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Episode63 青葉の思惑

 夜。辺りはすっかり暗くなって、山間にあるこのペンションはもちろん真っ暗だった。

 暑さが残っていた昼と比べて、今はとても涼しく、窓を開けると夜風が吹いてきて心地よかった。


 ……思い切って言うまでは良かったけど、大丈夫かな。

 責任をとる、なんて偉そうに気持ちに任せて言っちゃったけど、正直自信がない。

 そもそも責任をとるってどうなるんだ?

 小指を、みたいな感じで命……いや、流石に……ありそう。高成さんの雰囲気的にはやりかねない気もする。

 すごい怖いもん、あの人。


「後二日かぁ……大丈夫かな」


 俺と弥生の二人で企画していたこの軽井沢旅行は明日、明後日で終わる予定だ。

 明日の予定は主に買い物などをして、夜に……とっておきのイベントがある。

 しかし、問題として夜というよく見えない状況であり、それこそあの人に狙われでもしたら分かるわけもない。

 ……となると、終始引っ付いたままで動くとか。

 俺が持たない、確実に。


「……こればかりは取りやめ、かな」


 まあ、明日の夜まで時間はあるのだから、問題はないはず。

 それまでに何か考え出せばいい。きっと、弥生も何かしら考えているだろう。


 コン、コン。と、扉をノックする音が聞こえた。


「誰だ?」

「洵さん、いいですか?」

「あ、ああ」


 その声の主が扉を開けて部屋の中へ入ってくる。青葉のお風呂上がりの艶々とした銀髪が光を照り返していて、少しばかりまぶしかった。

 それより、なんで青葉が来たんだろう?


「こんな時間にどうしたんだ?」

「え、えーと……それは、何と言いましょうか……」


 何故か突然頬を赤く染めて青葉は俯いてしまう。

 こんな所で黙られては俺も何も言い返せない。

 元より異性と話すことが苦手……あ、当初の目標を今更思い出した。

 全然できてないような気がしてきた。楽しいからいいけど、何ら変わってないよな。


「あ、あの!」

「な、なんだ?」


 急に声をかけられて、つい驚いてしまう。

 青葉はこちらをじっと見つめていて、その顔はまだ赤みを帯びていた。


「洵さん、今日はそろそろ寝るんですか?」

「え、うん。もうそろそろ寝ようとは思ってたけど」


 実際に荷物の整理を少ししていて、ついさきほど歯磨きを終わらせてたところだ。

 十分もすればベッドに入ってそうなくらいだった。

 って、なんでそんなこと聞くんだろう。


「そうでしたか。いや、少しお話したいなぁ、って思ったんですよ」

「そっか、それなら構わないよ」


 そういえば、今日は青葉と話していない気がする。特に話すほどの事がなかったといえばそれだけなのだけど。


「ふふ、ありがとうございます。じゃあ、お隣いいですか?」

「あ、ああ……いいけど」


 青葉はすっと俺が腰かけていたベッドの隣に座る。

 シャンプーの香りだろうか、青葉から甘い、優しい香りがした。

 緊張はさっきからしているけど、さらにドキドキしてきた。

 俺、しっかりしろ。相手はだいぶ慣れてきた青葉だし、二人きりで話せるくらい出来なくてどうする。


「洵さん」

「な、何かな」

「弥生さんとはいつからですか?」

「弥生と、か……そうだな、青葉に出会う前日くらいだよ」


 そう、弥生と二人で帰っていて……青葉を見て、驚いた俺たちは追いかけたんだ。

 結局見つけられなくてあきらめた後、まさかぶつかられるとは思ってなかったけど。


「そうだったんですか……なら、別にそこまで差は……って、あれ?」


 いきなり怪訝そうな顔になった青葉が何やら不思議そうにこちらを見ている。

 何かあったっけ。


「会ったのが前日なんですよね。なら、出会ってすぐに付き合い始めたんですか?」

「あー……」


 やっちゃったな、確かに、出会った初日から付き合うなんてそうそうないだろう。

 普通は何か月も経ってたりするものなんだから。

 ……ごまかせないかな。


「アレだよ、その時はまだ、うん」


 うわ、言い訳下手だな、俺。というか言い訳にもなってないよな。


「何ですか? 答えてください!」


 何でここまで食って掛かるんだぁぁ。

 ……ダメだ、言うしかないか。


「実はさ、俺と弥生は恋人の役、ようはフリをしているだけなんだよ」

「ええ!?」


 驚くよねー。俺もいまだに信じがたいもんねー。


「ってことはチャンスはあるんですね……」

「ん? 何か言ったか?」


 青葉が俯きながらぶつぶつとつぶやいているが、なんて言っているかよくわからない。

 と、勢いよく青葉が顔を上げた。


「ど、どうしたんだ?」

「ふふ……洵さん、私の事好きですか?」

「……はああ!?」


 思わず、大声を上げてしまう。

 突然の右ストレートに身構えてなかった俺は危うくKOされてしまいそうだ。

 全身の血が凄い勢いでめぐっていく感じがして、ショートしているみたいに体が火照ってくる。

 何でこうなった!

 落ち着け、俺!


「え、えっと、どういう意味?」

「そのままです!」


 しどろもどろになる俺とは反対に、堂々と返してくる青葉。

 俺はもう訳が分からない。

 すると、部屋の扉が強く開けられる。

 駆け込んできたのは弥生だった。


「ま、洵! って何で青葉がいるの!?」


 弥生も少なからずパニックのようだ。

 隣の青葉はなんだか誇らしげなんだけど。


「いえ、少しお邪魔してただけですよ。じゃあ私は戻りますから、洵さん、また!」


 と言って俺に最大限の笑顔を残して青葉は弥生を連れて部屋を去って行った。

 ……えっと、これは告白なのか? いや、違うか。

 それにしても答えないといけないんだよな、多分。


 とりあえず落ち着いてくれない気持ちのまま、ベッドへ倒れこむ。

 言うまでもなく、今晩はぐっすり眠れるはずもないのだった。




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