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Episode65 パンケーキをあなたと

It's 青葉回。

 弥生と二人でお店を出ると、店先のベンチで座っている青葉と須田がいた。

 青葉が俺の姿を見つけるやいなや走ってきて……あろうことか、突然抱きついてきた。


 「あ、青葉!?」

 「待ってました、さあ行きましょう!」

 「え、あ、お、おうっ」


 俺は真っ赤になりながら、腕を引っ張る青葉に連れていかれるようにしてパンケーキ専門店へと足を運んだ。



 そして店内。白塗りの壁に可愛らしい装飾やらが飾り付けられていて、なんだか少し肩身が狭い。

 青葉と向かい合わせで座っているのだが、ふと辺りを見ると周りは女子会、って感じのやらカップルやら……

 ……やはり肩身が狭い。


 「洵さん、洵さん」

 「ど、どうした?」


 青葉は一切意に介していないようだが、俺としては昨日の言葉の胸に引っかかってとても苦しい。

 なるべく普通に接するべきなのだと思うのだが、やはり焦ってしまう。


 仕方ないと言えば仕方ない。

 何故なら、俺にとって初めての経験なのだ。

 よく考えてみたらどこまで本気なのかもわからないのだが……


 「これ美味しそうです!」

 「うおっ……」


 青葉が目を輝かせてメニューを指差すのだが、その指を指した先にあるのは特大サイズのパンケーキ。

 パンケーキに乗せられたホイップクリームの上にベリーやらがふんだんに使われていて、その上のアイスにはチョコソースが掛かっていて……なにこれ超でかいんだけど。


 ……まさかね。これ食べるなんて言わないよね。


 「ダメなら、他のにしますね……」


 と言ってしょんぼりとする青葉を見てそのままにできるわけがなかった。

 卑怯だと思うな!


 「いや、食べよう。でも流石に大きいからこれ一つでいいか?」

 「はい!」


 満面の笑みを讃えた青葉が嬉しそうに頷く。

 ……卑怯だよ、本当に。


 「店員さーん」

 「はい! ご注文は?」

 「これください!」

 「はい、かしこまりました。パンケーキデラックスがお一つですね。以上で、よろしいですか?」

 「あ、飲み物頼む?」

 「そうですね、じゃあ私は山ぶどうのこれを」

 「じゃあ俺は……コーラください」

 「はい、かしこまりました。では、失礼致しました」


 注文を終えて……改めてパンケーキデラックスとやらの写真を眺める。

 いや、待てよ……に、二千円!?

 学生の財布事情的に、特に俺は母子家庭であり母さんが苦労しない程度にお小遣いをくれているのだが……まさか二千円なんて。

 母さんからは月一万円くらい――普段なら昼飯代も含めている――をもらっているのだが、まさか五分の一を一瞬でパンケーキに費やす事になろうとは思っても見なかった。

 おまけに飲み物代も考えて二千五百円ほど。つまり俺の一ヶ月の四分の一をこいつは瞬時に奪ったのだ。


 ……こうなってしまったならとことん味わうしかない。後悔しても仕方が無いのだから諦めて楽しもう。

 何より、青葉が楽しそうなのが俺にとっては一番嬉しいけど。


 すうっと店員さんが飲み物を持ってきてくれて、ふと見上げると――


 「な、なあ……食べきれるのか、あれ……」

 

 俺は目に飛び込んできたパンケーキの要塞に唖然としてしまう。

 予想以上というか、写真なんて信じられなくなりそうなほどに特盛なのだ。


 「ふふ、大丈夫です。甘いものは別腹なんですよ?」

 「にしてもあれはやばいだろ……」


 店員さんが二人がかりで大事そうに皿を持っていて、周囲の客もあまりの大きさに呆然としている。

 そんな巨大パンケーキが置かれる先はやはり自然と気になるらしく、俺たちへ向けての視線が飛び交っている。

 ゆっくりとこちらへ近付いてくる店員さんがとても大変そう……ってなんでこんなメニュー作ったんだよ。


 「お待たせしました! パンケーキデラックスです!」

 「は、はい……」


 目の前にまで来て改めて分かる、これは異常だと。

 大き過ぎる、絶対考えた奴バカだよ!

 そしてなんでこれ頼んじゃったんだよ!

 ドン、という音を立てて皿がテーブルに置かれる。

 座っている俺たちの目線くらいまである特大サイズのパンケーキが難攻不落の城のようにさえ見えた。


 「では、ごゆっくりどうぞー」


 そう言って店員さん二人は息をふう、と吐きながらキッチンへと戻っていった。


 「これ、本気で食べるのか……」

 「もちろんですよ!」


 ……朝ご飯食べたの一時間くらい前だと思うんだよね!

 おやつとしてもおかしい量……いや、これだけで一日分足りるだろ。


 青葉は上の方から重ねられたパンケーキを取って皿に盛っていく。

 そして俺の目の前に差し出した。


 「はい、洵さん!」

 「……あ、ありがとな」


 少し顔がひきつりそうになるが堪えろ、俺。

 正直言って食べきる自信はない。

 ……と、そこで俺は再び唖然としてしまう。

 青葉の皿には俺の二倍はあるであろうパンケーキが乗っているのだ。もはや訳がわからない。


 「では、いただきます」

 「い、いただきます……」


 青葉がパンケーキと格闘を始めるのを尻目に俺もおそるおそる手をつけてみる。

 ナイフで食べやすそうなサイズに切り、フォークでいただく。

 うん、美味しい。

 パンケーキ自体は少し控えめの味付けをしていて、かけられているハチミツやベリーソースやチョコソースがそれぞれに主張をしていて、なかなか飽きがこない。

 しかしこの量はおかしいと思うな。


 「ふふ、美味しいですね」

 「確かにな」


 案外ペロリといけたのでおかわりしようとしてパンケーキの要塞を見つめるが……雰囲気はそびえ立つ山の如く。

 なにこれ食べきれる気がしない。


 「はっ!」

 「青葉、どうした?」


 急に手を止めて何かを忘れてしまったことを思い出したような感じである。

 

 「忘れていました、せっかくの機会なのに……」

 「ん?」


 青葉の言いたいことが良く分からない。

 せっかくの機会だからなにかあるのだろうか。

 何なのだろう……


 「洵さん、あーん」

 「うおわっ!?」


 考え事に耽りかけていた俺を呼び戻すように青葉に声をかけられ、目の前にまで来ているパンケーキに動揺してしまった。

 ……これがいかに恥ずかしいか。しかしこうなっては食べないわけにもいかない。


 「……あーん」

 「ふふ、じゃあ次は洵さんが」

 「ちょ、本気か」

 「はい、お願いしますね!」


 ……前に一度、弥生と似たようなことがあった。

 故に一応経験はある。

 それでもこの、恋人みたいな感じがとてもドキドキさせてくるのはどうしようもなかった。

 きっと弥生とまたやってもドキドキするんだろうけど。


 さっきから期待に満ちた瞳でこちらを見据えている青葉にまさかお返しをしないなんてわけにもいかないので、己のうだるような恥ずかしさに蓋をして青葉に同じように返す。


 「あ、あーん」

 「あーむ」


 すうっとパンケーキを青葉がくわえる。

 いや、おかしい。


 「……青葉、いつまでくわえてるんだ?」

 「んんんふふんふ」


 何語ですか。

 引っかかっていたのか、やっと青葉が口を話すと、フォークはなんだか少しとろっとしてる感じがして……これは唾液だろう、うん。


 「すみません、なんだか挟まって……」

 「いや、それはもういいんだけど……」


 この青葉のよだれがべたーっとついたフォークでこのまま食べろと言うのならば、間違いなく俺は鬼畜と罵ってやる。

 一瞬触れて間接キス……いや、それでもだいぶなんだけど。

 このなんというか凄まじいほどによだれでコーティングされてしまったフォークで、気にせず食べてくださいなどと言われてもためらうのはもちろんだ。


 「あ、紙ナプキンありました、これで」

 「ああ、ありがとう」


 紙ナプキンでフォークの先を拭いていく……のだけど少しねばっとした感じがしていて、嫌でもなんだか意識してしまいどうして良いものかが分からなくなってきた。


 「洵さん、まだまだありますから、たくさん食べましょう!」

 「……これ全部本気で食うのかよ」


 俺はすごいやる気まんまんな青葉をよそに、まだまだ崩落する気配すらないパンケーキの要塞を見てついため息をついてしまうのだった。


お読みくださりありがとうございました。


いやー書いておいてなんですが、女の子のよだれがたっぷりついたフォークっていかがでしょうね。


色々あった旅行も半分を過ぎて、もう少しです。

……ひたすら長くなってる感じがしてなりません。

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