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Episode39 二章プロローグ

二章始まりました!


今回はプロローグです。


 ちょっと時間は流れて、七月。俺たちの住む街もすっかり夏らしい暑さに包まれていた。

 ここは俺のクラス、一年二組の教室での放課後。


「ほら、ここは……」

「え? 何でこうなるんだ?」


 赤ペンを右手に持ち、俺の目の前に座るのはまるで人形みたいな誰もが二度見をしてしまうくらいの可愛さを誇る財閥のご令嬢である金髪の美少女、神崎弥生。

 こんな可愛い子が側にいることが俺も分からないところだが、これには深い事情がある。

 わけあって恋人のフリをしていてひと悶着あり……今も継続中みたいなところ。

 しかしこれは見かけだけであり、実際の関係は友達、なのだ。


「それは……教科書のここに書いてありますよ」


 と言って教科書を開いて見せてくれるのは、こちらもまた人形みたいに可愛らしく、眩しい銀髪のおかっぱでトレードマークとも言える背中に羽がある美少女、小鳥遊青葉。

 青葉はとてつもなく重い過去を乗り越えて、今は嘘みたいに明るくなっている。だいぶあか抜けたみたいだ。

 ちなみに羽は普通に飛べるという、まことに不思議なのだが……いまいちよくわからないので気にしないことにする。


「ほら、こんなことも分からないのか……これはこの公式をだな……」


 と詳しい解説をしてくれるのは、見た目は一級品で周りの女子が霞んでしまいかねない美貌を持つ須田。ただし忘れてはいけないことは、こいつは男だということだ。


「ふははは!! バカは大変だな……あれ!? バカのおかげなのか、美少女が二人もいる……許せん、死刑だぁー!!」


 あからさまにバカなこいつは海斗。うん、説明もいらないよね。


「解説の邪魔をするなー!!」

「ぎゃー!!」


 ドカ、バン、ガターン。

 ……騒がしい。

 ついでに、須田に殴られ机に体を強打した海斗。床に倒れているが気にすることはない。とにかく目立つメンバーがいるおかげか、放課後にしてまだまだ人が多いクラスには笑いがこぼれていた。

 弥生はあきれた様子でため息をついた。


「はぁ……バカはほっといて、次行くわよ」

「お、おう」


 俺は中間の試験の点数がそれなりに良かった。それでつい「高校の勉強なんてたかがしれているさ」とか思っていた。

 その結果がこの有り様だ。

 数学の問題を見る……が、さっぱりわからん。


「ちゃんと勉強してないからよ……もう」


 理由と言えばその他に、海斗に買ってもらった萌え格ゲーの各キャラのストーリーモードを堪能してたというのが事実だったりもする。弥生には言えるわけがないが。

 ちなみに授業中はぐっすり眠れました。


「青葉はすぐに分かったのにねぇ」

「はい、弥生さんの説明が分かりやすくて」


 いや、だからといっても、入ってすぐにこれまでの範囲を完全に理解して、さらには応用まで平然とこなす青葉も青葉だと思うんだけど。


「それは青葉がすごいだけだよ」


 パシッ。

 赤ペンが俺の頭にヒットする。


「つべこべ言わずにやりなさいよ」

「分かったよ…やりゃいいんだろ」

「じゃ、これ解きなさい」


 弥生が指したペン先を見る。

 ……暗号? 俺が見るによく分からない記号があって……うーん……なんだ、これ。


「ははははっ!! こんなことも分からぬとは話にならないな!」


 お前はいつのまに復帰したんだ。うるさいやつだ、ほんと。


「……須田」

「はい……皐、喰らえ!!」


 須田からさっきよりも重そうな一撃が海斗に放たれた。


「悲劇再び!?」


 ドカッ、バーン!

 今度は教室の後ろにあるロッカーに当たったようだ。

 ただでさえ目立つのにこの音で周りの視線は完全に釘付け、ましてや隣の教室の方からも人がやってく る始末だった。

 弥生は再びため息をついた。


「はぁ……ここじゃ落ち着けないわね」


 家に来る? というお誘いをされる。


「嫌?」


 俺は返事に困る。別に、嫌ではないんだ。高成さんが怖いんだ。

 高成さんは弥生の父親であり神崎グループの会長で一人でグループのほぼ全てを取り締まっているという凄腕。


「出来ればもう少し心が休まるところがいいかな」






 その結果、俺の部屋。

 さっきのメンバーがそのまま移動しただけだ。

 そこまで広くないんだけどなぁ。


「海斗、あのゲームやってていいから。静かにしてくれ、つーか帰れ」

「仕方ないな……テレビの画質、サイズといい……洵の方が良いのだよなぁ、後は部屋だけが……」


 などとぶつぶつ言いつつゲームを起動している海斗。つーか俺の部屋をお前の部屋と同じようにしないでくれ。そして帰れ。

 海斗の部屋はアニメなどのグッズがどこを見ても目に入ってしまうくらいの数がある。言わずもがな部屋にお邪魔した俺は引いた。入って間もなくアニメのキャラクターのなんだかあられもない姿が目に飛び込むようなあんな部屋にされたらたまったものじゃない。


「おい、須田とか言うやつ」


 須田は拳を握り、海斗に近付く。


「殴られたいのか?」

「ふっふっふ……ならばこのゲームで我と闘おうではないか」

「はぁ…仕方ない、受けてたとう」


 ……これまでの借りが返せるわ、とか言ってる海斗。

 なんて器の小さい人間なんだろう。

 まあ、これでしばらくは海斗は放っておいて大丈夫だろう。


「さて、邪魔者はいなくなったわね」


 ホッとしたのも束の間、なんだか弥生が怖い。

 子は親に似ると言うが……高成さんのそれと似ているような、また違うような。


「大丈夫ですよ、私もいます」


 いや、あまりフォローになってないと思うんだ。確かに、いてくれるだけでも心強いんだけどね。


「……頑張ります」


 ついでに、俺がやらされているのはノートにひたすら問題をやる、というものだ。

 クラスで唯一、試験が悲惨だった俺への先生なりの救済措置ということで「ノート一冊分、教科は問わないのでやってこい」というものだ。

 辛すぎる。何ページあると思ってやがる。


「あたしが教えてあげるから、頑張りなさいよ」

「はい……お願いします……」


 いくら目を見張るような美少女が教えてくれてもノート一冊は重すぎる気がする。


「二冊じゃないだけマシですよ、洵さん」


 いや、だから……あんまりフォローできてないって。

 ……もし二冊だったら投げ出してるだろうな。


「とりあえず――」

「ひゃっふぅぅ!! 勝ったぜ、ざまぁみろー!!」


 初心者相手に何喜んでるんだよ、海斗。


「……もう一度、もう一度だ!!」


 何で須田までエキサイトしてるんだよ!?


「あーもう……」


 本日三度目のため息をつく弥生。


「私に任せてください!」


 ビシッ、と敬礼する青葉。なかなか可愛い。

 何だか信頼出来そうな気がする。青葉にあいつらは任せようか。


「さて、やるか……」


 俺は弥生に怒られながらも何とか数ページ終わらせた頃、ようやく異変に気づいた。


「弥生、寒くないか?」


 俺の右に座る弥生の手には鳥肌が立っている。


「……寒くないわ」

「す……須田、俺はもう駄目だ、眠くなってきた……お前だけは生きてくれ」


 一人瀕死なんだけど!?


「皐……お前はまだ死んではいけない、私がお前に勝つまでは!」


 なんだこれ。謎の友情(?)が芽生えてるのかな。

 必死に揺さぶってるのが余計海斗を辛そうにしている気がするが……黙っておこう、あえて。


「青葉……大体予想はつくけど、何をしたのか教えてくれるか?」


 俺はこんな惨事を目の当たりにしても自信満々に振る舞っている青葉にたずねる。


「エアコンの温度設定を最低まで下げて、風量も最大にしました」


 堂々と胸を張ってえへん、と言う青葉。


「効きすぎて寒いわー!」

「でも、確かに静かになりましたよ」


 しかし、俺が見えるだけでも……まるで雪山に遭難したような海斗。そして俺の右隣にいる「寒くない……寒くないわ……」と延々と繰り返しながら震えている弥生。


「弥生?」

「寒くないわ……全然、寒くないもの……」


 もはや弥生の耳には何も聞こえないようである。


「いや、これじゃ意味ないんだけど」


 青葉はハッとする。


「……そうですね」

「とりあえず元に戻してくれ、俺も寒い……」

「はーい……」


 とぼとぼと歩いてエアコンのリモコンを取りに行く青葉を見ると、ひょっとして俺が間違えてるんじゃないかと錯覚しかねない。美少女ってすごい。

 という感じで俺の一学期は終わりに近付いていくのだった。


「須田、もう駄目だ……お前は良い戦友ともだったよ……」

「さ、さ、寒くなんてないんだから……」


 そしてこの二人は極端に寒さに弱い事が分かった。

 弥生、いい加減認めないと危ないぞ。

 冷房は止まったが、一度冷えきった部屋が暖かくなるまでの間、俺はこの凍えつつある二人を連れて部屋から出ていたのだった。

お読みくださり、ありがとうございました。


正直言うと、今回はだいぶ前に書いてあった部分をほぼそのまま使っております。一部手を加えただけなんですよね、あはは……


次回も読んでいただけたら幸いです。

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