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Episode56 危機

はい、超展開です。

 須田の部屋から出た俺は弥生の部屋を探している。

 適当に聞いてもいいのだが、一つなんとなく今入りたくない部屋がある。

 海斗の部屋、園田が私情で来れないとの事であいつは暇を持て余しているのが目に見えている。


 ついでに、部屋の内訳を細かく言うと、須田と菊池さん、海斗と俺……の予定だったがなんか嫌だった、というか普通に嫌。

 そして弥生は青葉と優姫さんの三人。

 これで分かるのが、残る部屋は二つ。まあもっと部屋はあるのだけど、今は閉めてあるという。

 適当に行ってみてもいいのだが、それで海斗の部屋に行ってしまえば終わりである。逃げられなくはないと思うが、とても厄介だ。


 何か策はないものかと脳内で案をあげようと思うのだが、一向にあがらない。

 開けずに、気付かれずに調べる方法…………そうか!

 扉に耳を当てて、中の音を聞けばいいんだ。なんか少し背徳感はあるけど、そんなに問題にはならないさ、きっと。


 俺は目の前にある部屋の扉に耳を押し当てる。

 ……どうだっ。


 「ここらで限定モノとかねぇかな……」


 即決。

 どう聞いても海斗。

 となると、鍵がかけられていない部屋は残り二つで、片方はさっき入ったからわかる。

 部屋の前まで歩き、一応確認で少しだけ聞こうと顔を近付けた――


 「がっ!?」


 バァン、と扉の開く音が聞こえたと思えば、俺はその場で倒れていた。


 「ちょ、洵ちゃん!?」

 「ど、どうしたの洵!?」

 「なんでそんな所で寝てるんですか、洵さん!」


 ……なんか一人おかしい気がします。


 「いたたた……いや、大丈夫」


 正直言うとすごく痛いです。大丈夫だけど!


 「そう? 鼻赤いよ?」


 そりゃあんなに強い勢いで開けるとは思わなかったよ、痛いよ。


 「ま、まあ大丈夫だから……」

 「本人がそう言うなら放っておきましょ……そろそろお昼が出来る時間よ。洵、二人を連れてきて」


 弥生は済ました様子で、淡々と言う。

 あんたは少しは気遣ってくれよ。気遣うとかの問題通り越して仕事課せるとか鬼ですか。やるけど!


 「分かったよ」

 「ところで、なんで部屋の前にいたんですか?」


 青葉が俺にとって最も聞かれたくなかった疑問を投げかけてくる。

 ……どうしよう。


 「確かに……なんで居たのか、気になるわね」


 さっきと変わらず淡々と話す弥生が、俺からすると凄い怖いです。


 「覗こうとしてたの?」


 ……ぐはぁ。いや、これには名目があるんだよ、数秒で考えた!


 「ち、違うっ」

 「へえ……いい度胸ね」


 トーンがあからさまに下がった声の弥生が、愛用のピコピコハンマーまがいのハンマーどこからともなくを取り出す。毎度どこにあるんだよ、それは。

 しかも大きいのがなおさら不思議である。頭より大きいし。


 「いや、待てよ、何故そうなる!?」

 「の、覗くのは……破廉恥ですっ」


 顔を赤らめながら青葉が余計なことを言ってくれる。


 「ええ、そうね。破廉恥よ。洵、分かったかしら……理由はこれだけよ」

 「…………分かりました」


 もう腹を括るしかないと俺は諦めて、弥生のハンマーを甘んじて受けることを決めた。


 「そうね、今回は三人だから三倍にしましょう」


 そう言って弥生は持っていたものより遥かに三倍は超えていそうな巨大ピコピコハンマーを取り出す。

 ……なんかとてつもない身の危険を感じます。今回は俺に得は何もないじゃないか!

 というか弥生さん怖い弥生さん怖い弥生さん怖い。


 「覚悟は出来たかしら」

 「……もう勝手にしろ」


 吹っ切れた、もう殴れよ。


 「……ええいっっ!!」

 「うがぁぁ!!」


 可愛いピンク色が映えるハンマーからの無慈悲な一撃により、俺の意識はあえなく沈んでいく。

 うん、知ってた。

 意識が遠のく寸前に白いレースの布地が、俺の目に留まり……心の中でひっそりとガッツポーズをして意識としばしのお別れをしたのだった。

 さらば……意識よ。




 俺が目を覚ますと自分の部屋にいて、須田が目の前にいた。いつの間にかベッドまで運んでいてくれたようだ。


 「大丈夫か?」

 「……まあ、だいぶ慣れてきたよ」

 「そうか、済まないな……ここだけの話、ああいう面は心を許してる人くらいにしか見せないんだ。だから……」


 ……弥生が、俺に心を……許している?

 はは、そんな馬鹿な。多少は変な気は張らないかもしれないが、それはない。


 「そういや、昼ってどうなった?」

 「あー……それは、今から話そう」


 須田から俺が倒れた後の話を聞き、予定変更で今日は一日自由行動をしよう、としたようだ。

 そして肝心の昼ごはんは、海斗が腹いせに俺の分まで食べようとしたところを須田が蹴り飛ばし、飛ばされた海斗が身を持って料理をめちゃめちゃにしてくれたという。

 今度あいつ殴ろう。決定。


 何か代わりに買ってきたりしようかとは考えたようだが、どうせ自由行動なのだから起きてから本人の意見を聞こう、ということになったらしい。


 「そうか……ところで、弥生は?」


 お腹は空いているがそれより心配は弥生である。

 ご機嫌斜めなんだろうなぁ、なんて不安な気持ちでいっぱいだ。


 「お嬢様は出かけてくるとおっしゃっていたが ……」


 何それ怖い。いや、会うのも怖いんだけどさ。


 「……ん!? なんだって!?」


 スマホをじーっと見つめる須田は驚きを隠せないでいるようだが……何があったんだろう。どうせこいつが驚く事なんて弥生のことだろうし。


 「弥生に何かあったのか?」

 「違う。今から起きるかもしれないんだ」

 「……は?」


 須田がとてつもなく険しい顔で部屋を出ていった。

 どうやらただ事ではなさそうである。

 ……俺も行くか、仮にも恋人だし。いや、そうじゃなくても行くけど。


 「須田、俺も行く!」


 俺はベッドから降りてまっすぐ廊下へと向かった。



 ◆


 「はぁ……何もあそこまですることではなかったわね」


 店が立ち並ぶ通りの一角にあるカフェでダージリンティーを一口飲んで、ため息をつく。


 「はぁ……前もやったのに、またやっちゃうなんて」


 殴るつもりなんてなかった。

 でも、何だか気恥ずかしかったりして……つい、殴ってしまったのだ。

 いまいち理由はわかっていないが、ついこういった面を出してしまう事がある。

 昔からの癖だった。


 「……それにしても人が少ないわね」


 昔来たときはここまで少なかっただろうか。

 このカフェはいつもある程度の席は埋まっていた筈なのだけど。


 「……そろそろ行こうかしら」


 きっと、このままここにいても後悔の念に押しつぶされてしまうだけ。

 素直に謝る……というのが早いはずなのは分かっていた。洵は多分許してくれる。

 ……でも、素直に謝るなんて事がそう簡単に出来ていたら、こうして弥生がため息をついているわけがないのだ。

 変わろう、そう思っていたのに、やっぱり変われない自分がいた。


 「とりあえず出て……お土産でも買おうかしら」


 カフェを後にして、何か面白いものでもないかと通りを歩く。

 しかしこれといって面白い物があるわけでもなく、ただ店を眺めるだけで時間は過ぎ去っていった。



 それから諦めて帰ろうと歩く。そして角を曲がってさらに人通りが少なくなる道を進んでいく。

 ――突然、背後から何か異変を感じる。


 「……困ったわ」


 弥生は護身術などを数々を教えこまれてはいるが、今回はまた少し違うようだ。


 「流石に銃弾から護る術はないわよね……出てきなさい、あたしは何も出来ないわ。用件を言って頂戴」

 「……これは驚いたな。まさか私の気配を感じ取れるとは」


 後ろから声が返ってくる。予想通りだった。


 「幼い頃から鍛えられていてね。身を護る力は無いくせに察知能力には優れているのよ」

 「さしずめ司令塔、か。あいにく誰もいないようだが」

 「そうね、あたしの油断だったわ」


 カチャ、という金属音が鳴り響く。


 「で、用件を言って頂戴。まだ聞いてないわ」

 「そうだな……なに、とても単純な事さ」

 「……それは困ったわね。資産とかの方がまだマシだったわ」

 「狙いは資産なんかじゃない。裏切られた報復、だよ」

 「裏切られた、ねえ。規約違反をしていたのはそちらじゃなくて?」

 「……うるさい」


 硬い銃口が頭に突きつけられる。


 「冥土の土産に何かそちらの内情でも教えてくれないかしら」

 「知ってどうしたい」

 「何もないわ。ただの気休めよ」

 「くっ……」


 人通りもない道の真ん中で立つ二人の少女。

 この空間には凄絶なまでの緊張が流れていた。

お読みくださり、ありがとうございました。


グググッと展開が変わりました、はい。


では、次回も読んでいただけたらな、と。

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