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Episode54 到着

ついに到着。


 だいぶ揺られた気がする。

 車内の居心地はというと……あえて言うならば最高。

 さっきと比べ余裕も出てきて、改めて状況を整理してみると……そう、両手に花。

 さっきまではあまりの苦しさに紛れていて感じなかったが、こう考えると俺の心臓の脈を打つスピードがどんどん早くなって来ている気がする。

 左隣の青葉が身動きを取る度にふわっといい香りがこちらに漂ってくる。また、右隣にはまるで石のように微塵も動かない弥生がいて、わずかに揺られるだけでもこれまたいい香りがまた漂ってきて……とてもじゃないが落ち着けない。


 口直しのガムを噛みながら、窓を眺める弥生に話しかけてみる。


「弥生、そういえばさ」

「なに?」


 弥生はこちらへすっと向きを変える。さっきよりもはっきりと弥生のいい香りがして、さらに弥生が俺を見つめている……慣れてきたはずなのに、まだまだドキドキしてしまう。

 逆にいつかは感じなくなってしまうのだろうかと思うと、少し寂しい……って、俺は何を考えているんだか。まず弥生とこうしているのもいつまでかも分からないのに。


「あのさ、昨日……公園の時のあの人に会ってさ」

「……大丈夫だった? 怪我とか……」


 俺の言葉に反応して少し険しい顔をした弥生が心配してくれた。

 以前よりも少し弥生は変わったような気がするんだよな。雰囲気というか、柔らかくなった感じがする。まあ相変わらずの無表情なんだけど。でも笑うときは笑うし可愛い……って落ち着け、俺!


「ああ、それがさ。青葉を探してて道に迷ってた所を助けてくれたんだよ」

「……私がどうかしましたか?」


 自分の名前をすかさず聞きつけた青葉が後ろから声をかけてくる。


「いや、別に何もないよ」

「そうでしたか、失礼しました」


 そう言って青葉は優姫さんと話し始める。どうやらだいぶ馴染んだようで良かった。まあ青葉が可愛いのと性格がいいから、当然だとは思うけど。今やクラスの中心的存在になりつつあるくらいだもんな。


「……じゃあ公園の時は、何故?」


 弥生から話しかけてくる。確かに、良く分からないんだよな……


「それは……なんだろうな。今度会ったら聞いてみるよ」

「いや、待って。私も気になるわ……そうね、今後当分は一緒にいましょう? ……それに…………あるし」


 少し頬を朱に染めながら弥生は言った。最後の辺りはなんだか口ごもる感じでよく聞こえなかった。


「最後、なんて言ったんだ?」

「……なんでもないわ。それで、どうかしら?」


 俺の疑問は晴れることもなく、話を戻されてしまう。なんだかスッキリしないけど仕方がない。


「お互いが問題がない範囲でなら、俺は構わないけどさ」


 しっかし弥生と街中は歩きたくないな。

 弥生が目立ちすぎて、周囲の俺への視線が刺さるようでとても肩身が狭いのだ。

 釣り合ってないもんな、知ってる。


「ええ、じゃあ決まりね」

「まあ帰ってからだから、まだ先の話だよな」

「そうね。そろそろ着くわ」


 弥生に言われてふと、窓から外を眺めてみるとさっきまでとは違って山の方へ入っていることがわかった。


 とりあえず、今から四日間……楽しんで思い出を残し、なおかつ俺のコミュニケーションスキルのレベルアップをしたい。

 昨日にもまた感じたくらいで、改めてダメだなぁと内心思っていた。だから頑張っているんだけどね。


「弥生、着いたらどうするんだっけ?」


 今回は主催が弥生と俺。そのため、あれだけ色々話し合ったのだ。主導するのは俺と弥生の立場であり、弥生には色々してもらっているから、このくらいは俺がやりたかった。


「私は挨拶とかしてくるから、洵はみんなを広間へと連れていってくれるかしら」

「分かったよ。それで、連れていったら待ってればいいのか?」

「そうね、一度みんなで挨拶を済ませるとするとその方が都合がいいわ」

「了解、任せてくれ」


 ……弥生となら普通に話せるのにな。

 この感じで誰とでも話せたらもっと高校生活も楽しいに決まっているのだが……スタートから俺は間違えたんだよなぁ。

 なんで海斗と友達になったのだろう。まあ今でこそ悪くはないとは思うが、やつの影響は凄まじいものだった。

 特に、女子から理由もなく避けられるのが一番堪えたものだ。


「よし、四日間……めいっぱい楽しもう!」

「黙れ、リア充ー!」

「……お前が黙れ」


 やっぱりさっきの悪くはない、というのは撤回しよう。こいつただの性悪な気がしてきた。


 緩やかな坂を車が静かにのぼっていく。

 そして、平たい道路に出たと思うと……俺たちは目を丸くした。

 目の前には、弥生の屋敷ほどではないが十分すぎる大きさの木造のペンションがでんと待ち構えていた。白い壁が光を反射しているようで少しまばゆい。


「……弥生、これ別荘とか、そんな感じだったよな?」

「ええ、そうよ。管理はうちがしているわけではないけど」


 平然と言ってのける弥生が少し怖い。

 きっと、感覚が違うんだろうな……だって俺が住む住宅街にこんな立派な家は一軒あればいいが……なかったはず。

 それこそ少し離れた高級住宅街ならばあるのかもしれないが、どちらにせよ住んでいる世界が違う。


 そりゃあ釣り合わないと言われても仕方ないよなぁと吐息を漏らす。

 静かなエンジン音が止まり、風を送ってくれていたエアコンも止まると徐々に暑くなってきている気がしてくる。


「お嬢様、着きました」

「ええ、分かっているわ。洵、後は任せるわね……じゃあ、また」


 弥生が一足先に車から降りてペンションへと入っていった。その後ろを須田が走って追いかけている。

 さて、ここからは俺の出番。


 「よし、じゃあみんな荷物持って降りて俺についてきてくれ」

 「分かりましたー!」

 「……リア充め、くたばるがいいわ」


 元気な青葉の声に続いて呪詛を吐くのは、言わずもがな海斗。


 「……海斗、嫌なら歩いて帰ってもいいけど?」

 「チッ、仕方ないな……」


 しぶしぶと言った感じの海斗がわざとらしく舌打ちをしながら降りる。その間にみんなは車から降りていたようで、メンバーは揃っていた。そういえば、メイドの菊池さんがいないけど……先に来ているのだろうか。

 とにかく俺は運転席に座る高橋さんにお礼を述べてペンションの方を向くと、何故か立ち止まってみんなの輪から一人外れてしまっている優姫さんがいた。

 優姫さんのそばまで小走りに駆けていき、ぼーっとしている優姫さんに声をかけた。


 「優姫さん?」

 「……すごいね、弥生ちゃん」


 優姫さんは目の前の建物に感嘆の声をあげているようだ。


 「はは、毎度驚いてばかりだよ。さ、行こう」

 「そっか。よし、行こー!」


 そう言って優姫さんはがしっと俺の腕を掴んで駆け出す。

 俺はさながらリードにつながれた犬が散歩をしているような気分で、みんなの輪の中へと入るのだった。

 直前で足がもつれて転んで笑われたけど……めげるな、俺。


お読みくださり、ありがとうございました。


思うより軽井沢での出来事は案外あっさりと締めくくってしまうかもしれません。もちろん、様々な描写やエピソードは入れるつもりです。

まあ、あくまでも可能性なんですが。


そういえばあまりこの頃あまり茶番を入れていません……。

土日に書く分は茶番入れてみましょうかね。


では、次回も読んでいただけたら幸いでございます。

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