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Episode62 来客と決意

今回短いです。


 俺たちが一汗かいてテニスコートから戻ってくると、真っ黒なスーツ姿の高成さんが待ち受けていた。

 入ってすぐに出てきたものだから、俺は思わず硬直、弥生も驚きが隠せないようだ。

 海斗辺りが「なんだ、このおっさんは?」なんて言っているがいちいち言ってられるほどの状況ではない。


「弥生、大丈夫なのか?」


 いつか聞いた時と同じように、重たく響き渡る声。

 体が強張るのを感じる。


「部屋で話すわ」

「……そうだな」


 落ち着いた様子で受け答えをする弥生だが、わずかに手が震えていた。

 高成さんがこの状況で弥生を自由にしてくれるのか……答えは言わなくても、きっと反対だろう。

 いくらボディーガードが警備を固めても、相手はプロの殺し屋なのだから守り切れるという保証はない。

 菊池さんが調べたところ、とても厳重な警備を敷かれていても全て潜り抜けてターゲットを仕留めたのだという。


「とりあえず、今からまた自由時間な。みんなはのんびりしててくれ」

「……大丈夫、なんですか?」


 心配そうな青葉の声がかかってくる。

 なんとなく、感じ取ったのだろうか。

 みんなは客なのだから、できるだけ不安にさせないようにしないと。


「大丈夫、心配はいらないよ。だって、俺や須田がいるからさ、安心してくれ」

「そう、ですか……もし、何かあったら言ってくださいね」

「ありがとう、青葉」


 一応安心してくれたのか、青葉は部屋へと向かっていった。

 それにつられるようにして海斗や優姫さんも後にしていく。

 優姫さんも心配なのか、なんだか思いつめているような顔をしていて、少し気になったが今はそれどころではない。

 俺と弥生、須田と菊池さん、それから高成さんの五人が残された。


「やっぱり、ここで話しましょ」

「私はどちらでも構わない。それに時間もそこまではないからな」


 広い部屋の中に、緊張が広がっていき、静寂が生まれる。

 その静寂を、弥生がそっと破る。


「で、時間がないなら早くしましょう? 用件は何?」

「そうだな……弥生」


 一瞬、弥生がビクっと反応したように見えた。


「時間が無いから確認をして帰る。この件は本当か?」

「はい、実際に会った洵様やお嬢様が分かっております」

「ほう……何か、対処はしているのか? 応援は送っておいたが、まさかそれだけではないだろうな」


 鉛を落としたような重たい声の中に、弥生への心配が見え隠れしていた。


「対策は取っているわ。だから安心して」

「……何かがあってからじゃ遅いだろうに」

「そうね、なら今回だけでいいわ。信じてくれるかしら?」


 弥生がじっと高成を見つめ返してそう言った。

 こんなに堂々としている弥生の隣でおろおろとして何も言えない自分が情けなかった。

 何か言おうとは思うのに、喉元で引っかかって飲み込んでしまう。


「……もし何かがあれば、責任は誰が取るんだ?」

「私が――」

「いえ、私が。分かっていながらも容認したのは私ですから。もしもの時責任を負うのは百も承知です」


 高成さんの問いかけに、須田が答えようとした所に菊池さんが割って入る。

 ……いや。


「高成さん、俺が取ります。そもそも、この話を持ち掛けたのは俺ですから……今の間、ここから帰るまでに何かがあれば、俺が責任をとります」

「ほう……相変わらず、お前は面白い事を言う……分かった、覚悟はしておくんだな」


 それだけ言い捨てると、高成さんは静かに去っていった。

 一安心して息を大きく吐いて……ふと、隣を見てみると……さて。逃げよう。

 俺は一目散に階段を駆け上がっていく。


 なぜなら、俺が隣を見た時、真っ赤な弥生が相変わらずの大きさのピコピコハンマーを両手に携えていたからだ。

 この場合は過去に何回も経験した通り、問答無用で殴られるのが目に見えているのだ。

 俺が何か悪い事をしたのだろうか。いや、むしろ俺はよくやったと自分をほめたい。

 なのに何故こうなるのかが不明なのだが、尋ねたところで返事はないまま殴られるのがオチだ。


「お、お嬢様、落ち着いてください!」

「はぁ……須田、どきなさい……」

「ダメです! 小波は悪い事はしてないんですから、一度落ち着いてください」

「ううう……もうあんたでいいわ!」

「ええ!?」


 なんてやり取りが後ろから聞こえてきたがそんなことはいざ知らず。

 須田、申し訳ないけど身代わりになってくれ。

 そのまま駆け上がって二階に着く。

 そして廊下をまっすぐに抜けていき突き当たりの部屋へと急いだ。


「お、お嬢様ぁ!?」

「喰らえっ!!」


 なんだか下がバタバタしているようだが、俺は関係ない。きっと。

 俺は隠れるようにベッドに体を預けると、気づいた頃には寝ているのだった。


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