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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode35 神崎邸

ついに弥生の家に御招待です。


心理描写多めです。ええ。


 車の中で、俺は困惑していた。

 弥生がすぐ側にいて、須田もいる。運転手はコワモテサングラスに黒いスーツを纏ったいかにもな感じすらしてくる人。

 この高級車には一度乗った事があるが、相変わらずくつろげる空間、といったようなフカフカで心地が良いものだ。

 しかし俺は真逆で、車によって引きずられているような気分だった。

 とてつもなく重たいものが背中に乗っかっているようで息もしにくい。

 弥生のお父さんに会う――

 何故か勢いに任せて二つ返事で引き受けてしまったが、これは今限りなく大変な状況だといえる。

 っていうか間違えなく俺殺られるよね?

 縁談を勧めていたくらいなのに、そこらへんの一般的な高校生が娘をたぶらかした……とか、きっとそんな所なんだろうな。

 間違いなく目の敵にされる気がして、一際大きく

 ため息をついた。

 弥生は一言も喋らない、須田も同じくだった。

 二人の関係が少しやわらいでる様子だったからそれはいいとしよう。

 今一番大事な事は、俺がどうするか。

 せめて執行前に、間違えているんだと言ってやろうか。どうせ終わるならもうヤケだ。

 俺は決意を固めて、もうすぐ着くであろうまだ行ったことがない弥生の家へと、わずかながらに揺られていくのだった。




 異様に広い、まさに広大と言える土地。長く広く立派に舗装された道路を車が走る。

 俺は目の前のとんでもない大きさの屋敷を見て唖然としていた。お金持ちとは知っていたにしても、ここまでとは聞いていない。まだたどり着いていないが、それでも大きさはこれでもかと伝わってくる。

 弥生が普通とは違うんだと改めて思った。

 話を聞いたところ、弥生のお父さんは神崎グループの会長の二代目であり、祖父から受け継いでグループをここまでのものに育てあげたという。今や国内、いや世界でも有数だとか言われるほどらしい。

 そんな人に今から会うというだけでも足がすくみそうだ。ましてや俺は絶対によく見られてはいないはずで。


 なんて思考にふけっているうちに車は広い駐車場に止まり、降りるように促される。

 車を降りて、改めて目の前にそびえ立つ屋敷を見ると、この世のものなのかと聞きたくなるほどだった。

 俺たちはゆっくりと屋敷の入口へと向かう。

 正直、落ち着けるはずもなく、動悸がして戸惑っている。

 大抵、相手方の親に会うというだけでも緊張ものなのに俺の場合はそれに色々なものが上乗せされているみたいなものだ。


「お嬢様、お帰りなさいませ」

「ええ、ただいま」

「こ、こんにちは……」


 重厚感漂う大きな両開きの扉を男が開けて待っていた。

 挨拶……のつもりだったが声がうわずって恥ずかしいことこの上なかった。


 扉を抜けると、広い空間で階段が両サイドにあり、中央辺りは奥の方があるようだ。

 何より広く、目を見張るような赤い綺麗なカーペットが床に敷かれており、数々の絵や壺などの芸術品が飾られている。そして、一番目を引いたのは頭上を照らすあまりに大きすぎるシャンデリアだ。燦然さんぜんと輝いていてこの広いロビーを満遍なく照らしている。紺を基調としたものに白いエプロンをまとっているような、まさにメイド服といった可愛らしいメイドさんが掃除をしていて、こちらを振り向いてニコッと「ようこそ、いらっしゃいませ」と挨拶をしてくれる。

 本物のメイドさんというのは見慣れないもので、はにかみながらも「お邪魔します」とだけ返した。

 これだけでもよくやったと言いたい。


「洵、ついてきて。須田は荷物を頼めるかしら?」

「かしこまりました、お嬢様」


 相変わらずのセーラー服の執事は、この場所にいることによりようやく執事なんだと実感してくる。

 いつもの服のせいだ、俺は悪くない。

 須田は弥生から荷物を預かり、俺の前に立ちはだかる。


「ほら」

「え?」

「あー……お前の分も持ってやるから。早く渡せ」


 いつも通りの威圧するような口調で須田は言った。


「あ、ああ……ありがとう」


 俺が鞄を差し出すと奪うようにして須田が持つ。


「では、お嬢様。私はこれで一度」

「ええ、お願いするわ」


 割と見慣れたような会話もここにいると違って感じられた。

 須田が先に荷物を持っていくのを見ていると、弥生がこちらを向いた。


「さ、行くわよ」

「あ、ああ……」


 弥生に導かれるようにして、俺は階段をのぼり、ロビーを抜けていく。長い廊下があり、壁に掛けてある芸術品が並んでいて、反対の壁の方には部屋が並んでいる。

 もうすぐ、会うことになる。そう思うだけで、体が強ばる感じがした。

 先導を切る弥生についていきながら、俺は少しばかり考え事に耽るのだった。



  ◆


 廊下を歩きながら、神崎弥生も洵と同じく考え事に耽っていた。


 ――本当は、巻き込みたくはなかったのに……。


 洵と距離を置こうとした理由。

 一つは戒めで、もう一つは……迷惑をかけたくなかったからだ。

 そう思っていたのに、こうなってしまった事を弥生は後悔していた。

 高成が洵を非難していて、それが許せなかった。


 ――洵は、そんな人じゃない。洵は……


 洵は……何なのだろう。考えてみたけど、良く分からなかった。

 高成が非難していて、つい「洵は違うの、話せばわかるわ!」なんて口を滑らせてしまった自分自身に嫌気がさしてくる。

 そのせいで、今こうなってしまったのだ。出来るなら、洵に頼らずとも……自分で、解決したかったのに。それなのに頑張ってみたつもりが、洵を巻き込んでしまったのだ。

 これには反省しているし、謝らなくてはいけない。

 しかし、素直に謝る勇気が弥生には欠けていた。


 終わったら、謝ろう。全てを、打ち明けよう。

 許してもらおうとは思わない、それでも。

 言う事に、伝える事に、意味があるのだから。

 それまで、もう少しだけ……強がろう。

 何の意味もないかもしれないけど、それが今の自分が出来る精一杯の行動だった。

読んでくださりありがとうございました。


弥生ちゃんの話もそろそろ、ですね。

あれ、これ何回目なんでしょう。


次回も読んでいただけたら幸いでございます。

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