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Episode45 感覚

はい、場面変換時にはキャラのフルネームなどを入れており、多少分かりやすく……なってたらいいな。

……がんばります、もっと。

 家の中へと戻った俺を待ち構えていたのは、もちろん、キッチンで晩御飯を作っている優姫さん。


「優姫さん!? なんて格好しているんですか!?」

「あ、弥生ちゃんはもう帰ったの? ……せっかくなら食べて欲しかったな……」

「それより服着て!」


 そう、優姫さんはあろうことか……服を着て、とあれだけ言ったのに……。


「あら、一枚あるじゃない、これが」


 と言ってヒラヒラとさせるのは……薄ピンク色のエプロン。

 なんとなくこれで分かったと思う。

 あろうことか、『裸エプロン』なんていう格好をしているのだ。


「いろいろと良くない! 断じて良くない! 今すぐ服着てこい!」

「えー……代わりに作ってくれる?」

「作るから……早く着替えてきて……」

「じゃ、これ……」


 と言っておたまを優姫さんから手渡される。

 優姫さんは恥じらう様子すらなく二階へ向かったようだ。あの人なんなの。

 裸エプロンなんて……うう、エプロンという布越しに見える胸が……待て、落ち着くんだ……あのはちきれんばかりの……いやだから落ち着け俺!?

 軽く自分を殴って、少しでも落ち着かせようとしてみる。


「ん? 味噌汁……色がおかしい……」


 冷静になってキッチンを見てみればどう見ても色がおかしい味噌汁の鍋と蓋をしてあるフライパン。

 フライパンからはお肉が焼けているような香ばしさが漂っているからいいとして……味噌汁ちょっと待て。

 色が薄いなんてものじゃないよ、これ。お湯だよ。


「味噌入れてないよな……味噌、味噌……と」


 味噌汁の火を弱くして冷蔵庫を確認。


「な、なん……だと……」


 言ってみたかった……じゃなくて。

 まさかだが……味噌が尽きていた。そういえばメモがリビングに貼られていて、味噌買ってくる、とあった気がする。

 なんということだろう。味噌がない味噌汁なんて単なる汁にしかならない。

 味噌汁になる予定だったと思われるお湯が入った鍋の火を止めて、具になるはずだった食材を探す。

 いくつか置いてあるが……きっと、豆腐とわかめだろう。

 豆腐は冷奴にするとして、水で戻したわかめは……どうしようか。ご飯は既に炊けているようだから今更わかめご飯にするのも……。

 ならば、最後の手段だ。

 おもむろにわかめを掴んで口へと運ぶ。もしゃもしゃとわかめを片付けていく。

 まさか、水で戻したわかめをそのまま食べる日が来るなんて思わなかったよ……。ちょっと塩っ辛さが残ってて、あとなんか気持ち悪い。ベタっとしてるんだけど。


「むぐっ!? げほっ、ごほっ」

「だ、大丈夫、洵ちゃんっ!」


 いつの間にか現れた優姫さんがむせる俺の背中をさすってくれる。

 良く分からないけどわかめが喉に引っかかったようだ。もう散々だよ……。ってかわかめって引っかかるのか。


「ちょ、ちょっと行ってくる」

「あ……うん。じゃあその間にこっちは仕上げて……って、あれ? お味噌汁は……?」


 どうにか一言告げ、洗面台へと向かう。

 優姫さんは作ろうとしていた味噌汁が無いことに戸惑っているようだったが、味噌がないことに気づかなかった方が悪い。というかこんな暑いのになんでわざわざ味噌汁を……?

 首を傾げている優姫さんを横目で見つつも台所を後にして、風呂場へ入る。

 洗面所は風呂場に併設されていて、脱衣所とは隔てられているものの目と鼻の先といえる場所にある。

 その洗面台で、俺は一度水を飲んだ。

 流れてくれるならそれで構わない、例えわかめが体内で増えようとも膨れようとも!


「んはぁ……よし、戻るか……」


 引っかかっていたわかめは流れたのか、もうなくなっていてとても楽な気分になる。

 さっきまでの苦しさも何のその……まあ違和感みたいな感覚は残っているけどね。

 俺はもう一杯水を飲んで、洗面所を後にした。



 キッチンへ戻ると……優姫さんが怒ったような、いや、怒った顔で俺を待ち受けていた。

 まあ少し想像はついていたけどね。


「洵ちゃん、お味噌汁は!?」


 真剣な表情で怒りをあらわにするが、こちらからするとため息が出て仕方が無い。


「優姫さん」

「な、何?」

「味噌、切れてたんですけど……知ってました?」

「………………」


 しばしの間、沈黙がキッチンを覆い尽くす。

 優姫さんはまるで石像のようにびくとも動かない。


「……ばかなっ!?」


 優姫さんはダダダダ、と冷蔵庫まで駆け、少し乱暴に戸を開ける。


「な、ないっ!?」

「味噌が無いのにどうやって味噌汁を作るんですか……」


 焦る優姫さんを諭すようにそっと告げた。

 優姫さんはこちらを振り向き……満面の笑みをたたえて「てへっ」とでも言いそうなポーズを取ってみせる。


「……豆腐は冷奴にして、わかめはもう処理したので、食べましょう、優姫さん」

「……そうね」


 落ち着きを取り戻した優姫さんと分担してダイニングテーブルへと皿を並べていく。

 並べているときはさっきと同じように笑顔だった。

 感情豊かだなぁ、この人……。

 椅子に座り、俺の向かい側に優姫さんが座る。


「じゃあ……いただきまーす♪」

「うん、いただきます。……そういえば優姫さんは大学生、なんでしたっけ?」

「そうだよ? 今は二年生って所」


 よし、うまく話せている、この調子だ、頑張れ俺。

 聞き出すんだ、自然に。

 それから、俺は優姫さんと話しながら優姫さんの晩ご飯に舌鼓を打つのだった。

 うまく話そうと意識をしていたからか、肝心の料理の味を全然覚えていない事に俺は激しく後悔をしたのだが、それはまた別の話。



  ◆


 神崎邸。都内某所に位置しており、まるで映画のセットにすら感じられるほどの屋敷。その中の一室で神崎弥生は、この頃増えてきている考え事にまた耽っていた。

 今回はいつもと少し違って、なんだかむしゃくしゃするような気分がする。


 お昼過ぎ、洵の家での事だ。

「待ってて」とは言われたものの、あまりに遅いので洵の様子を見ようと部屋から出て階段を下りた。すると、なんだか話し声が聞こえて……なんとなく、そこに洵がいるようか気がして忍び足で近付いた。忍び足だったのは気づかれたくなかったからなのかもしれない。

 部屋の前まで来て、開けっ放しになっていたドアから顔だけ出してそおっと覗いてみると、予想外の事態だった。

 バスタオル一枚というとんでもない姿の綺麗な女の人と、説教でもされているかのように縮こまっている洵がいた。木更津優姫、だと思われる人は奥の方に、手前にはこちらに背を向けた洵がいて……なんだか、安心した。


「……どこまで行ったの? ハグ? キス?」

「あ、あははは……」


 弥生が推測するに、恋愛の進展の問題だろう。

 仮ではあるが恋人であるが故に、こうなってしまったのだろうか。

 ――ハグならされたわね……。あの時……ね。

 弥生が、洵に理由を打ち明けて、謝罪した時。

 あまり流さないはずの涙が、流れてしまって……気付いたら洵が抱きしめてくれていた。

 男の人に抱きしめられるなんて、想像もつかなければ嫌だとすら思っていたが……なんだか、安心した。

 不安な気持ちを、包み込んでくれるような――そんな感覚が、今もありありと思い出せる。弥生にとって、不思議で仕方がない。


「お姉ちゃんのどこがいけないの!? お姉ちゃんが嫌いなの!?」


 という優姫の叫びにも似た声でハッとする。

 ぼーっとしていたことに気が付き、慌てて二人の観察を再開しようとしていたら――


「……なーんて。冗談はさておき……待ちくたびれたみたいよ?」


 そういってこちらを向いて優姫が微笑む。弥生は条件反射のように咄嗟に影へと隠れる。

 きっと洵も、見たのだろうか。そう思うと余計に恥ずかしかった。でも、こうなってしまってはもう出るしかないと意を決して隠れていた影から離れる。

 洵がとても申し訳なさそうに頭を下げて謝っていたが、むしろこちらの方が謝りたい所だった。

 それでも……やっぱり。


 「洵。やらないなら帰るわよ?」

 「……やるんでお願い致しますっ!」

 「ほら、早くしなさい」


 あくまで、いつも通りに振舞って……何事もなかったかのようなフリをして、部屋へと戻った。


 弥生には、この……いつも通りに振舞ってしまうのが何故か、わからなかった。それに、なんだかムカムカしてくる。

 しかしこの問に答えられる人は……いても、話す事が出来ないのでいないのと同じだ。

 洵といるとこれまでに感じたことがないことを感じたりする。それが、なんだかよく分からなくてイライラするようだけど……だけど、同時に弥生に楽しみを覚えさせていた。

 味わったことがない感覚が、まだたくさんあるのだろうか。

 洵といれば、もっとその感覚を感じられるのだろうか。

 この問にも答える人はいないが、答える人はいなくても、なんとなく答えは分かる気がした。


 ――明日も、会えないかしら。


 そんな事を思ったのは、今日が初めてだった。

お読みくださり、ありがとうございました。


今回はギャグ&シリアスな回です。

実を言うと弥生ちゃんの心情はもっと早くに入れたかったのですが、なんだかごちゃごちゃになっていたのもあり、区切りがいいところまで書いてから入れさせていただきました。


優姫さんのキャラがなんだかとても、楽しいです。


次回も読んでいただけたら、幸いでございます。


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