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Episode57 揺らぐ心

緊迫してます。

 「……へえ。通りで」

 「ああ。お前の所が私らの一番の供給源だったんだよ」

 「流石パパね、よく気付いたものだわ」

 「さっきから貴様はおちょくっているのか……」


 緊迫している雰囲気は何分かたった今も変わっていない。

 弥生の頭には黒い銃口が突きつけられたままだった。


 「あなたたちは間違えているのよ」

 「……何が言いたい」

 「そうね、あたしを殺せば確かにパパは傷付くわね。でも、それで何かプラスがあるのかしら?」

 「…………」


 弥生は怖気付く事もなく、淡々と続けていく。


 「この際、死ぬのは仕方ないとしても……あなたたちに利益はないのよ。むしろここまで来るなんて、よほどの無駄だとは思わないかしら?」

 「……うるさいっ!」

 「冷静になりなさいよ……あなたは……さしずめ、良いように使われている殺し屋、って所かしらね」

 「……だからどうしたんだ」

 「今のままでいいのかしら、あなたは。あたしは少し前まで自我を失ってきていたわ。でも、変えてくれた人がいて……私は自我を取り戻せた……もしかするとあなたは、あたしに近いんじゃなくて?」

 「…………お前と私が似ている、か。面白いことを言うよ」

 「どういたしまして」

 「さあ、そろそろ時間かな」

 「ええ、話過ぎたわね。でも楽しかったわ」

 「……愉快なものだよ」


 ――時間を最大限延ばしてみたけど……どうやら無駄だったみたいね。須田に、菊池に、パパに、洵に、みんなに、謝っておきたかったわ……


 ビーッビーッという音が鳴り響く。


 「……チッ、やはり話過ぎたか。私としたことが……時間切れだ、今日は帰る。次は貴様を必ず仕留めよう、話す暇も無いと思え」


 赤髪の少女は銃をしまい、森が作り出す闇の中へと消えていった。


 「……よくは分からないけど、助かったようね。奇跡だわ」


 はぁー、と緊張とともに大きく息を吐き出す。

 彼女の名前は宝生美紗ほうじょう みさ

 神崎グループの資産運営の中の一つの投資相手である企業が、裏で犯罪グループと繋がっていたようで、それを知った高成によって契約を断ち切ったのだ。

 その報復、というつもりで来たようだが……疑問だらけなのだ。

 まず彼女は日本名だと言うこと。そのグループは外国にあるものであり、もちろんメンバーも外国人がほぼ全てを占めている。そのはずなのに、日本人である彼女、ましてや年齢も弥生とほぼ変わらない。

 きっといわく付きなのだろうと、話を聞く中で弥生は察した。


 と、須田と洵がこちらへ走ってくる。


 「お嬢様!」

 「弥生!」

 「あら、ごきげんよう」


 あえて、とぼけてみせた。ここで話しても仕方が無い、話すのは菊池が来てからじっくり話せばそれでいいからだ。


 「……割と元気そうだな、何もなかったのか?」

 「お嬢様、危険です! とにかく帰りましょう!」


 連絡を入れたつもりはなかったはずだけど、どうやらこの二人は掴んでは来ているようだ。

 この流れだと話さないわけにもいかないようだ。


 「……二人とも、少し聞いてくれるかしら」


 二人は神妙な面持ちになる。

 そっとため息をついてから、弥生は二人にさっきの事を話したのだった。


 ◆


 帰ってきた俺たちは各自お風呂に入った後、買い出しに行っていた椎田さんの手料理を堪能し、とても満足して本日の予定はひとまずほぼ終えた。

 といっても移動と事故による自由行動で今日は終わってしまったのだが。


 何より、弥生が無事で安心した。それこそ死にかねなかったと聞いて冷や汗をかいたものだ。

 俺はまた一人寂しく、みんなから離れた部屋に戻ってきた。

 ……海斗の部屋行こうかな。


 「……というか眠い」


 あれだけ騒いだりしていたのだから、疲れてしまうのは仕方ないか。

 俺は少し早めに眠りにつく事にした。明日も早いから、早寝早起き朝ごはんというやつだ。

 ……それを高校生が掲げているのが何とも言えないのだがそんなことは知らない。現実とはそういうものさ。


 俺がベッドに入ると、ふわっとした感触があまりに気持ち良かった。

 俺は流石に暑いと思い、タオルケットだけをかけると、すぐに眠りについてしまうのだった。


 ◆


 洵が早めに寝ている頃、弥生の部屋では女子会が開かれていた。


 「でさっ! 弥生ちゃんは洵ちゃんのどこが好きなの?」


 ――困ったわね。このパターンは話し合ってなかったわ。適当に繕っておこうかしら。


 「そうね……」

 「私は真っ直ぐな所がいいと思います」

 「……青葉?」


 何故か青葉が口を挟んできた。

 そのまま青葉は続けていく。


 「……何なのでしょう。もしかして私も好きなのかもしれません」

 「きゃー! まさかの三角関係!?」


 青葉が赤裸々に気持ちを語る。

 その言葉が弥生の胸の中に、鐘をすごく強く打ち付けるような衝撃を走らせる。

 青葉が……好き?


 「……あ、青葉。本気で言ってるのかしら」

 「はいっ」


 青葉の真っ直ぐな言葉に、再び心が揺さぶられる。

 ……思わぬところで予定が狂ってしまったかもしれない。

 なんとなく、どこかで洵は自分のモノ、みたいな感覚がしていた。

 しかし、そうはいかない気がするのだ。


 洵は、女の子と話すのがとても苦手である。今回のこの旅行だってその一端だ。しかし誤算が、比較的に慣れている青葉が洵を好きになってしまった事。

 そのうち告白なんてしたら……洵は、受けてしまうのではないか。


 いや、それでいいはず。あくまで、二人友達であり、恋人の役をしているだけ……。

 もし、恋人の役を終えたら……洵と接点が残るのだろうか。帰る方向が同じではないし、クラスも違う。

 今、洵との接点は恋人の役をしている……それだけに過ぎないのではないか。


 ――もし、青葉と付き合ったら……あたしは、どうなるの?


 そんな事は言わなくても分かっている。でも、分かりたくなかった。分かってしまうのが怖かった。


 「弥生ちゃん?」

 「あ……な、何かしら?」


 つい、思考に耽ってしまっていた。

 前にも一度やってしまったのに、またやってしまうなんて。


 「弥生ちゃんが何だか難しい顔してたから……気になったのよ」

 「……眠いんですか?」


 二人の気遣いが、逆に苦しい。


 「……確かに、少し眠いわね。今日はもう寝るわ、ごめんなさい」


 弥生は立ち上がって自分のベッドの中に潜り込む。

 なんだか、泣いてしまいそうな気がして、見られたくなかった。これ以上は迷惑をかけたくなかった。

 だから……今日はもう寝よう。


 「おやすみなさいませ、弥生さん」

 「弥生ちゃん、おやすみ~♪」

 「ありがとう、おやすみ」


 弥生は布団の中で目を閉じる。

 ……もちろん、眠れるわけなんてなかった。話が気になって仕方がない。

 結局、弥生が眠りに落ちるのは二人が話をやめて寝静まった後になるのだった。

お読みくださり、ありがとうございました。


謎の赤髪の少女の名前が公開です。

宝生美紗。

これから、どうなるのか。

私自身も楽しみでもあります。


次回も読んでいただけたら、幸いでございます。

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