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Episode41 新たな出会い

新キャラ名前発表!

まあほぼ閑話ですかね。

「暑いなぁ……」

「頑張りましょう、洵さん」


 昼前くらいだろうか。

 炎天下の夏。太陽はこれでもか、と自己主張をしている。

 俺と母さん、そして青葉の三人で朝からうちの庭の草むしりをしている。

 青葉が手伝ってくれているのは「泊まらせていただいたお礼と暇なので」とのこと。

 三人でやっているんだからすぐ終わるだろ、とか甘い考えをした俺が迂闊うかつだった。

 そこまで庭の手入れをしていなかったせいなのか、いかんせん雑草共がたくましくしぶとい。不用意に引っこ抜こうとすればちぎれてしまう。そのため、俺たちは元気に育ってしまった雑草達に悪戦苦闘しているのだ。日頃からやってればよかったんだろうな……ちょっと後悔。

 しかし、朝からやっていただけあって、ほぼ片付いてきていた。残るのはあと一つ、大物だ。


「暑いわね~」


 タオルで汗を拭う母さん。


「母さんと青葉は休んでていいよ、後はやっておくから」

「いえ、お手伝いします」

「気持ちは嬉しいけど……言葉と顔が正反対じゃないか。無理しなくていいから、休んで」


 青葉はすっかり汗だくになっていた。

 さっきから気になってはいたが、言ってもなかなか聞かないのだから少し困る。


「青葉ちゃん、ハーゲンダッツ丁度二つあるから食べましょ♪」

「で、ですが……」

「いいからいいから~」


 青葉は母さんに連行されているようだ……いや、ちょっと待てよ?

 ハーゲンダッツ、だと?


「ちょっと待ったあああ!」


  俺の声など聞こえてなどいないかの様に母さんと連れ去られている青葉は家の中に入っていく。

 その二つのハーゲンダッツは俺がついこの前、楽しみに買った秘蔵の品だ。俺が買ったハーゲンダッツの季節限定の新フレーバーは巷で大人気らしく、売り切れが多い。そのため見つけるのにそれなりに苦労したものだ。見つけた時は喜びのあまり二つ買ってしまった訳だが……なぜ奥に入れて隠してあったのに気づかれているんだろう。

 俺はカツオでも釣り上げるようにして、鮮やかに最後の雑草を引き抜いてやった。これもさっきまでの積み重ねのおかげだろう。しかし、それ以上にある事。

 そう、ハーゲンダッツを食べるため、魔の手から守るためだ。器が小さい? 知ってたまるか。苦労して見つけたんだから、食べられないなんて流石に理不尽だろうに。

 待ってろ、ハーゲンダッツ。無事でいてくれ。

 俺は溢れ出ている汗など気にせず、ただひたすら屋内へ急いだ。



  ◆


 俺、海斗様である。今俺は一生に二度あればいいな、的なチャンスを迎えているのだ。


「ねえねえ、そこのキミ」

「え、俺ですか?」


 あえて驚いたようなフリをする。待ちに待っていたなんて言って引かれるのは困るからだ。実はさっきからずっとすぐ近くで何もない素振りをしていたんだ。

 話しかけてきたのは先日にあのリア充、洵に話しかけてきていたあの女性。

 この美しさは筆舌に尽くし難い。スタイルの良さ黒髪ロング、そしてドジッ子。これはもはや神の贈り物としか思えないくらいだろう。

 神様、ありがとう。今日という今日はあなたを信じられそうだ。

 そうさ、俺だってあのリア充みたいになるのさ。

 待ってろ、薔薇色の人生よ。


「うん、この前一緒にいた子、どこにいるか知らないかな?」


 何故、何故だ!! 何故、奴が!! また呪ってやるううう!

 洵め、いずれ潰してくれるわ。

 まあ……洵が馴れ初め、というのも悪くないな。あいつはあの金髪美少女がいるんだから大丈夫だろう。

 とりあえずここはご親切に連れていこう。うむ、完璧だ。道を間違えることもないし、自然に嫁(自称)と近付けるではないか。それならば願ったり叶ったりだ。ただ一つ、許し難いのがにっくきリア充、洵の家に向かうという点だが……この際利用させていただく。


「じゃあ、道教えるんで着いてきてください」

「ありがとね! ……ところでキミの名前は?」

「皐海斗と言います。あなたは?」

「私は――」


 ふふふ、これで我が人生に華を咲かせるのだぁぁ!! 洵、俺だって負けないぜ。

 そうして俺はこの女性と共に洵の家を目指して歩いていくのだった。



  ◆


 ゲームオーバー。

 そう、間に合わなかった。ショックを隠せない俺は、ソファで汗だくのまま燃え尽きていた。


「すごい美味しかったわ、洵、よくやったわね♪」

「すみません……でも美味しかったです」

「いや、また買うからもういいよ……」


 申し訳なさそうな青葉を見ると心が痛む。しかし……その隣にいる遠慮の欠片も無い人がいて、ため息をつく。

 ふと、バイブ音がした。何らかの通知が来たようで見てみると、海斗からだった。『今からこの前の人とお前の家に行く』とのこと。

 まーたあいつは。トラブルメーカーという名を俺から是非授与したい。


『事情は読めないが分かった』と返しておいた。

 すると、すぐに返事が来る。

木更津優姫(きさらづ ゆき)って言うらしい』と来た。

 へぇー、としか返せないのだが……と、返事にためらっているとまた来た。

『ニュースだ』俺は「何が?」と返す。

 そしてまた返事が来る。『優姫さん、お前の従姉いとこらしいZE☆』


「ええええ!?」

「な、なんですか?」

「急にどうしたの?」


 二人がびく、っと反応した。

 俺は深呼吸をし、一度落ち着いてから説明をする。


「えーと、もうすぐ従姉が来るらしくて……」


 うんうん、と頷く母さん……っておい。


「……母さん、従姉がいたなら言ってくれよで」

「うふふふ♪」


 うわ、回避された。なんてスキルの高さだ。流石は年の功です、敵いません。


「あだだだだ!?」

「うふふ……」


 気づけば、頭を母さんにがっしりと掴まれていた。

 まさか、心を読んだのか……? というか痛いです。

 ピンポーン、ピンポーン……ピンポーン。

 三回もインターホンが鳴る。ここまで行くとイタズラに思えるが……おそらく二回は海斗で後一回は従姉らしい木更津さんだろう。何で押したのかは謎だけど。


「ほらほら、早く行かないと、待ってるわよ~」


 やっと魔……いえ、母さんの手から解放された俺はすぐに玄関へ向かう。

 ドアを開けると、フワッとした良い香りが漂うのと同時になんとも言えぬ殺気を感じた。

 もちろん、良い香りの方が木更津さんで殺気は海斗である。


「お邪魔しまーす」

「……」


 軽い挨拶とともに上がる木更津さんは構わない。無言で上がろうとしたこのバカはちょっと通すわけにはいかないよな。


「おい、待てよ」


 海斗の肩をおさえる。


「黙れ、リア充!」


 掴もうとした手を叩かれた挙げ句の暴言。もうやだ、こいつ。


「どうも、木更津優姫きさらづ ゆきと申します」

「あ……どうも」

「……とりあえず洵の部屋にでも行こうか」


 なぜお前が仕切るんだ。

 俺の思いなんて知らないだろうが、二人とも勝手に階段を上がっていく。

 いや、だからお前は礼儀をだな? つーか木更津さんはさりげなくついていくのかよ。

 ため息をつき、仕方なく俺は二人についていった。

 木更津さんは落ち着かない様子で辺りを見回したりしているが、海斗はまるで我が家のように寝転がっている。

 だから、海斗……いえ、やっぱもういいです。

 木更津さんはカーペットに座り、「ふう…」と吐息を漏らした。


「洵くん、どうやら私の従弟いとこみたいなの」

「……何でそうなったんですか?」


 従姉なんて会った事もないし、いるとも聞いていない。

 どうやら母さんは知っていたみたいだが。

 木更津さんは胸ポケットから写真を取り出し、その写真を俺に向けて……いや、広げた訳だが裏面でこちらからは真っ白である。驚きの白さ。


「これこれ、見て!」

「……見えません」


 危うく吹き出しそうになったが必死に我慢して、それでも苦笑はしつつ返事をした。

 木更津さんは気付いて恥ずかしそうにひっくり返す。

 ついでに海斗は勝手にゲームを起動している。


「俺だ……昔の」


 その写真に写っていたのは、小学生の時の俺の写真だった。昨日は見るのも失礼だと思って見なかったんだよな。

 それにしても顔も今とかなり違うのに何故分かったんだろう。

 この人も母さんや青葉みたいに何らかのエスパーなのか?


「あの後にこれを見てあなただと分かったの」


 やっぱりエスパーなのですね、わかります。


「木更津さんは――」

「優姫って呼んでー」


 ばすっと遮られた。


「分かりました、優姫さんは――」

「敬語は不要、ほら普通に」


 またまたばすっと遮られて話しにくい。


「優姫さんは何故急に会いに?」

「んー……この前ね、この辺りに従弟がいるって聞いたからなのよ。夏休みだから会いに行くか~ってね」


 ようは暇潰しって事か。何かあるのかと思っていたから少し気が抜ける。


「見つかってよかったわ、これからよろしくね、洵くん♪」

「うわっ、ゆ、優姫さん!?」


 そして俺は優姫さんに抱き締められた。良い匂いと豊満な胸が俺を包みこむ。

 同時に俺の鼓動が早鐘を打つように激しく高鳴り、俺は落ち着かずにはいられそうにもない。どうすればいいのだろう。当たっている胸の感触といい弾力が余計に俺をドキドキさせる。

 もうこのまましばらくお願いします。


 バキッ!! という破壊音が部屋に響く。


「貴様ぁ……来い!!」


 鼻息を荒くした海斗にひっぺがされ、俺は部屋の外へと引っ張られていく。

 名残惜しい……じゃなかった、落ち着け俺。

 まだ胸の高鳴りは収まらず、半ばわけが分からないまま、海斗に連れていかれるのだった。

お読みくださりありがとうございました。


優姫さん登場です。

まああまり出番ないかもしれないのですけどね。


次回も読んでいただけたら幸いでございます。

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