Episode3 二人で登校
新キャラ登場です。
グダグダかもしれませんが、読んでいただけたら幸いです。
夜。薄暗かったさっきまでとはうって変わって、空を雲が覆っているせいで月も見えず、すっかり真っ暗になっていた。
今、俺は我が家の自室にいる。
俺の名前は 小波洵。よく、こなみとか言われる。間違えてはないんだ。でも違うんだ。
そんなことはさておき、俺は色々と考え事に耽っている。もちろん、さっきの事で。
今思えば自分でも意味不明な条件で、恋人役をとりあえず引き受けた訳だが……俺なんかにできるかも分からないし、理由も分からない。
それに演じなきゃいけないなんて……どういう状況なのだろうか。
チャラ~チャ~と、もう何のやつかも覚えてない着信音が聞こえる。少し前に流行っていたものだ。そういえば音出しっぱなしだった。いつもマナーモードにしてあるはずなんだが。
スマホには神崎弥生の文字。
あの金髪ツインテールのちょっと小さいお金持ちの美少女。
いきなりかけてこなくても……いや、何かあるのだろうか。さて、どうするか……女の子とろくに話したことがない俺に電話なんてな……とか考えてたら切れた。
「あ……」
音が止み、部屋に静けさが戻る。
やっちまったよ……。絶対怒られちまうよ、助けてへるぷみー。
とか思った途端に着信音が再び流れだす。
……怖い。
恐怖心と戦いつつも、俺は着信に応じた。
『何で出ないのよ!』
「……ごめんなさい」
『付き合ってるんだから、すぐ出るのが当たり前でしょ?』
少し怒った様子で神崎は話している。
いや、待てよ……なんかおかしいような。
でも変に刺激なんてしたら色々と危ない気がする。
「分かった……でも俺付き合ったことないし」
『え? 高校生なんでしょ』
「そうだけど……」
『はぁ……』
深いため息が電話越しに聞こえる。
どうやら呆れた様子なのが見えなくてもわかる。
悪いかよ……なくて。いいじゃないか。
『ま、上手くやってよね』
「ああ……でもどうすりゃい―」
ぷつ。
電話を切られてしまった。おーまいがー。
自分からかけてきた癖にやけにサバサバしている。
俺はため息をついてから、携帯を机に放るように置いてベッドに倒れこむ。
やれやれ……これじゃあ前途多難だな。どうなるんだろな、俺……とりあえず、頑張るしかないよな。
なんて不安で頭がいっぱいになりながらも俺は眠りについた。
朝。昨晩空を覆っていた雲はまだ残っているようだ。太陽は隠されそうになりながらもどうにか顔を出していた。
まだ六月なだけあって、朝は柔らかい暑さだ。
しかし、俺はそんな朝に関わらずハードな事になっていた。
「早く歩いてよ」
「そんな急がなくてもいいだろ」
急かしてきたのはお金持ちで金髪ツインテールの美少女、神崎弥生。今日のシュシュはピンク色だ。現実離れした金髪は光に照らされて眩しい。
彼女は俺が出かけようとしているときに来たのだった。
その後、慌てながらも準備を済ませ、どうにか落ち着いて今は登校中。
……朝からとか殺す気なのか。慣れないせいで女の子と話すのも辛いというのに。なんで引き受けた俺。
「神崎……学校に行かなくていいのか? 方向違うぞ?」
俺は中学校を指差して言った。
「バカにしないでよ……高校生よ」
「え!?」
神崎は睨みつけるようにしている。中学生に間違えられたのだから怒るのは仕方がないだろう。
マジかよ……いや、ほんと驚きだ。
これで高校生か。そうか、今気づいた……おそらく神崎が着ているのは高校の制服だと思うのだけど、今はそんな事なんて構ってられるほど落ち着けるようなものでもなかった。
駄目だと分かっても、つい視線が頭の辺りを見てしまう。
「小さくて悪い!?」
「……いえ」
先程よりもさらに怒った様子で言った。
怒られた。わかったかぁ。
それから神崎はちょっと不機嫌そうに続けた。
「それと、付き合ってるんだから……神崎じゃなくて名前で呼んでよ、弥生って」
「……や、弥生」
「それでいいから」
言い終えるとぷい、と前を向いてしまった。
て、照れる……
俺が付き合ったこともなくて慣れてないせいもあるが、なにしろ通行人という通行人が振り返るような美少女なんだから仕方ない。それに金髪は目立つのだ。
彼女が怒っている事と、恥ずかしくて声が出せなかったのもあり、少し無言の間が出来る。
試しに弥生の方を見てみるが半ば不機嫌そうなままである。
しかし流石に耐えかねて話しかけてみた。
「そ、そういやさ、弥生の学校ってどこなんだ?」
少しドギマギしながら言い切る。
く……やっぱり恥ずかしい。
しかしそんな俺などは眼中にないとでも言うかのように弥生は一切意に介していない。
「洵と同じとこ」
「……はぁ!?」
「何よ、悪い?」
憮然としたまま、さらに不機嫌を寄せ集めたような雰囲気の弥生。
いえ、問題ない……な訳無いでしょ、弥生さん。
ついでに、名前で呼ばれるのはこれまた恥ずかしい。恥じらい死とかなるんじゃないかな、そのうち。
「知らなかった……」
「知らなくて当然よね、一年だけで500人はいるんだし」
確かに、俺が通う私立桜沢高校は大きい。この周辺では一番と言えるほどの私立高校なのは間違いない。生徒数も多ければ校舎も大きく、設備も整っている私立高にしては異様に安い授業料で有名である。また学生寮もあり、県外からもここで学びたい、という生徒が来る程だ。
俺は専ら授業料で選んだタイプだったりする。
それだけ大きいにしても、こんな裕福そうな子は見つかるだろ、普通。今はいないようだが、メイドとかもいる。それにしても見慣れてるはずの制服なのに何で気付かなかったんだろう。灯台下暗し、みたいな感じだろうか。
パニクってたんだろうけど、少し落ち着いてきた今、自分でも信じられない。
「……来たわ」
「え?」
弥生の視線の先には、我が高校の制服の女の子。紫を帯びたような黒髪は短く整えられている。また、背が高いのが遠目でもわかった。
「あれがなに?」
「あたしの執事よ、一応」
一応って……
そう、感想を述べようとしていると、獲物を見つけた虎のようにその女の子が走ってきた。妙に速い。俺より速いかもしれない。いや、俺は特別早いわけではないが。中の中か中の下、そんなところだ。
決死の表情で駆けてきた女の子は息を切らすような様子もなく、ピタっと俺達の前で立ち止まった。
「お嬢様、その男は!?」
「付き合ってるの。それよりどっか行きなさいよ、この状況もわからないの?」
その子は聞いた途端、鬼のような形相でこっちを見つめてくる。それこそ目だけで殺せるのではないかというほどの目力と殺気のようなものが俺を震え上がらせる。
「そこの!」
「な、何だ?」
「お嬢様を傷つけたら沈めてやるからな」
ぐっと顔を寄せてそう言った。大きな黒い瞳にまつ毛も長い、小顔で可愛らしい感じだ。恐くなければモテそうなくらい整っている顔つきをしていた。
「わ、分かった……」
「早く行きなさい、バカ」
「お嬢様!? 酷い……」
とか言いながらその子は走り去っていった。
……走っていった先は俺たちが通う高校のようだ。どうやらアレも同じ高校らしい。
「予想以上に大変そう……大丈夫かな」
「話は上手くあわせて。それっぽく振舞えばどうにかなるでしょ」
……どうにかなると思うか?
なるはずないだろ。即答してやるよ。なんか既にお先真っ暗な感じがするんだ。
でも弥生に逆らうと、どうなるか分からない。ああ、怖い。
「とにかく! さっさと学校行くぞ」
「はいはい……遅いのは誰よ、もう」
弥生に指摘された事実はとりあえず無視する事にして、俺たちは学校へ向かった。
思っていたよりもずっと大変な事になりそうだ。甘く見ていたのかもしれない。付き合う、いや……仮の恋人を演じる事を。
可愛い子と一緒に居られるとかくらいしかそのくらいしか考えてなくて、何がどうとかまではあまり考えてはいなかった。
弥生と並んで高校へ歩きながら、俺はこれからどうなるんだろうとか思っていたのだった。
読んでいただきありがとうございました。
引き続き投稿していく予定です。