Episode43 計画
今回は少し珍しく、視点の切り替えはありません。
なので気にせず……なんて。
一つ訂正します。会話に花を咲かせて……いる訳でもありませんでした。
海斗を見て笑ってるくらいでした。お詫びします。
俺が会話出来てたと思っていただけで。冷静に考えればほぼ会話していなかったわけで。
「はぁ……」
俺はベッドの上に仰向けになり考え事に耽っていた。
わざとらしくため息をついてみる。
しかし自分以外に誰もいない部屋にはため息も溶けて、代わりに静けさが漂うだけだった。
あれから少しして、海斗は諦めて帰って行った。
さてどうしようかとは思ったが、そのあとすぐに優姫さんは母さんに呼ばれ、今は下で母さんと話しているようだ。
時々、なんだか楽しそうに談笑している声が聞こえてくる。
「はぁ……」
もう一度ため息をつく。自己嫌悪に浸りそうだ。
未だに優姫さんが大学生なのか、社会人で働いているのかも分からないまま。なんとなく大学生っぽいけど。
後悔先に立たず。どうすれば良いのやら。
……ダメだ。こんなこと考えてても仕方がないよな。まずは行動してみること。何かの本に書いてあった気がする。だからといって何をどうすればいいんだろうか。もちろん、この問いに答える人はいない。
「まずは一つずつ話を聞く事だな……」
とりあえず思った事を口にしてみる。今思うと俺ばかりが喋っていた気がした。優姫さんはそれに対しての相槌がほとんどだったはずで。
そういえばあの写真は一体誰からもらったんだろうか。そりゃ親とかか。
考えても答えは返ってこない。でも面と向かうと思うように話せない。改めて対異性のコミュニケーションの下手さを痛感して嫌になるだけだ。
そうだ、異性に慣れる事から始めよう。そのためには距離を近くすればいいんだ。弥生とよくいた癖にまだ慣れていないというか……弥生だけ慣れてきてるんだな。
夏休みは始まったばかりなんだ、小波洵。
人は変わるんじゃない、自力で変えていくんだ。
そう、無理やり頭に言い聞かせながら俺は少しばかり、眠りについた。
それから……少しして。
何故こうなったのだろう。
「ここはそうじゃなくて……こう」
「は、はい……」
「ちょっと休憩しよっか」
「はい」
ほんと何故こうなったのだろう。
今、俺は優姫さんという家庭教師付きで夏休みの課題に励んでいる。
こうなったきっかけは優姫さんいわく、俺の成績を案じた母さんに頼まれた……らしい。
いつの間に通知表届いてたのかな、一切そんな素振りしないから分からなかった。
あとは優姫さん自体が教師を目指しているとのことで、教える練習になるから……と快諾したとのこと。
まあこんな美女に教えてもらえるなら全然構わないんだけどね。海斗がなんと言うかは知らないが……多分このことがヤツに伝わるようなことはないだろうし。
クラスで唯一このままだと危ないかもしれないと一年の夏ながらも言われてしまった俺は、夏休みの課題を出来るだけ早く終わらせなくてはいけなかった。
学校に来てチェックを数日毎に受けなくてはいけない。……俺だけ。あんまりだよ。
期末試験で課題もろくにやらなかったせいでこんなことになったのだ。反省反省。
実力はあるはずだから課題をまずやりなさい、とか言われた。だが一つ言わせていただくと、元はと言えば海斗のせいだ。いわば被害者なんだ。当の海斗は学年三位とかいうぶっとんだ結果なのがわからないけど。
ちなみに一位は弥生で二位は青葉。俺の身の回りには秀才及び天才しかいないのか?
須田が俺と近い部類で助かった。まあいざとなれば弥生が行く大学が例え東大でも、猛勉強して合格しかねないほどの行動力はあると思う。そう考えると俺があまりに平凡すぎて辛い。
あと優姫さんに教えてもらえるのは嬉しいんだけど……その、ね?
胸とか……とにかく、スタイルが良いので目下つまらない課題より、眼前の美女。
キレイすぎるのも問題かな……なんて思った。弥生も負けず劣らずなのだが、この無慈悲さすら感じてくる強力な掃除機のような視線吸引力を考えると、まだ弥生に教えてもらう方が何倍も捗るのだ。
でも親切を無下にするわけにもいかず、せっかく少しでも話すチャンスがあるかもしれない所を逃すわけにもいかず。
結果ろくに話せず、課題も進まず……と、ただ釘付けにされているだけなんだけど……
「さて、続きやろっか」
「は、はい」
やはり目が行く……くそう。
……結局、夏休みの課題は一向に進まずじまいなのだった。
それから数日。
担任によるチェックを受けてもっと真面目にやりなさいと説教を喰らってきた俺だが、それよりも今は用があった。
学校から少し歩いて繁華街の近くに駅がある。その駅前にはおしゃれそうな喫茶店。普段ならそういうものに疎い俺にはほぼ無縁な場所なのだが、今日は違った。
俺、小波洵は待ち合わせをしているのだ。
説教が長引いたが、時間は走ってどうにかギリギリくらいのはず。普段よく通う店が建ち並ぶ通りを抜けてもうちょっと行くと、駅前の通りに着く。
そして、こじんまりとしたおしゃれな店にたどり着いた。ここが待ち合わせの喫茶店。
中に入ると、薄めの茶色の小綺麗な壁が見える。入り口にはタオルケットが入れてあるかごがあり「ご自由にお使いください」と書かれている。いかにもオシャレな雰囲気で、俺は浮いてる気分がしてならない。
「いらっしゃいませ、お一人様でしょうか?」
接客担当らしい店員がちょっと慌てながらやってきてそう言った。
「あ……いえ、待ち合わせしてるんです」
「待ち合わせですね、あちらのお客様ですか?」
店員さんの右手の先には、すっかり見慣れた金色に輝く髪をなびかせる美少女……弥生がいた。
「はい」
「では、ごゆっくりどうぞ」
と、弥生が座る席の方へ通される。
相変わらず弥生は目立っている様子で、正直近づきづらい。席に一人そっと佇む弥生はまるで絵画のような美しさをも感じさせる
。
「……ごめん、待ったかな。お待たせ」
時計を見ればほんのすこしだけ、待ち合わせの時間を過ぎていた。
「遅い、遅刻よ」
「はい……すみません」
説教が長引いたのも、その時間の見積もりを間違えたのも俺であって……つまり謝るしかない。
あれ、彼氏? まさかぁ、そんなわけないでしょー。
なんていう周りからのひそひそ話がもろに聞こえているんですけど。
悪かったな、釣り合ってなくて。……前にもあったな、これ。
俺はとりあえず呼び出しのボタンを押し、店員さんを呼んでアイスココアを頼んだ。
「ところで、話があるんでしょ?」
「ああ、今度さ……」
俺は計画と事情を話した。事情というのは優姫さんのこと。
弥生はじっと話を聞いてくれていた。
「分かったわ、準備は任せて。……ところで、いつやるのかしら?」
「そうだな……まず課題を終わらせないといけないから……」
「あたしがまた教えた方が良いかしら?」
「あー……」
優姫さんがな……乗り気なんだよな。ものすごく。
「嫌?」
「い、嫌じゃないけどっ」
ぐはっ。
ちょっと上目遣いに嫌? と聞かれたら、確実に嫌じゃないと言ってしまうくらいの可愛さだった。
「けど、何?」
俺は優姫さんとの昨日のことを話した。
「……というわけで」
「なら、あたしはいらないの?」
なんか心に刺さる言い方をする。狙ってるだろ。
「いや、弥生の方が……まだ気楽というか」
教えてもらうと言っても、優姫さんだと一切進む気がしない。正直言うと弥生に教えてもらう方がいい。
しかし問題が優姫さんがすごいノリノリで……恩を仇で返してしまうようで気が引ける。
まだ一人でやる方がマシなくらいなのだが、厚意を断れないままチェックを受けて今日の結果に陥ったのだ。
そうか、家でやらなければいいんだ。
なんか逃げるみたいだけどこれも課題を終わらせるため、計画の実行のため、だ。
「弥生の家とか……ダメかな?」
「……べ、別にいいけど…」
弥生は俯いてしまった。
ん? なんか俺やっちゃった?
って。今気付いた……高成さんいるんじゃないだろうか……
「もしかして……高成さんいるとか?」
「……ええ」
二人の座る席に、不穏な空気が流れる。
高成さんは、弥生の父親で……グループを取り締まる会長。少し前に一騒動があったところで、どうやら気に入られてしまったらしい。
それだけならいいのだが、なんだか変に勧めてくるというか……弥生とくっつけようとしてる感じがすごいというか……一言で言うと苦手。
「お待たせいたしました、アイスココアです♪」
その空気を破ったのは店員さんだった。
夏の陽気で火照った体にとって冷たいアイスココアはひんやりとして気持ち良かった。
「うん…………俺の家いこっか」
もう覚悟しよう。一人じゃ進まないし弥生に教えてもらえば進むはずだから……。
そう俺は考えることにした。優姫さんごめんなさい。
「ええ、わかったわ。……でも、構わないの?」
構わなくないです。全然。
「どうにかするよ……」
俺は勢い良くアイスココアを飲みほして会計を済ませ、心配そうな弥生と家へ帰ったのだった。
お読みくださり、ありがとうございました。
なんだか意味深なサブタイトルになっちゃいましたね。
まあ今後に関係する? ということで。
こういうのは伏せるべきな気もしますけどね(汗)
まあまあ、そういうわけで!(どんなわけでしょう)
次回も読んでいただけたら、幸いでございます。
作者はどうにかめげずに頑張っておりますので、また読んでくだされれば、それだけで嬉しいです。
とは言ってもやはり感想は欲しいのですが……自粛します。