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どういうワケか、冴えない俺はお嬢様と付き合う事になりました。  作者: 月見里 月奏
第一章 どういうワケか、たくさんの出逢い
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Episode28 風邪と嘘

サブタイトルに悩んでばかり。

なんでこうも難しいのか……ため息が出そうです。

 あれから少しして、ようやく勇気を出して部屋を出た俺は弥生のために、とタオルなどを持っていこうとしている。

 ついでにこの前俺が買っておいた専門店が作っているという秘蔵のプリンを差し入れる事にした。

 この決断に至るまでには何分もかかるほど悩んだ。

 結局、さっきの謝罪の意を込めて――これで許せとは言わないが――弥生にあげることにしたのだ。

 さらば、プリン。また買うからそれまでおまえはおあずけだ。


 プリンを皿へ移し、スポーツドリンクを冷蔵庫から取り出す。

 そしてリビングにこれらを持っていき、一度机に置く。

 リビングの隅にある、どうやら若い日の母さんと父さんらしい写真が飾られた写真立てがぽつんと上に立っている小さめの棚の二番目を開ける。

 その中には風邪薬、冷却シート、解熱剤、咳止め、下剤などなどといった薬関連が入っていた。

 その中から風邪薬、解熱剤、冷却シートを取り出してプリンなどが置かれている机にそっと置く。


「うーん……」


 つい、ため息に似た息がこぼれる。

 一度に持てるような量でもない。

 と、そこでおぼんがあったことを思い出し、しばしキッチンを探し回った。

 ひっそりと置かれていたおぼんを見つけ、ホコリを拭き取る。

 それからリビングに戻ってプリン達をおぼんへ乗せ、弥生がいる部屋まで行く。


 ドアの前まで来て足を止めると、急に緊張が全身を駆け巡った。

 さっきの事があるせいで平然と入るなんて事は出来るわけもない。

 ちなみに、この部屋は念の為に、とかそんな理由で造られた部屋なのだが……結局特に使うこともなく、客人のお泊り用、みたいな部屋と化していた。

 中学の頃はよく友達をここに泊めていた。なんだかその頃が懐かしく感じる。

 あの時に比べたら今はなんて華やかなんだろう……弥生のおかげでそう思えるのだが。

 そうだ、なんで自分が“弥生のために”……などと思っていたのかが分かった。

 弥生はどうしようもない俺にチャンスをくれている。だから、だからこそ、その気持ちに答えたい……。

 そう心の奥で思っていたのだ。


 なんだ。それならこんなところで躊躇う理由なんてない。これも、俺ができる、弥生へのお返しに過ぎないのだから。


「弥生、入るぞ」


 返事も待たずに、ドアを開ける。

 なんだか少し熱がこもっている室内はとても静かだった。

 弥生のそばへ行くと、ベッドの上の布団の塊から寝息がする。

 どうやら寝ているようだ。

 なおさら取り越し苦労だったんじゃないか。

 なんて、思ってももう遅いのは分かっていた。

 弥生が寝ている傍らにおぼんを置いて、ベッドのそばに座り、そっと静かに寝ている弥生を……見たいが、布団の完全なガードによって寝息が聞こえるだけしか分からない。

 べ、別に寝顔が見たかった、とか、そんな……ふしだらな考えは一切無い。きっと!多分!


「弥生?」


 弥生に呼びかけてみる。

 しかし、反応はない。

 寝静まっている弥生の睡眠を妨げるのも気が引けるが、このままではプリンは乾燥してしまう。

 あげると決めたのだから美味しいままで食べて欲しい。

 俺のためじゃない、プリンのためにだ。

 ……なんて馬鹿げた事が俺の頭の中をぐるぐると回っている。

 ええい、鬱陶しい。


「弥生、プリンあるからさ、食べてくれ」


 もう一度呼びかけてみたが……弥生は一切起きる気配はない。

 それでも、布団から聞こえてくる安らかな寝息が俺を安心させてくれた。

 まぁ……いいか。

 ホッとして気が緩んだのか、気づけばベッドのかたわらで眠りに落ちていた。



  ◆


 ……なんでこうなっちゃったのよ、もう。


 布団の中の弥生は実は起きていた。

 洵が入ってくる、その時に慌てて布団にこもっていた。顔を見られたくなかったからだ。

 それから洵は遠慮なく入ってきて、何かを置いていたようだった。

 それから少し空いたのでてっきり洵がいなくなったのかと思えば、急に「弥生?」と声をかけてきて気が動転した。

 起きていることを悟られたくはない、そう思った弥生は生まれて初めてたぬき寝入りをした。洵はそれにまんまと騙され、諦めたようだった。

 もしかしたら才能があるのかもしれない。こんな才能、何に使えるかも分からないが。

 洵はもういないだろう、そう思って布団から抜けてみれば……この始末。

 静かになったのはもちろんだ。

 洵はベッドに体を預けるようにして座ったまま寝ていたのだ。

 こうなってしまっては何も出来ない。

 あいにくさっきまでずっと寝ていたのだから、そう簡単には寝れそうもなかった。

 さっきの事も眠れない一因ではあるが。


 ……仕方ないわね。もう少し布団にこもるかしら。


 弥生はそっとため息をついて、もう一度布団の中へ入る。

 そのうち本当に寝てしまい、たぬき寝入りの難しさを弥生は思い知るのだった。



  ◆



「……とさん、洵さん」


 どこか聞き覚えのある声、それに鈴の音……

 そうだ、青葉か。


「青葉……なんでここに?」


 俺がまぶたを開くと、相変わらずの綺麗な白い羽を持つ少女、小鳥遊青葉がいた。

 それにしても、気付けば弥生のそばで寝ていたなんて。


「そうですね……実は、街中を少し散歩していたところ、偶然洵さんのお母様に会いまして。弥生さんが熱で寝込んでいると聞いたものですから、すぐ飛んできました」


 青葉はなんだか少し嬉しそうに身振り手振りしながら話す。

 うん、可愛いな。じゃなくて。

 青葉が飛んできた、と言うと大急ぎで駆けつけた……という意味じゃなくて本当に飛んでいそうだ。

 未だに信じられないが、背中から生えるの白い羽は飾りではなく実際に飛べる。

 それは俺も弥生も体験したのだから間違いはない。

 本人曰く急に生えたもの、らしく青葉自身もまだまだ謎なようだ。


「えっと……弥生さんは?」

「問題は……多分ないよ。寝てるからよくわからないんだけどね」


 不安げに見つめていた青葉は少し安心したのか、そっと胸を撫で下ろした。


「良かったです……あ!」

「どうしたんだ?」


 青葉は急に何かを思いついたのか、頭上に電球でも浮かび上がりそうな顔をしていた。

 それから、俺の方を向いて。


「洵さん……少しお話が」

「……何?」


 青葉はチラッと弥生の方を見てから、俺の方へ向き直した。何故か、神妙な顔つきで。


「弥生さんについて……」


 そう聞いた俺はぐっ、と体がこわばる感じがした。

 青葉は、きゅっと口を固く締めて、ほんの少しだけ、間があく。


「洵さん、もしかしたら知っているかもしれませんが……私から、あなたに……頼みたい事があります」

「ああ……分かった」


 俺は固唾をのんで、青葉をじっと見つめ返した。

 弥生に出来る事があるなら。俺に出来る事なら……したい。いや、やらなくてはいけない。 そう心に誓って。

 青葉が、口を開いて言葉を紡ぎ始めた。

お読みいただき、ありがとうございます。


かなりゆっくり進んでおります。

なんでしょうか、そういう柄なのかもしれません。

描写得意じゃないくせに。


というわけで、次回も読んでいただけたら、これに勝るものはございません。

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