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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode32 悩み

どうにか間に合いました。

これ予約してる時間が夜中の三時。

寝る前に予約しているので、どうにか……というのにふさわしいのです。


前回と前々回が一気に加速したところで少し減速。なんて。

ちゃんとコントロール出来てないんですよね。お恥ずかしい。


 大きな屋敷の個室の中でも特に広くて豪華な自室で神崎弥生は頭を抱えていた。


 変わろうとしたのに……変われない。

 家柄という壁が、弥生の目の前に立ちはだかっていた。

 前に何回かお見合いをさせられた事がある。

 みんな、優しくしてくれて気に入られようと必死だった。その優しさは弥生には見せかけなのが見え透いていた。

 彼らの目的は弥生ではなく、神崎グループの莫大な資産など。

 そのために一人娘の令嬢たる弥生にお近づきになり、それこそ結婚する事が出来ればその資産を受け継ぐ事ができる。

 そんな不純な目的は、言わなくても言葉や態度からにじみ出てくる。

 誰一人、本当に弥生を見る者はいなかった。

 そこで、ふとお金に囚われず一人の女の子として見てくれた優しい人を思い出す。

 ――やっぱり、失敗だった?

 しかし、あれは自分への戒めだ。利用なんて、そんな事を企んでしまった自分を許すわけにはいかなかった。そして、今になって……寂しさが弥生を襲っていた。

 洵は傍にいてくれようとしていた。どんな無茶苦茶だろうと文句を言わず。多少の下心が感じられたのはあるが、それでも資産だけを狙うような人とはわけが違う。彼らとは違い、弥生を見ていた。それだけで嬉しかった。

 だから、少しからかってみたりもした。その反応が面白くて……楽しかった。


「あれ……なんでかしら?」


 弥生の純白な頬に一筋の軌跡が描かれる。


「……なんで、なんで……?」


 自分でも何故かは分からないが、涙が、止まらなくなる。

 哀しい? 虚しい? 辛い? 怖い?

 涙の原因を考えてみるが、どれも違う。

 潤んだ瞳をハンカチで拭う。

 きっと、これは勘違い。疲れていただけ。分かってくれない高成への感情が溢れ出てきたのだ。きっと。


 弥生は一週間ぶりに、ふかふかのベッドに横たわる。

 シーツは綺麗に整えられていて、いい香りがした。

 住み慣れた部屋で、改めて帰ってきたんだと自覚する。さっきまでの凍りついたような時間は生きてる心地がしなかった。

 コンコン、とノックをする音がする。


「誰?」

「須田です」

「何の用?」

「お嬢様、扉はそのままで構いません。お嬢様は……どうなさるおつもりですか?」

「……そうね。もう少し考えるつもりよ」


 これは嘘だ。何があっても縁談を呑むつもりは無い。


「そうですか……。私は、お嬢様がどうなさるおつもりでも、ついていくつもりです」

「須田……ありがとう」

「いえ……それでは」


 それきり、須田の声は聞こえなくなった。きっと、部屋へ戻ったのだろう。

 嬉しい。表には出さないけど、そう心の中で呟いた。

 私は一人じゃない。それだけでも、なんだか気が楽になった気がした。ベッドに置いてある抱き枕をぎゅっと抱きしめて、弥生は安らかに眠りについた。





  ◆


 開けた異様に広くて長い廊下を小走りに進む。


「これで罪滅ぼしとは言わないが……私は、お嬢様の味方ですからっ……」

「あら……祐佳ゆうかちゃん」


 急に声がかかって、一瞬だけ戸惑う。

 目の前には菊池がいた。


「……名前で呼ぶのはやめてください、菊池さん」

「いいじゃない、せっかくの親がくれた名前なのよ?」

「……やめてください」

「もう、仕方ないわね。さ、これまでサボリ気味だった分、今から働いてもらうわよ」

「ええ、そんな……」

「あれだけおろそかにしていた癖に、言い返せるのかしら?」

「うっ……」

「はい、決定ね。じゃ、広間にきてね」


 それだけ言うとメイドは去っていった。

 弥生が出ていってから、須田は仕事が身に入らなかった。その分を代わりに他の方がカバーしてくれていたのだ。そう聞かされて断るなんてことは出来るはずもなかった。

 でもついため息というのは出てしまう。きっと、気が緩んでいるのだ。

 お嬢様の為に、頑張らないといけない。そう気張ったのに、すぐに音をあげたくはない。自分が忠誠を誓うお嬢様はきっと苦しんでいるのだから。

 軽く頬を両手でパチンとはたいて、気を引き締める。


「さて、まずは借りを返さなくてはだな」


 須田は再び小走りに、長い廊下を駆けていった。




  ◆


 夜が明けて、朝になる。

 今日は晴れ間があるのか、外が明るい。

 俺はというと、打って変わってとても暗い。


「はぁ……」


 ゲームを付けっぱなしにしてしまっていた。

 起きてから、もう数え切れないくらいため息をついている。

 ここまでメンタルにくるとは思ってもみなかった。

 なんというか、失恋、なんだろうか。良く分からないけど喪失感がする。

 俺じゃ元々関係なんて持てなかっただろう相手の恋人役を演じるのをやめて、友達に。

 あんな美少女の友達になれただけでもとてつもない儲けみたいなものなのだ。特に弥生は話したがるタイプでは無さそうだから、なおさらハードルは高いはず。そう思えばこれだけでも誇らしいものだ。

 それに、恋人役になる時に言った、自分自身よくも分からない条件は満たされている。

 友達になって欲しい。きっと、これは俺の心からの願いだ。

 それでいいじゃないか。少しの間、夢を見させてもらったんだ。

 気を取り直して、カーテンを開ける。朝の光が差し込んできて少し眩しい。

 いや、かなり眩しい。光が目に突き刺さるような感じがする。

 窓をあけて、太陽の方を直接見ないようにして向いてみるが、そこまで眩しいとは言えない。

 おかしい。

 俺は窓から少し乗り出して辺りをきょろきょろ見回してみた。


「……ああ、通りで」


 俺が納得したのはもちろん、鏡を持った人がいたとか、車の反射光だとか、そういうものではない。

 街を優しく照らす光をおかっぱの銀髪が様々な方向へと乱反射させている。 そして、雪のように白い羽が光に照らされてキラキラしている。空を飛ぶ、女の子。


「あ! 洵さん!」


 俺を見つけるとぱぁっと太陽に負けじと劣らぬ笑顔で、その子はばさばさと近付いてくる。


「青葉……朝からどうしたんだ?」

「いえ……弥生さんはいらっしゃいますか?」

「いや、いないけど……。何か用でもあったのか?」


 少し残念そうな顔をしている青葉はすうっとすぐそばまで近寄ってくる。

 眩しい。じゃなくて。


「まあ、少し……ですね。それにしても……」


 すたっと青葉は窓から部屋に入る。


「洵さん」

「な、なに?」


 急に呼ばれて、少しドキッとした。


「……そんな顔しないでください」

「どんな顔だよ」


 そう言って心配そうに見つめる青葉を気遣うようにぎこちなく笑ってみせた。

 すると、青葉は突然俺の頭を撫でる。


「無理してるのが見え見えですよ」

「……なっ……おま、撫でるな……」

「あ、照れてるんですか? 可愛い一面もあるんですね」


 茶化すように自然と笑う青葉。

 急に撫でられて照れるなという方が難しい。


「可愛いです。よしよし」

「いや、だから、やめろって」

「やめませんよ?」


 撫でてくる青葉の手を掴んで止める。


「ふえ!? は、離してください!」

「もう撫でないなら離す」

「分かりました、分かりましたから離してください!」

「交渉成立だな」


 青葉の手を離す。本音を言うと離したくないような気もしたが、何もなしで女の子に触れるような勇気は俺にはない。

 青葉は照れてるのかなんなのかはよく分からないがほんのり赤くなっている。


「むー……もういいです。帰ります!」

「え……待てよ。もう少しいればいいのに」

「私は怒りましたっ。帰りますから!」


 そう言うと青葉は踵を返して窓から飛び立っていった。どうやら怒らせてしまったらしい。

 そういえばもう飛ぶ事に抵抗はないのだろうか。確かに楽しそうではあるけど。乗るのは百歩譲っていいとしても、もう突っ込んでくるだけは勘弁だ。二度も被害に遭っただけあってもう懲り懲りだ。


「……はぁ、二度寝でもするか……」


 ため息をついて、いつも通りの日曜日の過ごし方の一つ、二度寝を敢行する事にして、俺はベッドへ倒れ込んだ。

お読みくださり、ありがとうございました。


主に苦悩やお互いの事の回となりました。

ついでに非番気味の青葉ちゃんもちらっと。


ここから茶番です。

(※ストーリーとは関係ありません。言うなら私のつまらぬ妄想です。見たい方はどうぞ。)


美少女に頭を撫でられたい。弥生ちゃんお願いします!


「は? 何言ってるのよ……ばかじゃない?」


デスヨネー。

というわけで青葉ちゃん。


「すみません……また今度、機会がありましたら……」


いえ、もういいです。ないですよね。


もう、こうなればティエルちゃん。


「何をほざいているのです? わたくしがあなたの頭を撫でるなんて、そんな事致しませんわ。あ、ファンクラブに入ればチャンスはありますわよ」


うっわ。軽くディスられた挙句、勧誘してきた。パス。


もう須田で。


「はぁ!? 何言ってんだ貴様! 私がそんなことするわけないだろう」


そこをなんとか。


「なっ……仕方ない、す、少しだけだ。ほら……」


ありがとうございます、って、男でした。

美少女じゃないですか! 何してるんですか!


はい、すみません。お茶濁しな茶番で申し訳ない。


というわけで、次回も読んでいただけたら幸いでございます。


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