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Episode64 お買い物

短いのが続いていたので今回長めです。


なんかすごい急発進です。

書いてて楽しかったですね。

 朝、まだ柔らかい太陽の陽ざしが辺りを照らしていた。

 今日も天気は雲一つないほどで、流石は夏だと感じる。


 俺と弥生と青葉が並んで机に座り、椎田さん手作りの美味しい朝ごはんを味わっていた。

 しかし、美味しい朝ごはんはなかなかうまく喉を通っていってはくれなかった。


 今も昨晩の青葉の一言が胸に引っかかっていた。

 好きかどうか。たったそれだけの言葉が、ここまで心をかき乱している。今は大変な時なのも相まってなおさら分からなくなってきていた。

 すぐ側に青葉がいるのに何も言えず、青葉の「おはようございます」という挨拶に「おはよう」とだけ返すのが俺には精一杯だった。


 黙々とパンを口に放り込んでいく。

 味気ない感じがして、作ってくれた椎田さんにはなんだか申し訳ない気分だった。


 「みんな、今日はお昼は自由にするわ。ショッピングなり遊ぶなり、夜までに帰れば問題はないから、好きにしていいわよ」

 「ふむ、ならば我はここらにあるという幻の同人ショップでも当たるか……」


 お前のことは誰も聞いてない。

 まあ勝手にしてくれると助かるからほうっておこう。下手に絡まれると厄介……なんで本当に友達なんだろ。


 「んー、私はどうしようかなぁ」

 「優姫さんは特に何かないんですか?」

 「んー……お土産なら買ったの。遊ぼうかな……あ、でも少し用事があるから、私は一人で行こうかな」


 と、なると残されるのは俺、弥生、須田、菊池さんは私情で、とのことでいないため……青葉。

 待ってくれ、何か修羅場じみてる気がしてきた。


 なんて俺が考えている間にも海斗、優姫さんはそれぞれ出ていく。

 本当に残されてしまった。


 「洵さん! 一緒に出かけましょう!」


 そう言って俺の腕を青葉が掴む。

 するとすかさず反対側に座る弥生が俺の腕を掴んだ。


 「あ、あたしも行くわよ」

 「……あの、ちなみに拒否権は」

 「ないです」

 「ないわね」

 「……はい」


 思わず項垂うなだれてしまう。

 いや、美少女二人の側に入れるのは嬉しいんだよ。しかしそれ故の苦労という物があってだな!

 この状況に海斗がいないのはせめてもの救いだ。

 目の前にぶすっとしている須田がこちらをじーっと見ている。

 わ、忘れてはいないからな。


 「……須田も来るよな」

 「お嬢様を守る義務があるからな」


 さて、このメンバーで歩くとしよう。目立ちまくるのは目に見えている。

 そしてまた囁かれるんだ、あの人は釣り合ってないと。

 ……毎度メンタルを抉られる身にもなってほしいものだよ、まったく。


 「じゃあ、私は準備してきますね!」

 「そうね、あたしも行ってくるわ」


 そう言ってバタバタと急ぎ足で二人は我先にと部屋へ戻っていった。

 須田がじーっとこちらを見て、軽くため息混じりにこう言った。


 「なんだか、大変そうだな」

 「まったくだよ」


 俺はため息をつきながら席を立ち、俺は二人に続くようにして自室へと戻るのだった。



 ……本当に嫌だ。

 俺の両サイドに陣取る弥生と青葉。

 そして通行人はとりあえず振り返っていくのだ。

 そして妙に突き刺さってくる視線がとても辛い。

 金髪で麗しい深窓の令嬢たる弥生は目立つのは慣れているだろうし、青葉はクラスでも中心的な存在になりつつある今、このくらいでは物怖じしなくなっている。

 対して俺はといえば、特に変わりもなく相変わらずのままなのだ。

 人前では人並み以上に緊張するし、視線を集めるなんてとても耐えられない。


 さらに、この二人は道行く人誰もが二度見、いや三度見すらしかねないほどの美少女なのだ。

 それに比べて俺はお世辞にも映えるとは言えず、浮いてる気がしてならない。

 ついでに須田はバッチリ女装を決め込んで俺たちの後ろで視線を集めている様子だ。


 「洵さん! あのお店行きましょう!」


 ぴょんぴょん跳ねながら嬉しそうに片手で俺の腕をしっかりとホールドする青葉が指をさす先はパンケーキのお店。

 確かに、美味しそうだとは思うけど……ついさっき朝ご飯食べたよね?


 「洵、こっちのお店に行きましょ。使えそうなものもありそうだし」


 ……何で弥生さんはムキになってるんでしょう。腕の掴み方が強引でとても痛いです。

 というか両側から引っ張らないでくれ、かかしみたいで余計恥ずかしい。


 「……須田、どちらへ行くべきだろう」

 「どちらも行ってみたらどうだ?」


 ……マジで?

 なんかすごい顔がひきつってる気がする。

 っていうか俺に権利はないのか。


 「わ、分かったよ……どっちも行こう」

 「私が先に!」

 「あたしが先よ。さっき朝ご飯食べたばかりなんだから、その後でもいいでしょ?」

 「二人とも引っ張るなって!」


 ぐいぐいと二人が俺を引っ張っていて、正直言わせていただくと痛いです。裂けそうです。


 「分かりました、弥生さんの後に私が洵さんを独り占めにするという事で手を打ちましょう」

 「ひ、独り占め!?」

 「さっきから思うけど俺に権利をくれよ……」


 という俺の嘆きは二人には届かないようである。

 だから勝手に話を進めるなと。


 「……わ、分かったわ。乗りましょう」

 「交渉成立ですね。今からお店の中ではできるだけ近づかないようにしますので」


 ……だから! 勝手に進めない!

 ああ、青葉はなんでこうなったんだよ……


 「そうと決まれば負けてられないわ、行くわよ、洵」

 「あ、ああ」


 左腕をホールドしていた青葉が手を離すと同時に弥生にぐいっと腕を引かれてそのままお店へと入っていく。

 店内はこ洒落じゃれた感じで、いかにも女の子が通っていたりしそうな雰囲気がしていた。

 実際、店内には女の子やカップルが多くて……俺たちもそう見られているのだろうか。


 「そうね、記念だから何か買ってあげるわ。見て回りましょ」

 「弥生」

 「何かしら?」


 俺が名前が呼ぶと、弥生はくるっとこちらを振り向いた。綺麗な金髪はこういった動作でさえ輝きを放っている。


 「あのさ、なんか今日いつもと違う感じがするんだけど……」

 「そうかしら? いつも通りよ」


 ……いつもならこんな腕をがっしりと掴みませんよね。

 素っ気なく弥生は返すが、絶対におかしい。


 「さて、私はあちらでも見ていますね。須田さん、良ければご一緒にどうですか?」

 「あ、ああ……私でよければ行こう」


 そう言って青葉は須田を連れて奥の方へと去っていく。

 背中を押される須田からは「側にいろよ」という脅しにも似たアイコンタクトをちょうだいした。


 「ねえ、これなんてどうかしら」

 「う、うおっ!?」


 何やらシュシュを頭に当ててこちらを見つめている弥生。

 いや、問題はそこじゃない。近い、近すぎる!

 それこそ息がかかりそうな距離で透き通るような白い肌はとても柔らかそうで……


 「こら、聞いてるんだから返事しなさいよ」


 コツンと頭を軽く小突かれてうっかり見惚れていたことに気が付く。

 きっと、シュシュが似合うかどうかなのだろう。

 良く分からないけど弥生ならなんでも似合う気がする。


 「うん、似合うと思う」

 「なんか味気ないわね」

 「う……仕方ないだろ、経験がないんだから」

 「洵らしいわね」


 褒め言葉には聞こえないが、まあ気にしないでおこう。

 弥生が微笑んでいるからそれでよしとしておこう、うん。


 「なあ、これなんてどうだ?」


 俺はパッと目に付いたシュシュを弥生に手渡す。


 「ど、どうかしら?」


 弥生は先程と同じように頭に当ててみせた。


 「さっきよりも可愛いと思うよ」

 「……本当に?」


 少し疑いを持った目で俺を見つめてくる。


 「なんで疑うんだよ……」


 俺って信用されてないのかな。なんかショック。


 「悪かったわ、ありがと」


 そう言って弥生はわずかながらにも微笑んでくれて、俺は安心する。

 よし、微妙ながら経験値を稼いだ気がする。目指せレベルアップ。


 「あ……洵、ちょっと目を瞑ってくれる?」

 「え? ああ、わかった」


 突然弥生に言われた通りに目を瞑ってみる。

 弥生のものらしい手が首の辺りを触れて、なんだかドキドキしてしまう。

 次に少しひんやりとしたものが、カチっという音と共に触れる感触がした。


 「もういいわよ」

 「これはなんだ……」


 違和感を感じた首の辺りを見てみると、そこにはネックレスが着けられていた。なるほど。


 「……失敗ね。思ったより似合わないわ」

 「心外だな……」


 俺はネックレスを外して弥生へ返す。

 似合ってないと言われてだいぶショックを受けているのだが、ここは我慢だ。


 「あ、もう一度目を瞑ってくれるかしら」


 俺はもう一度素直に従ってみた。別に悪いことはないと思うから、問題はないはずだろう。


 俺の右手首に、弥生の手が触れて、何か糸のような感触がする。

 少しして、キュッと縛られたのか急に締まる感じがした。


 「もういいわよ」

 「今度はなんだ?」


 手首を見ると、水色を基調として白を取り入れたミサンガが結われていた。


 「これなら、問題はないでしょ」

 「そうだな、ありがとな」

 「ええ、そろそろ行きましょ。あたしもパンケーキが食べたくなってきたわ」


 クレープの時といい、甘いものが好きなのだろうか。まあ女の子らしいか。


 「分かった、行こうか」


 そうして、俺たち二人は並んでレジへと向かったのだった。


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