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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode37 弥生の告白

後二話くらいで終わりますかね、一章。

それとも次エピローグかも。プロット上、エピローグが長くなりそうです……。

 大きな屋敷の一室で、神崎弥生はベッドに横たわっていた。

 ふかふかのベッドが小さな体を包み込んでくれる。

 洵は……弥生が思っている以上の人だった。弥生一人では解決できなかった事を、さらっと解決してしまった。

 そんな洵が素直にすごいと感じる。洵みたいに、なれるだろうか。

 まだ出会って一ヶ月も経っていないが、弥生は驚いてばかりだった。洵に、驚かされてきた。色々なものに触れて、なくしていた感情を取り戻せた。全て、洵のおかげだ。

 そして今は、ああやって殴り倒してしまったとはいえ……前とは違うが、また洵と居られる。そんな気がしていた。高成が書斎を出る前に言った、「弥生をよろしく頼む」の言葉……。


 自分と洵は……“恋人”なのだろうか。いや、違う……だからと言って“友達”でもない。なんだか不思議な間柄。

 きっと、学校では付き合っているように言われるし見られるだろう。

 そういえば洵と居るようになってこころなしか告白される回数が減った気がする。高成にはあまり効果はなかったようだが、周りの学生達には効果はあったようだ。

 ……何故、ハンマーで洵を殴ったのだろう。なんだか恥ずかしくて……助けてもらったというのに、あだで返してしまった自分に嫌気がさす。

 これも、感情が戻ってきたうちの一つだろうか。洵に甘えるように、胸で泣いていた事を思い出す。あれも、その一端。


 コンコン、と扉をノックする音がする。


「お嬢様、お食事が出来ましたよ」

「ありがと。今行くわ」


 ベッドから起き上がり、少し着崩れた服を整える。それから、ふぅーと息を吐いて部屋を出る。

 須田が微笑んで待っていてくれていた。


「さて、行きましょうか」

「ええ」


 うまく収まってくれた事に安心しながら、相変わらず長い廊下を須田と話しながら歩いていった。

 この後の食事で高成から洵についてを話されて、その調子の良さについ弥生は溜め息を漏らしてしまうのだが、それはまた別の話。





  ◆


 俺が目を覚ますと、驚くほど柔らかく、フワフワした感触が堪らないベッドに寝かされていた。

 きっと、屋敷のどこかの部屋だろうか。


「あ、起きましたか」

「は、はい。……ええっと、あなたは?」


 セミロングの茶髪に見事なほどにメイド服を着こなしているメイドさん。

 なんだか見覚えがあるような……。


「私は菊池です。小波様、お体の調子は?」

「え、えっと……特に問題は……」


 正直の所、さっきよりも緊張している。

 そうか、弥生に初めて会った時のメイドさんだ。通りで見覚えがあったわけだ。


 「よかったです……小波様、お嬢様がお話があると」

 「……弥生が?」

 「はい」

 「わ、分かりました……」


 怒られるのだろうか……「殴り足りないわ」なんてハンマーを持って出てきたり……しないか。というか次は逃げるからな。

 なんて不安に駆られていたりすると、菊池さんはどこかへ消えている。

 そういえば以前も気付けば姿を消していた。近頃のメイドというのは何か特殊なものがいるのだろうか。

 それはよくは分からない……というより、まずメイドというもの自体が半分空想のものだと思っていた分、カルチャーショック気味になってしまっている。


 ふと、扉がそっと開いていく。

 そして、ぴょこんと現れる弥生。


 「洵!」

 「な、なんだ?」


 はっきりと大きな声で名前を呼ばれて、つい居直る。


 「あたしね……洵に、伝えたい事があるの」

 「……伝えたい事……か、わかった」


 そう言う弥生は……あまりにこちらを真っ直ぐに見つめている。そのうち恥ずかしくなってきて、こちらから目を背けてしまう。

 弥生さん可愛いんですからそれは卑怯です。


 「ごめんなさい……あたし、最初はあなたを、利用しようとして近付いたの」


 弥生は俯いてしまうが、それでも……言葉を紡ぐ事をやめようとしない。


 「友達に……って言ったのは、あたしが……あたしが、利用しようとしていた事をあたし自身が許せなかったのよ。あとは、散々迷惑をかけててもう迷惑はかけたくない……そう思ったから。結果的にこうして巻き込んでしまって本当に、ごめんなさい……」


 俯いてしまっていて顔こそ見えないが、震えながら時より涙を零しているのが分かった。弥生の声もすっかり涙混じりになっていて、少し聞き取りづらい。

 袖で涙を拭って、弥生は顔を上げた。

 涙で濡れた顔は、とても綺麗だった。


 「……ううん、謝るだけじゃない。あたしは、洵にたくさん感謝してるの。洵の側にいて、少しだけかもしれないけど……変われたと思っているの……洵、ありがとう……」

 「弥生……」


 遂に、我慢できなくなって弥生をそっと抱き寄せる。

 泣いている女の子を見るのは好きじゃない……それは昔からそうだった。

 弥生は拒絶するわけでもなく、ただすっぽりと腕の中に収まっている。

 髪から溢れてくる香りと、弥生の、女の子特有の匂いが鼻をくすぐる。


 「まあ、利用……なんて言われても、俺も下心があったから何も言えないんだけどな。でも、アレだよ。……弥生は前より、出会った時より、綺麗になってると思うんだよな」


 言っておいてなんだけど、顔は火が出そうなほど熱い。

 思い切って抱き寄せた時点で既に真っ赤だったと思うけど、もっと赤くなってると思う。まさに茹でだこのような。


 「ねえ、洵……パパが言ってたけど、どうするの?」

 「え?」


 突然、質問を投げかけられて戸惑ってしまう。

 すっと弥生は俺から数歩下がる。


 「パパがとても気に入っちゃったらしいのよ、洵を。それで……洵となら付き合うのを認めるなんて言い出す始末なんだけど」

 「え!? ええ!?」

 「ま、当分は前と似た感じにしないといけないわね。それが周りからも、あたし達にも違和感が無いのかもしれないわ」

 「……確かに、そうかもな」


 笑いがこみ上げて、俺はつい、ふっと笑う。弥生がいない事に少しだけ違和感を覚えてしまっていたのはあった。短かったはずなのに、驚くほど密度が濃い時間を過ごしていたんだとようやく理解した。


 「じゃあ、ええっと……改めてよろしく、弥生」

 「ええ、こちらこそ。洵」


 俺たちは握手を交わした。弥生の小さな手はまだ少し震えていて、思い切り握り締めた。

 少しして、どちらかから離れるというわけでもなくすっと手を離す。


 「もう……なんでこうなっちゃったのかしらね。仕方ないんだから……」


 そう言って笑う弥生は、俺がこれまで見た中でも一番で……ぎこちなく笑うわけでも、作るわけでもない――自然な、ありのままの笑顔だった。

 その笑顔に少し、ドキッとしてしまう。元々可愛い弥生が、こんな素敵な表情をすれば言うまでもなく最高なわけであって。

 俺は、この笑顔を……できるなら傷つけたくない、そう心に誓うのだった。



  ◆


 神崎家の屋敷の一際広い部屋。

 高成が普段いる部屋で、ここで仕事を基本的にこなす事が多い。実際に誰かと会う場合は応接間になるが、基本的にはここなのだ。


 「あれで良かったんですか?」


 菊池が、顔色を窺うようにそう言った。


 「……ああ。前から、話していてなんとなくは分かっていた。弥生は……洵君が好きなんだろう?」

 「……あら、旦那様もやっとお気持ちを察するようになったのですね」


 おどけたようにコロコロと笑う菊池。

 高成からしても、いまいち掴めないのが菊池の特徴だった。


 「バカにするな」

 「申し訳ありませんでした」

 「それでいい。洵君を家に返す手立ては出来ているか?」

 「聞かれずとも……とっくに出来ています」

 「そうか。今日もご苦労だった。今日はもう休んでいいぞ、菊池」


 ありがとうございます、お疲れ様でしたと菊池は一礼する。

 そしてすっと流れるように部屋を後にしていった。



 昔から、菊池は不思議だったのを覚えている。

 知り合いの孤児院が潰れると聞いた時に、引き取り先が見つかっていない子がいたら引き取ろうと思っていた。

 行ってみると、思ったより引き取り先が少なく、数人の孤児は路頭に迷っている状態だった。

 その時はまだ、待つ事にしていた。ギリギリまで待ってみよう、そう思っていた。

 そして閉鎖の日となり、孤児院へ行くと一際異彩を放つ子供が一人、残っていた。

 その子供こそ、菊池。変わっている子だったせいか、みんな避けていったのだという。

 その彼女は今や、人並み外れた人に育っているなんて……その時避けていた人たちは思いも寄らないだろう。

 彼女は、一言で言えば天才の部類だったのだ。

 引き取った彼女は弥生の姉のような存在となり、支えてくれていた。

 今になって、これも運命だったのかと思うと笑みがこぼれる。


 「旦那様、少し薄気味悪いですよー? ニヤニヤしていますし」

 「いつの間に入ってきた」


 菊池が神出鬼没なのが、一番わからない部分だった。


 「ニヤニヤするのは勝手ですが、お嬢様の前ではなさらぬように……それでは♪」

 「早く休め」


 先程と同じ様にして菊池は部屋を出ていく。

 高成はつい、普段はこぼさないため息が漏れてしまうのだった。


お読みくださりありがとうございました。


きっと次くらいで一章完結となります。


次回もまた、読んでいただけたら嬉しく思います。


●茶番コーナー

さあさあお待ちかね、茶番となります。といっても今回は茶番っぽくはないかもです。

今回は……各キャラの身長を公開します。(私はきっと後悔します)


洵くん。

彼は171cm。目立ちませんよね。中途半端感がします。


弥生ちゃん。

可愛い。じゃなかった、147cm。わかり易くコンプレックス。小さい子は可愛いと思うんですよ!


須田きゃん。(くんとつけるかちゃんと付けるか悩みました。)

175cm。わーたかーい。コメントしづらいです、この子。


海斗のバカ。

168cm。割と低めだったりします。


青葉ちゃん。

159cm。女の子としては普通……でしたっけ。うろ覚えで申し訳ない。


園田くん。

176cm。地味に高身長をマーク。この子は今後目立つと期待しておきます。


ティエルちゃん。

157cm。こう見ると弥生ちゃんほんと小さい。


イケメン(くたばれ)。

178cm。ああ、たっかいなぁ。くたばれよ☆


絢さん。

170cm。女性としては高いですよね。まあ大人の方ですから。


菊池。

167cm。イメージ的に。


高成さん。

180cm。すらっと高いのです。


とりあえずはこんな所ですかね。

まだ出てないキャラもいるのでその辺りは随時公開と行きましょう。楽しみです、なんとなく。


●というわけでおまけ終。

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