気味の弥生をどうにか止めようとしてくれている。

 ちなみに、止めるべきはずの須田はトイレに行っているためにこうなっている。

 まあ須田にこの話が聞かれなくて本当に良かったとは思……やばい、吐きそう。


「え? あ、あら……」


 青葉の呼びかけで冷静になった弥生の掴む力が弱まっていき、ようやく俺は解放された。


「げほっ……うえ……」


 今の状態を簡単に言えば、チョー気持ち悪い。

 とある水泳選手の言葉とはまさに正反対である。


「ご、ごめんなさい……大丈夫かしら?」


 申し訳なさそうに弥生は俺の背中に手を添えている。

 それまでならいいんだけどさするのはやめてください、吐きます。


「一応……大丈夫」


 無理に笑ってみせるが、心配されるのは仕方ないだろうな。

 弥生はもちろん、青葉も心配そうに俺を見ていた。


「……どういう状況なんだ、これは」


 そんな中、少しハスキーな声が響いてくる。

 須田が怪訝そうに俺たちを見てそう言ったのだ。


「簡単に言えば、気持ち悪い」

「須田、心配はないわ。大丈夫だから」

「そうでしたか。失礼しました」


 須田は席に着くとコーヒーをくいっと飲んだ。

 そして俺の状態が収まるにはもう少し時間がかかるのだった。



 昼過ぎから夕方の辺りだろうか。

 喫茶店を後にした俺たちは路頭に迷っていた。

 全く持ってノープラン。ぶらぶら歩いて気になるお店に立ち寄るというのは面白いのかもしれないが、せっかくならそのくらいは考えてから動けばいいのに、なんて思ってしまう俺だった。


 そう思わざるを得ない程に、する事がない。

 青葉がいくつか提案をしてくれたりはするのだが、今の弥生の状況を踏まえて見ると微妙な所が多かった。

 そのためやんわりと断るのだが、ノープラン故に特に何も言えないのがなんだか申し訳ない。


 今、弥生は須田の隣で何やら話をしているようだ。

 まあ須田がついているようなら問題はないだろう。だからと言って勝手に動き回ろうとは思わないけど。


 そして青葉が俺のすぐ側にいるのだが、なんで腕を絡ませるんでしょう。

 すごい恥ずかしいです。


「そうだ、青葉」

「どうしました?」

「いや、昨日の事をさ」


 俺がそう言うと青葉は急にかしこまって俺を見る。

 青葉は本当に感情が豊かだと思うけど、今日は特にそう感じた。

 あの時に鈴を探した事は少しながらでも意味があったのだろうか。

 結局見つけたのは海斗で、俺は単なる無駄足だったんだけどね。


「……あえて、もう一度言わせていただきますね。私の事が好きですか?」


 真剣な表情の青葉を見ると、適当には返せないよな、という気分がする。

 俺から見て、青葉はどうだろうか。それは昨日考えた。

 

「恋愛的な好き、かは分からないけど……友達としてなら好きだとはっきり言えるかな」


 青葉は静かに俺の言葉を咀嚼そしゃくしたかと思うと、意味深な笑みを持ってこう返した。


「では仮に……私が、洵さんを好きだと言ったら?」


 初めて見た、青葉の本気の顔。

 少し呑まれてしまうがここで引くわけにもいかない。


「そうだな……それは、実際に言われてみないと分からないかな」

「そうですか……では」


 青葉がキッとこちらを見つめてくる。

 俺はそんな青葉を見つめ返すしかできなかった。


「洵さん。私は……あなたの事が、好きです」


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